奪われた力
第73話 奪われた力 その1
「で、これからどうする?」
「とりあえずこのまま追い返しちゃいましょう」
芳樹と龍炎は、封印完了したこの巨大生物についての対応を相談している。この封印はただの時間稼ぎで、いずれは食い破られてしまう。だからこそ、ここにずっとおいて置く事は出来ないと言うのが龍炎の出した結論だった。
その言葉を聞いた有己は急に張り切り出した。
「よっしゃあーっ!任せろっ!」
上空に浮かんでいたはずの彼は一気に急降下して、封印状態のバケモノの至近距離にまで近付く。それから左腕を腰の辺りに落とし、右腕に闇の波動を溜め、その力を十分に収束させて闇のエネルギーの塊を右手を押し出すと同時に一気に放出した。
「闇波動・
「ギャグオオオオオオオ!」
封印状態で身動きの取れなかったバケモノはこの有己の攻撃をそのまま受けて、第7階層の次元の壁を突き抜けて吹き飛んでいった。それを目にした私は、思わず花火でお馴染みのあの掛け声を叫ばずにはいられなかった。
「たーまやー!」
ま、別に爆発はしていないんだけどね。吹き飛んでいったバケモノは次元の穴を突き抜けて、その後はどこまで飛んでいったか分からない。その後、次元修復機能が働いて、バケモノが突き破った次元の穴はみるみる内にまるで何事もなかったように修復される。こうしてひと仕事終えた有己は、額の汗を拭きながら軽く息を吐きだした。
「ふう」
「とりあえずの危機は脱しましたかね」
この一部始終を眺めていた龍炎も同じようにほっと一息ついた。私も彼を同じ感想を抱く。どうかもう二度とアレが私達の目の前に現れませんように。
と、現場がやっと平穏を取り戻しつつあったのに、不安を煽るような一言を芳樹が口走る。
「まだ油断は出来ねーぞ、あいつは自力でこの階層まで来たんだ」
「ですね。今の内にちゃんと対策は立てないと」
「おい龍樹!何とか出来ねーのか?」
彼は龍炎と話を合わせた後に、この状況の打開策を求めてハンターのリーダーに声をかける。今この場にいる中で一番頭が切れるのはやはり彼だろう。芳樹のこの人選は流石としかいいようがなかった。
って言うか、使徒とハンターが仲良くしているってやっぱりまだちょっと慣れないものがあるなあ。で、芳樹に話を振られた龍樹はしばらく腕を組んで思案をし始める。
「そうですね、流石にこのシナリオは想定外でしたので……」
「守りを固めるくらいしか出来ませんかね」
鬼島もまた地上に降りてきて、しっかりと龍樹のサポートをする。守りを固めると言うのは彼のアイディアだ。元々短気な有己はその案を聞き、すぐには行動に移さない彼らを見て、目一杯強い声で作業を急かす。
「じゃあ、それをやってくれ!早く!」
「分かっていますよ。それにもう実行しています」
よく見るとハンター本部のハンター達がバラバラに散って何やら儀式のような事をしている。きっとアレがハンター達の言う守りを固めるって言う事なのだろう。次元修復関連と言えば使徒の中では龍炎がお手の物だけど、この状況に彼の目は爛々と輝いていた。やっぱり好きなんだなぁ。
兎にも角にも、これでやれる事はしっかりやっているって事だよね。私はようやく肩の力を抜いてため息をひとつ吐き出した。
「良かった。これで本当に一安心だね」
ハンター達の作業によって次元壁の強化が進む中、束の間の安息の時間が訪れる。みんな背伸びしたりストレッチをしたりと今後の不測の事態に備えていた。
そんな中、とある重要な事に気付いた有己が軽くスクワットをしながらその懸念を口にする。
「でも考えてみたら奴を倒してないんだから、問題を先延ばしにしただけじゃねーか」
「ですから、私達はその先の事を考えましょう」
先延ばしについてはみんな十分認識しているようで、今の内に迎撃の対策を立てるべきだとこの場にいる全員がそう思っていた。とは言うものの、率先してこれに対応出来る手段を思いつく者は誰ひとりいなかった訳で――。そうして長い沈黙の時間が訪れる。
このままずっと誰も意見を出さないのは時間の無駄だと、龍炎は率先してみんなに対して意見を促した。
「じゃあ、何かいいアイディアを持つ人はいませんか?」
「……」
話しかけたところで、何もアイディアを持っていなければ言葉が返ってくる事はない。またしても波が寄せて返すように同じ沈黙が戻ってきて、痺れを切らした有己が何かのきっかけにでもなればと、ハンター側に情報の提供を求めた。
「それより奴らの正体を知っているだけ洗いざらい話せ!話はそれからだ!」
「そうですね、敵を知り己を知れば百戦危うからずです」
彼の意見に龍炎も賛同する。私も知りたいよ。あの謎の敵は遠い外国の研究組織が作った生物兵器だって事は何となく分かったけど、それ以上の事はさっぱりだもの。ハンター側は何か情報を掴んでいるみたいだし、やっぱりここは情報を共有しないとだよね。
有己の言葉を受けて、この件に関してかなりの事を知っているであろう龍樹は、腕を組んでキョロキョロと視線を泳がせる。
「うーん、どこから話せばいいかなぁ」
「だ・か・ら!最初から最後までだよっ!」
この彼の一向に煮え切らない態度に有己がキレた。うん、行動パターンが分かりやすいな。急かされた龍樹は何か閃いたのかポンと手を打った。
「流石に最新のアイツの情報までは掴んではいないんだけど、君達が浜辺で退治した奴までの情報で良ければ」
「それで構いません。そこから突破口が見つかる可能性もありますし」
「そうだそうだ、早く話せ」
龍樹の提案に龍炎と有己が同意する。それならばと彼が口を開きかけると、さっきの有己の言葉遣いを聞いた鬼島の堪忍袋の緒が切れていた。
「貴様、我が当主に向かって度が過ぎるぞ!少しは言葉遣いを……」
「いいよ。私はそう言われるだけの事をしてしまっている」
「は、失礼しました」
当主がそれでいいと言う以上、鬼島はそれに従うしかない。彼は龍樹にペコリと頭を下げると、邪魔にならないように一歩後ろに下がった。
この様子を見た使徒達は頭を掻きながら場が収まるのを持つ。
「何だか調子が狂うな、マジで」
それから数分後、何となく話の聞ける状態になり、龍樹はここで自分達が知っているラボについての情報を語り始めた。
「事の発端はある論文からでした……そこには海外の使徒に相当する精霊についての科学的な分析で分かった事が書かれてあったそうです」
「え?海外にも使徒っているの?」
彼の言葉に私はつい反応する。使徒って、闇神様関連の存在だけだと思っていたから。このイレギュラーな反応にも龍樹は丁寧に答えてくれた。
「研究対象は飽くまでも精霊です、大神の眷属である使徒とは少し立ち位置は違いますね」
「いいから話を続けてくれ」
話が脱線しそうな雰囲気を感じた有己は、そうなるのを防ごうと先手を打った。
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