第60話 裏切りの真相 その3

 この突然の発言に龍炎と芳樹が彼の方に顔を向ける。有己もまた彼らの方に顔を向けて真剣な顔で話を続ける。


「芳樹、お前俺達を裏切ってたって話があるんだが」


「有己、こんな所で……」


「今じゃないと話せねーだろうが!」


 その話を龍炎は止めようとしたけど、それが逆に有己の逆鱗に触れて逆ギレされる。話を聞いていた芳樹はため息をひとつ付いて言葉を返した。


「何かと思ったら……そんな事か」


「そんな事……だと?」


 この芳樹の反応に有己の眉毛は釣り上がる。それは当然だろう。使徒とハンターは本来敵対関係にある。芳樹とハンターが何らかの繋がりを持っていたとするなら、それは使徒にとって重大な裏切り行為に他ならない。


「確かにハンター創設当時に奴らと接触した事はある。それを裏切りだとは思っていない」


「てめっ!」


「有己、落ち着いて!」


 芳樹の独白に感情を高ぶらせた有己はいきり立った。騒ぎを起こすまいと龍炎がそんな彼を必死で止める。そんな2人を横目に芳樹の独白は続いた。


「あの頃は使徒が暴走していた。止める為には人間側の組織も必要だと思ったんだよ」


 今にも殴りかかろうとする有己を押さえながら龍炎がこの芳樹の言葉に言葉を返す。


「では芳樹がハンターと言う組織を作ったと?」


「俺が作ったんじゃない。そもそもは人間が作ったものだ。俺は少し手を貸しただけに過ぎない」


 淡々と話す芳樹の言葉を聞きながら、少しずつ落ち着いてきた有己が自身の考えを口にする。


「成程、色々辻褄が合って来たぜ。だから今まで顔を見せなかったんだろ!顔を出せる訳がないよなあ!」


「だとしても今回は協力してくれている、何故ですか?」


 興奮している有己とは対象的に龍炎は冷静にその話から推測される疑問点を指摘した。この言葉に対して芳樹はその理由を顔を合わせずに語る。


「我が主がこちらの手に戻ったからな……」


「芳樹は我々の知らないところの事情も御存知で?」


「ああ、知ってる……」


 芳樹の意味深な喋り方にムカついた有己は龍炎が止めるのも聞かずに声を荒げた。


「じゃあ話せ!今から洗いざらい知ってる事を全て!」


「今はその時じゃない。時が来たら話す」


「そうやって誤魔化すんじゃねーぞ!」


「誤魔化すもんかよ」


 この話し方から見て、芳樹にはまだ現時点では話せない秘密があるらしい。その事についても有己はご立腹のようだった。

 けれど、いくら語気を荒げた所で効果はまるでないみたいで、2人から顔を背け窓の外の景色を見ながら返事を返す芳樹の顔は、まるで来るべき時をじっと待っているみたいな達観した雰囲気を醸し出していた。


 そんな半ば修羅場っぽいやり取りを知らない私は、足りなかった寝不足分の睡眠をしっかり補充出来た所でパッチリと目を覚ます。


「うぅーん!よく寝た!」


「話が主とは話せましたか?」


 目を覚ました私にすぐに反応したのは有己を押さえていた龍炎だ。私は今の使徒達の状況がイマイチよく理解出来ていなかったけれど、取り敢えず背伸びをして意識を覚醒させると苦笑いをしながら返事を返す。


「うん、熟睡してたから夢は見なかった」


「ち、役立たずが……」


 私の返事に不満を漏らした有己の言葉に私はカチンと来た。それで押さえきれない感情をそのまま口に出す。


「何ですってえ!」


「お、落ち着いて!2人共落ち着いて下さい!」


「ふん!」


 何だか有己はずーっと怒りっぱなしみたいな雰囲気だった。私はその理由を分からないまま、自分に向かられた理不尽な仕打ちに納得出来ないでいた。

 そんな中、私と有己のやり取りを横目でクールに眺めていた芳樹が一言ポツリとこぼす。


「本当、ガキだな」


「見た目がガキのヤツに言われたかねぇ!」


「あ?」


 芳樹と有己もまた一触即発っぽい雰囲気になっていた。これって多分有己が一方的に興奮してるんだよね?全く血の気が多いと言うか何と言うか……。

 この状況に対して間に挟まれた龍炎が喧嘩に発展する前に必死で仲裁を試みている。4人の中でストッパーは彼しかいないから大変だなぁ。


「こっちもどうか落ち着いて!」


 困り切っている龍炎の姿を見ていた私は何とか彼をサポートしようと一計を案じる。いい案がないかと考えを巡らせていると、ちょうど胃袋が主張をし始めたので、これ幸いにと得意げに自説を展開する。


「そうだ!お腹空いているから怒りっぽくなるんじゃない?そろそろお昼だし」


「そうですね!そろそろそんな時間ですよ!」


 すぐに意図を察した龍炎が私の言葉に乗っかった。こうして議論は一旦終了し、楽しいお弁当タイムへと移行する。さっきまで怒り狂っていた有己も食事となれば大人しくならざるを得なかった。流石元祖腹ペコマンだね。


 不満そうな表情を隠さないまま、それでも彼は私の隣の席に座り直すと、車から降りた時に渡されたお弁当をテーブルの上に乗せて食べる準備を始める。私も同じようにお弁当を出して早速口を開いた。


「いやぁ~。お弁当も持たせてくれて良かったよね。駅弁の旅も捨て難かったけど」


「本当、芳樹さんには頭が上がりません」


 私の言葉に龍炎が便乗する。私達の精一杯の感謝の言葉に芳樹は表情ひとつ崩さずに返事を返した。


「いやいや、このくらいは当然だからな」


「けっ」


 彼の態度が気に入らなかったのかまた有己が悪態をつく。それを見た私は思わず有己を注意していた。


「ちょ、有己っ!」


 そんな多少ぎこちないランチタイムではあったけれど、その後は会話こそないものの、険悪な雰囲気は収まって私達は黙々と食事を楽しんだ。

 やがて少し精神的な余裕も出て来て、私は食べながらみんなに向かって話しかける。


「流れる景色を見ながらのお弁当はいいね。旅って気がする」


「しおりさんは新幹線の旅は?」


 私の言葉に龍炎が反応する。隣りに座っている有己はずっと無愛想なままだ。そんな彼を無視して私は龍炎との会話を楽しむ事にする。


「修学旅行でも乗ったから今日で3回目?」


「こう言うのもいいものですよね」


「うん!」


 やっと平和な会話が出来て私はほっと胸をなでおろした。やっぱり食事の時間は楽しくないとね。

 と、ここまで話してこのお弁当の感想を言わないのも失礼だと思った私は龍炎の隣の座席にいる芳樹に聞こえるように声をかける。

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