第59話 裏切りの真相 その2

 そんなミニコントを挟みながら、まずは新幹線が停まる駅まで通常の特急で向かう。ホームで待っていると程なくしてその電車がやって来た。

 ドアが開いてまずは中の乗客がぞろぞろ通りてくる。それから自分達が乗り込む番になり、有己が気合を入れるためかいきなり声を張り上げた。


「行くぞ!」


 私は若干の恥ずかしさを感じて思わず他人のふりをしながら電車に乗り込む。全く、少しはここが公衆の面前だって事を意識して欲しいよ。

 乗り込んだ車内はラッシュの時間帯を過ぎたばかりでどこでも好きな場所に座れるくらいに空いていた。って言うか指定席なので迷う事もないんだけど。


「平日のこの時間は空いていていいね」


 私はそう言いながら指定された席に着く。するとすぐ近くに座った有己からツッコミが入った。


「朝の通勤時間以外はこんなもんだろ、田舎だし」


 その言い方に私は何かバカにされた気がして思わず反撃する。


「降りる駅、間違えないでよね」


 すると彼は顔を真赤にしながら声を荒げた。


「お前まで馬鹿にすんのかよ!間違えねーよ!」


「てへ」


 別に喧嘩をするつもりはないのでここで私は軽く舌を出す。この行為で有己は白けたのか会話はそこで一旦終了となった。それから電車は順調に線路を走り、私達は思い思いの行動をしていた。芳樹は何かの本を読んでいて、有己はふてくされてまぶたを閉じている。私と龍炎は列車の旅のお約束として窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。


「車窓からの景色がいいですねえ」


「闇の道は外が見えなかったもんね」


「やっぱり旅は景色を眺めてこそですよね」


 流れる景色を眺めるのはいい気分転換になっていた。特急電車のスピードって遅過ぎず早過ぎずちょうどいい。目に映るのは見慣れた景色のような全然知らない景色。この不思議な感覚が非日常を演出してくれる。そうして私達を乗せた電車は目的の駅まで何の問題なく進んでいった。


「ほら、ここで乗り換えだよ!」


「ほえ?」


 新幹線に乗り換える駅に着いてみんなが席を立つ中、ひとり微動だにしない有己の体を私は揺さぶる。何度か強く揺さぶってやっと彼は目を覚ました。

 全く、この特急に乗っている時間は30分かそこらしかないのに、そこで熟睡してしまうなんてどうかしているよ。私に起こされている様子を見て芳樹が皮肉交じりに有己に声をかける。


「良かったな、引っ張ってくれる人がいて」


「くっ……」


 悔しがる有己の腕を引っ張って私は電車を降りる。それから乗り換えの為にホームを移動した。階段を登って反対側の乗り場に移動する間、彼は一言も口を開かなかった。まぁ、機嫌は悪いのだろうけど、下手に言い合って喧嘩になるくらいなら黙っていてくれた方がいいね。

 そうして新幹線が到着する乗り場に移動した私はすぐに時間を確認する。すると私より先に有己が口を開いた。


「東京行きは……10分後か」


「ちゃんと乗り遅れないでよね!」


 並んでいるんだから普通に考えて乗り遅れる訳はないんだけど、何かひとこと言いたくなった私はつい彼に小言を言ってしまう。言われた方の有己は少し面倒臭そうに返事を返した。


「だから、馬鹿にすんなって……」


「寝過ごしそうになった癖に」


「だっ、もう起きてるんだから大丈夫だっつーの!」


 真っ赤になって反応する有己が軽く殴る振りをする。私は彼のアクションに対して少し大袈裟に怯える振りをした。このやり取りを見ていた龍炎はニコニコと笑いながらポツリとこぼす。


「平和ですねえ」


「これから敵対組織に殴る込みに行くとはとても思えねーな」


 龍炎の言葉に芳樹も呆れ顔で同意していた。まだまだ現地には程遠いからあんまり実感がないんだよね。このままこの平和な時間が続けばいいのにな。

 しかしそんなのんきな希望が叶うはずもなく、やがて時間が来て新幹線がホームに滑り込んだ。日本の鉄道、とても優秀。1分のズレもなし。


「お、来た来た」


 来てしまったのだから乗らねばならない。私は意を決していざ鎌倉とばかりにその高速移動する流線型の鉄の箱に乗り込んだ。チケットの席の番号を確認しながらあてがわれた席を探す。車内は流石に新幹線だけあってさっきの特急よりは席が埋まっていた。こりゃ、あんまり騒いで迷惑にならないようにしなくちゃだね。


「えっと、私達の席は……」


 私が席を見つけてそこに座って落ち着いていると、その隣に有己が座って来た。指定席だからね、仕方ないね。それでもつい気になった私は改めて彼の顔をじっと眺めてしまう。


「何だよ……」


「な、何でもないよ!」


 お互いに見つめ合う形になって何だか気まずくなってしまった。私はそうなってすぐに視線を窓の外に移す。東京に着くまでずっとこのままかと思うと変に緊張してしまう。なにしろ今は4人で新幹線に乗っている訳で。通路を挟んで反対側にもう2人座っている訳で。何か誤解とかされたりなんかしないかなとか余計な事も考えてしまう。このチケットを渡してくれたのは芳樹だったけど、まさかここまで計算して?いや、まさかね。


 乗客を全員乗せた新幹線はやがて静かに東京に向けて走り出した。走り出してすぐに芳樹が有己に聞こえるように声をかける。


「後は東京まで乗換なしだからじっくり眠ってもいいぞ」


「ばっ、絶対寝ねぇ!」


 やはりと言うか予想通りと言うか有己はその言葉に過剰に反応した。それからも彼は小声でブツブツと何か言っていたものの、変に突っ込むととばっちりが来て面倒臭そうだから私は眠った振りをして誤魔化す事に決める。東京まではちょっと長いからね。


「すーっ」


「こいつ、眠りやがった」


 最初こそ眠った振りだったものの、今朝殆ど眠れなかった事もあって私はすっかり熟睡してしまう。私の眠った後は周りの使徒が何かその事に対して感想を述べあっていたけれど、眠ってしまった後の事なので誰の言葉も私の耳には届かなかった。


「いい寝顔ですね」


「寝かしといてやれよ。今の内に」


 私が眠った後、しばらくは使徒3人の間に特に会話らしい会話はなく、静かな時間だけが流れていた。新幹線が東京駅に着いたらもう計画は最終段階に入る。だからこその緊張感をお互いが感じていたのかも知れない。

 そんな重い沈黙の流れる中で、突然有己が喋り始めた。


「ところでよー」

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