反撃
第55話 反撃 前編
「さて、行きましょうか」
「え?もう?」
使徒3人の話がまとまった所で、いきなり龍炎が出発しようとして私は焦ってしまう。いくら何でも話が性急過ぎるよ。だってさっきまであんなバトルしていたんだよ?
私がこの事態に焦っていると有己が呆れたように声をかけて来た。
「善は急げだろ!」
「明日にしない?みんなボロボロじゃん」
「俺は別にどっちでもいーけど」
折角私が気を利かせて休ませてあげようって言ってるのに、一番消耗しているはずの有己がまるで他人事のような返事を返す。あれだけやられていたのにもう回復したって言うんだろうか。だとしたら使徒の回復力、恐るべしだよ。
私が想像通りに話が進まなくて困っていると、幻龍も有己側の立場になった発言をする。
「ハンター側が弱っている今がチャンスだとは思いますが」
「弱ってるか?」
この言葉に疑問を呈したのは3人目の使徒、芳樹だった。お、これは彼が味方になるフラグかな?そしてこの芳樹の疑問に龍炎が答える。
「この間も随分手練を倒しましたので」
「ばっかおめー、本部の守りは変わってねーだろ。田舎の支部の戦力が落ちた所でビクともしねーよ」
「それもそうですねぇ」
幻龍と芳樹はお互いに持論をぶつけ合い、結果、芳樹の意見が勝利する。それにしてもこの芳樹って使徒、口が悪いなぁ。龍炎が論破されて誰も喋らなくなって数分後、何かを思い出したように芳樹は手を叩くとおもむろに口を開いた。
「よし、お前ら今日は俺んちに泊まれ。そこで作戦会議だ」
「え?どこに住んでるの?」
「来たら分かる」
芳樹の提案について私が声をかけると彼は具体的な事を何も答えてはくれなかった。それはわざと答えないのか、それとも答えられないのか。
そのはっきりしない態度から私は思わず彼にツッコミを入れてしまう。
「何だか怪しいなぁ」
「ボロっちい長屋とかだったら笑ってやる」
私のツッコミに便乗して有己も悪乗りして言葉を続けた。
「有己、悪趣味ですよ」
彼の言葉を龍炎が諌めると、突然芳樹が歩き始めたので、みんなぞろぞろと彼の後を付いていった。そのまま街のハズレの海岸から街の中心部に向かって歩いていく。何もない牧歌的な風景からどんどん建物が増え、ぽつぽつと高層ビルが見え始めた頃、どこに向かうのか不安になって来た私は思わずこぼした。
「何だか街の中心部に進んでるんだけど」
「ここら辺に住めるような場所があったか?」
私の言葉にまたしても有己が追随する。不安がっている2人の様子を振り向いて確認した芳樹は呆れ顔で声をかけて来た。
「お前ら、普段はどんな生活をしているんだ?」
「私は普段は闇空間に居を構えていますが」
彼の質問に最初の答えたのは龍炎だった。闇の空間に住んでいるってちょっとかっこいいよね。彼が話したので次は自分の番と有己が口を開く。
「俺はその日その日で違うかな。あ、お前もその口か?」
「アホと一緒にするな。もうすぐ着くぞ」
有己の質問を軽口で軽く交わすと芳樹は大きくて立派な建物の前で止まった。そこはこの街で一番大きなホテルのようだ。あまりにも立派だったので無意識に芳樹以外の3人はその建物を見上げる。こんな高級そうなホテル、私は一度も入った事ないよ。
まるで海外のセレブが泊まるような、見た目からしてゴージャスオーラが漂っているそのホテルに向かって芳樹は躊躇なく歩いていく。あまりに場違いな気がした私はついツッコミを入れた。
「ちょ、ここ?」
「どうやったら使徒がこんな所に住めるんだよ」
有己も同じ事を考えていたみたいで、私が思っていた事そのものをそのまま口に出していた。ホテルに堂々と入りながら芳樹は当然のような態度で私達の質問に答える。
「俺はここのオーナーだからな。融通が効くんだ」
「マジで?」
私は彼の言葉に鳩が豆鉄砲を食らった顔になっていた。使徒が街一番のランドマーク的なホテルのオーナー?一体どんなからくりがそこにあるんだろう?
疑問に思ったのは有己も同じだったみたいで、訝しみながら口を開いていた。
「まさか、資金は……」
「色んな所から転がり込んでくるぞ」
芳樹は一切悪びれもせず、サラッとそう答える。その色んな所というのは表向きに答えられないそう言う部分もあるのだろうか。私がその資金源についてたくましく妄想を働かせていると、龍炎が感心したように感想を口にした。
「流石です。成功者ですね」
俄然芳樹に興味を抱いた私はホテルのフカフカな絨毯の上を歩きながら質問を続ける。
「会社とか経営してるの?」
「まぁ、色々だよ」
彼は大事な事は一切具体的な説明はしなかった。それがまた怪しげで胡散臭くて――でも見た目小学生の使徒がそう喋っているのであまり怖い風にも聞こえず、やり手の天才小学生と言う雰囲気で何故か逆に信頼出来る雰囲気を漂わせていた。
これらの話を聞いて他の2人の使徒はそれぞれ芳樹についての印象を口にする。
「金の出所が一切表に出ない地元の闇の支配者ってところか」
「まさに闇神様の使徒としては相応しい働きです」
私達はそれから促されるままに立派なエレベーターに乗り込み、そのままホテルの最上階へと案内される。エレベターからは外の景色が見えるようになっており、段々視界が上空に登っていく感じは自分の体が急上昇しているようにも感じられ、結構気分が良かった。
エレベーターが最上階を示すと扉は音もなく開き、立派な内装の部屋が私達の視界に飛び込んでくる。
「さあ、ついたぞ」
そのまま歩いていくと、このホテルのいかにも訓練されたような立派な身なりのコンシェルジェが私達を出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「うむ、客人の世話を頼む」
「かしこまりました。では皆様、どうぞこちらへ」
ベテラン執事のような彼に導かれて、私たちは外の景色が見える応接室に案内される。私はこんな高級ホテルに入るのも初めてだったし、そのホテルの最上階に来るのもまた初めてだったので、もうどうしていいのやら頭の中がパンクしそうだった。
「全く別世界だよ……ねぇ、私達場違い過ぎない?」
「馬鹿、ここは当然のように振る舞っていればいいんだよ」
テンパる私を前に有己は役に立つような立たないようなアドバイスをしてくれた。そう言われてそれを素直に実行出来るならこんなに困ってないよ。
続けて龍炎も彼と似たような事を私に向かって口にする。
「そうです。立場上はしおりさんが一番偉いんですよ」
「でも……全然慣れないよ。服もこんなだし……ああ、段々恥ずかしくなって来た」
使徒2人はこの状況をすんなりと当然のように受け入れていた。ああ、私も彼らみたいない図太い神経が欲しい……。
「ったく、お前は器が小さいな~」
「どうせ小市民ですよ!」
有己のバカにするような言葉に私はツッコミを入れる。このやり取りで私の緊張もいくらかは解れていた。
「こちらでしばらくお待ち下さいませ」
目的の場所についた私達はその部屋の豪華さに揃ってため息を漏らす。まるで王宮の一室のような豪華さに私は頭がくらくらする。
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