第54話 最後の使徒 後編
有己にずっと現れなかった事へのツッコミを入れられた芳樹は、小学生のような返事を返す。あれ?もしかして子供なのは見た目だけじゃないっぽい?
「精神年齢も見た目通りなのかな?」
「すみません……」
私のこの彼に対するツッコミに何故か龍炎が謝っていた。うーん……この3人、相性があまり宜しくないような気がして来たぞ。大丈夫かなぁ。
そんな訳で、前途多難ではあるものの、目的の3人が全員揃ったと言う事で龍炎は手をパチンと叩いてみんなに向かって声をかける。
「でも、これで3人揃いましたね」
「おう!」
彼の宣言に海から上がった有己が調子よく返事を返す。さあ、これで出発だと勢いをつけようとした所で約一名、不機嫌な顔をした使徒がいた。
「待て待て待て、お前ら、俺をなし崩し的に巻き込もうとしてないか?」
「何だよ?何か不満か?」
不満げな言葉を漏らす芳樹に有己が食って掛かる。やばいよ!もしかして喧嘩とか始まっちゃう?仲間同士で争ってどうするのよもうー!
「お前らは何がしたいんだ?ハッキリ話してくれよ」
「ハッキリって……マジで言ってんのか?」
「もう闇神様の器はこっちにあるんだ。目的は達成しているだろうが!」
芳樹が言いたいのはつまり使徒の目的は闇神様の奪還だからもうその目的は達成されていると、どうやらそう言う事らしい。まぁ、確かにそれも一理あるねえ。
私が腕を組んでその意見にうんうんとうなずいていると、逆にその言葉にキレた有己がツバを飛ばしながら反論する。
「はぁ?俺達を狙うハンター共を野放しのままにしておいて何が目的達成だ」
「ハンター本部を潰そうって言うのか?」
「当たり前だろ?ビビってんのか?」
売り言葉に買い言葉と言うか……お互いの言葉にそれなりの説得力がある分、この場をうまく納めるのは難しそうな感じだった。今までの旅は有己と龍炎がうまく足りない部分を補う感じでプラスとマイナスだったから一度も言い争いなんて起こさなかったけど、そっか、反発する意見が出たらそれをうまく調整しなくちゃいけないんだ。何処かに折り合いがつきそうな妥協点が見つかるといいんだけど……。
今にもどちらかが勢い余って手を出してしまいそうな程目から火花を散らしている2人を前に、調整役の龍炎がこの場を何とか治めようと声をかける。
「まぁまぁ……」
「あのさ……私もよく分からないんだけど、ハンターにずっと狙われるのはやっぱ違うとは思う。潰すとかは過激な気もするけど……」
私も喧嘩とかは嫌だから自分なりの意見を出して2人の興奮を冷まそうと試みた。
そんな状況の中、芳樹は有己を前に先に言葉を投げる。
「さっき襲って来たのはそもそもハンターじゃないし」
「さっきのは違いますが、これまでも随分襲われているんですよね」
ここでまた話がよじれるのを危惧してか、その言葉には龍炎が先に答える。出鼻をくじかれた感じになった芳樹は話を切り替えた。
「でもお前らそんなハンター共をぶっ倒して来たんだろ?」
「って言うか芳樹、何でお前はハンターと戦わずに逃げてばかりいたんだ?仲間がどんどん倒されていたのに」
ここで今度は有己が芳樹の今までの行動について責立てた。突っ込まれた彼は一瞬言葉をつまらせ、ため息をひとつ吐き出すと、ひどく落ち着いた声で独自の考えを口にする。
「……弱い奴が倒されるのは道理だろ?同情なんかしねぇぞ」
「てめっ!」
彼のその言葉をハンターに倒された仲間達への侮辱だと感じた有己は、感情を抑え切れずに突っかかる。対する芳樹もまたその攻撃を受けようと戦闘の構えを取った。この危機的状況を止める為に龍炎は声を荒げる。
「2人共落ち着いて!喧嘩はやめてください!」
「じゃあお前はどうするって言うんだよ?まさか俺らを止めるってんじゃねーだろうな?」
怒りを抑えきれない有己は戦闘の構えを取ったままの芳樹に荒っぽく声をかける。
「別に止めはしねーよ」
「じゃあ、一緒に来てくれますか?」
自分達の行動を止めないと言う芳樹の言葉を都合良く解釈した龍炎は、ニッコリと笑って彼に訪ねた。流石にこの展開は予想出来ていなかったのか、呆気にとられた彼は構えを解いてその言葉を聞き返す。
「俺が?」
「私からもお願い、2人じゃ厳しいの」
意外な展開に動揺している今がチャンスだと、私も旅に同行してもらうように言葉で彼の背中を押す。その言葉に自分が頼られていると実感した芳樹はしばらく頭の中で思案を重ね、頭を掻きながら半ば諦めたように返事を返した。
「しゃーねーなぁ……」
こうして、ついに使徒は3人揃い、本格的にハンター退治へと向かう事となった。芳樹の力は未知数なものの、あの怪獣をあっさり倒したその実力は紛れもなく本物だろう。彼ならあの強敵の鬼島ともいい勝負が出来るかも知れない。
今日はもう遅いと言う事でハンター本部に向かうのは明日の早朝と言う事になった。
この戦いがうまく行けば、平和な学校生活が戻ってくるんだ。もうすぐ開放されると言う希望だけが今の私の心を支えていた。
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