第31話 新しい仲間 後編

「はは、確かに表現が過激でしたね」


「冗談……だったんですよね?」


 冗談だと思いたい私は更に念を押して彼らに話しかける。怒りのあまり過激な行動に走って最悪の事態になるのだけはゴメンだった。相手は化物じゃない、私と同じ人間なのだから。間接的にでも人殺しの片棒をかつぐだなんて冗談じゃないよ。

 私の言葉を聞いた有己は妥協案として考え得る中で一番穏便な結果を口にした。


「ま、少なくとも俺達を襲わないようにはさせなくちゃだな」


「それは当然ですよ」


 有己の言葉に龍炎も同調する。まぁ、身の安全はどうしても保証してもらいたいところだから、それなら私も賛成だよ。

 でもそれって実際の所、実現可能なんだろうか?戦力差から考えても結構難しい気がする。


「って言うか、あの鬼島って人すごく強かったよ。ハンター幹部がみんなあのレベルだったら」


「あーそれはない」


「ないですね」


 私の意見を2人は揃って否定する。しかも両者共に軽く小馬鹿にしたような否定の仕方で。何よそれ、軽くイラッと来たんですけど。私は心に浮かんだその感情を押さえつつ、確認の為にもう一度聞き返した。


「え……っ?」


「アイツだけが特別なんだよ」


「彼だけ気をつければハンターの幹部と言えども倒せない相手じゃない……はずです。確実な事は言えませんが」


 2人の意見を統合すると、どうもあの鬼島ってハンターだけが別格で強いらしい。私は何故そうなのか聞いてみた。


「何であの人だけ特別なの?」


「彼は"適合者"だからですよ。潮見家の一族の中でたまに出現するんです。彼の持つ神器は適合者にしか使えません」


 この質問に答えたのは龍炎だった。彼は解説担当キャラなのかな?それはそうと適合者って――何だか中二っぽいワードだなぁ――。

 私は思わす思い浮かんだ言葉をそのまま口に出していた。


「何そのそれっぽい設定みたいなの……」


「本当ですよねぇ」


 この私のつぶやきに龍炎は少し困ったような笑顔を浮かべながら同調する。この人の心の余裕もすごいなぁ。使徒壊滅の危機って状況なのに。

 と、ここまで話していて私はこの旅の本来の目的を思い出した。早速彼に打診しないと!


「そうだ!話は変わるけど龍炎さん、私達の仲間になって!有己ひとりじゃ心細いのよ!」


「……おい」


 この言葉が引っかかったのか、有己からツッコミが入る。ま、想定内だけど。不満そうな彼の顔は見ないようにして私は龍炎の顔をじっと見つめる。

 どうか快い返事が戻ってくるようにと願いを込めながら。私のスカウトを受けた彼は笑顔を崩さずにニコニコと笑いながら返事を返す。


「それが主の意思ならば従うよ。僕も使徒のひとりだしね」


「やった!」


 彼からの了承の言葉を聞いて私はついガッツポーズを取って喜びを表現する。新しい使徒、ゲットだぜ!これでミッションクリアだね!

 思えばここまで来るのに色々あったなぁ。最後には死にそうにまでなったし。本当、波乱万丈だよ。

 でもこれで私の苦労も報われたんだなぁ……。うう、涙が出そう。


「まぁ、話はお前が寝ている内に俺が付けてたんだけどな」


「あーそうですか」


 私が感動に浸っているとすぐに有己がその感動に水を差して来た。そんなの分かってたよ。だって2人は同じ使徒だもの。きっとそんな話をしてただろうなって事くらい私だって予想出来るよ。

 でもさ、自分の手柄だって思いたいじゃない、やっぱり。あ~あ、なんか急に白けてきちゃったよ……。と、しばらくはイジイジしていようかと思っていたんだけど、ここで私はある重大な事に気が付いた。


「あれ?そう言えば……有己、平気なの?」


「あ?」


 私の指摘に全く心当たりがないのか、有己は全く見当違いの反応をする。はぁ……仕方ない、詳しく説明すっか。


「さっきから全然パン食べてないよ?」


「ここは力が充満しているから大丈夫なんだ」


 私の質問に有己はしれっと答えた。私の見た目からは何の変哲もないようなこの部屋だけど、どうやら特殊な部屋らしい。考えてみれば今まで驚いてばかりで気付く余裕すらなかったけど、一番大事な事をまだ聞いてなかったよ。


「そう言えば、ここは?」


「ここは僕が作った敵に絶対見つからない部屋です。何重にも結界を張ってその内側に闇の力を充満させているんです」


 龍炎の説明によれば、ここは使徒用に特別にあつらえた部屋と言う事らしい。目に見えないけど、この部屋は闇の力が充満していると。すごいな。

 これってそっち方面の能力を彼は持ってるって事なのかも。四六時中パンばっか食べてる有己とはえらい違いだよ。

 私がこの部屋のからくりに感心していると、有己がこの部屋についての追加情報を口にする。


「普通の人間だったら一時間もいれば発狂するくらいの闇の濃さだぞ」


「え?だって私全然何の問題もないんだけど?」


 闇が濃くなると発狂するだなんて知らなかった。闇って怖いね。

 しかしそんな事をポロッと口にするなんて、まるで私がすごく人間離れしているみたいじゃないの。こんなか弱い可憐な美少女を捕まえてさ。

 私が動揺していると有己は何もおかしい事はないという風情で言葉を続ける。


「そりゃ当然だろ?お前は我が主の宿主なんだから」


「あ、そっか……もう私は普通じゃないんだ……あはは……」


 有己の指摘に私は力なく笑う。こんな気持ちになったのは優子と決別したあの時以来かな……。普通じゃないって、孤独だね……。


「とっくに自覚していると思ってたんだがな」


「そ、それでこれからどうするの?使徒探しって旅の目的は果たせた訳じゃん」


 いつまでも落ち込んでもいられないので、私は強引に話題を切り替えた。大事なのはこれから先の事だよ。前を向かなくちゃね!

 この私の言葉に有己は真面目な顔になってぼそりとつぶやく。


「いや、使徒2人じゃまだ足りない」


 えっと……この言葉はどう受け取ればいいのかな?彼の言葉を聞いた私は思わず固まってしまう。


「じゃあ……」


「そうだね、もうひとり探し出さないと」


 有己に続いて龍炎も似たような事を言い始めた。2人の意見が一致したと言う事は多数決の原理でつまり、そう言う事だよね。


「そっか、旅はまだ続くんだ」


 私はひとり自分を納得させるようにそうつぶやいた。その言葉に有己が反応する。


「何だ?不服そうだな」


「そ、そんな訳ないじゃん!」


 私は有己の推測を慌てて否定する。それが無意味な行為だったとしても、この場ではこうするしかなかった。旅自体はそんなに苦じゃなくてもこれからの捜索は更に捜索範囲が広くなりそうだし、敵も変わらず襲って来そうだし、何をより3人目の使徒のいる場所が現時点で全く見当がついていない。

 そんな先行きの不透明さがとても心配になったって言うだけなんだけどさ……。


 私と有己が言い合いをしている側で、我関せずの態度を取っていた龍炎が冷静な声で私に声をかける。


「でもこれからは極力目立たないようにしないといけませんよ」


「えっ?」


「だって折角死を偽装したんですから。この設定を生かさないと」


 あ、彼がギリギリまで私達を助けなかったのはそう言う事でもあったんだ。言われるまで気付けなかった私って馬鹿だな。つまり今後はバレない限りはハンターに狙われる事はないんだ。それなら最後の使徒探しも少しは楽になるね。

 と、ここまで考えて、私はふと頭の中に疑問が浮かぶ。


「でも今までだってそんな目立つように活動していた訳じゃ……」


「私に任せてください。隠密行動なら私の得意分野です」


 今までこっそり気配を消して行動していた龍炎にとって、それは別段特殊な事ではないらしい。私達はこの頼もしい先輩に従って、これから先はこっそりとハンターに悟られないように動く事になった。うーん、どうかへマしませんように。

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