第16話 旅立ち その3

「え……。そう言うのに出会っちゃったらどうしよう……」


「最悪は俺達は始末されるかもな」


「うそ!そんな組織日本にあっちゃいけないよ!」


 有己の口から出て来たその恐ろしい言葉に私は戦慄を覚えてしまった。冗談じゃないよ!まだこの若さで死にたくない!まだ何も知らないのに!色々経験してもっと人生をエンジョイしたいのに!

 ……って言うか続きを知りたいマンガやアニメやドラマが沢山あるんだよ!死ねないよ!

 この私の焦りに対して有己は我関せずみたいな態度でぼそっとつぶやいた。


「使徒は人間じゃないから日本政府も動かないだろ……お前にとっちゃいい迷惑だろうけど……もぐ」


「本当だよ!全く冗談じゃないよ!」


「これからそんなバケモノがいつ目の前に現れるか分からない。だからこそ奴を仲間に引き入れないと。戦力は多いに越した事はないんだ」


 話を聞けば聞くほど有己の言う通りだと私も思った。今のままだといつまでこの平穏が享受出来るか分からない。早く仲間を探し出して守りを固めないと私の未来が危ない!危機管理は危険な条件をどれくらい早く回避出来るようになるかが重要だもんね。

 ただ、やっぱり使徒を探しにこちらから動くとなるとなぁ。大きな壁がそびえ立ってるなぁ。


「でも両親が許してくれないだろうなー。何て言えば説得出来るかなー」


「闇神様が表に出てくれば本当は簡単なんだけどな」


 私の悩みに有己はそう答える。そう言えば最近は闇神様からのお告げがない。精神的に落ち着けなくてトランス状態になれていないのかも知れない。

 しかし闇神様なら両親を説得出来るって一体――。


「どう言う事?」


「人間の心を操作する事は神にとっては造作もない事だからさ……むぐ」


「あー……最悪はそれだね。出来れば普通に言葉で説得したいけど……例え嘘で騙す事になってもまだそっちの方がいいよ」


 有己の話を聞いて私の頭の中に洗脳って言葉がすぐに浮かんだ。反射的にそれは絶対やっちゃダメな奴だってすぐに否定する。洗脳は相手の認識を無理やり書き換えてしまう。そんなのはあまりに卑怯だと私は思った。それをしてしまうと大切な何かを失ってしまう気がしたんだ。

 そんな私の顔を見て有己はなだめるように話しかけて来た。


「どっちにせよ決めるのはお前自身だ。俺は何も言わないから」


「分かった。有難う」


 珍しく気を使ってくれた有己に対してお礼を言って私は決意を新たにした。どうにかうまく言葉で両親を説得する!嘘をついてでも決して洗脳なんて卑怯な手段は取らない!家まで戻って来た私は玄関の前で深く深呼吸をして、心を落ち着かせてそれから玄関のドアを開けた。


 とは言え、そんなすぐに勇気が湧くものでもなく、私は母に話しかけるまでに夕食後の時間まで待たなくてはならなかった。

 それでもその日の内に話しかけられるようになっただけ進歩したのかも知れない。夕食後、リビングで寛ぐ母に向かって私は勇気を振り絞って恐る恐る緊張しながら口を開いた。


「ね、ねぇ、お母さん、ちょっと話があるんだけど」


「何?」


 うう……話しかけてはみたけどこれからどうしよう。母はこれから話す娘の話を無警戒に聞こうとしている。正直に話すべきか誤魔化すべきか……。

 とは言いつつ、私が出すべき答えは決まっている。こんな話、正直に話したところですぐには理解してくれないだろうって事は。


「あのさ、ちょっと友達と旅行に行きたいんだけど」


「何日くらい?」


 私の話に素直に反応した母は、素でその先の予定を聞いて来た。普通聞く順番として優先順位が違う気もするけど。

 しかし困ったな。使徒を探すってすぐに見つかるものなのかな?ちょっと日程に幅を持たせないと。早くなるのはいいけど遅くなると心配かけちゃうし。

 でもあんまり長い旅行は許可が出ないだろうし……。って言うか明日も普通に学校があるんだけど。


 私がこの話を始めてから母は旅行の間の学校の事について何も言わなかった。

 もしかして私を試しているんだろうか?取り敢えず、まずはこの質問に答えなきゃだね。私は緊張で頭を真っ白にさせながら考え得る中で一番ベストな答えを導き出してそれを母に伝える。


「え、えーと、3日くらい?」


「誰と行くの?女友達?」


 あれ?やっぱりだ。私の話を聞いても決して止めようとしない。それどころか同伴する相手を聞いてくるなんて。普通なら誰が一緒でも止めるはず。

 これはつまり母に私を止める気はないって言う事でいいのかな?

 でも詳しく理由も聞かずに容認するってそれはそれで親としてどうなの?そこが気になった私は思わすそれを口に出していた。


「え?旅行はしてもいいって事?」


「まぁ、相手次第かなぁ」


 私の質問に母はとぼけたような顔でそう答えた。うーん、これっって試されている?えっと、この質問には何て答えたらいいんだろう?やっぱ年頃だし男子と一緒に行く、なんて行ったら止められるかな?でも女の子同士って言ったとしてもそっちの方が危険だって言って来るかも。つまり、これは賭けだね――よし、決めた!


「だ、男子の友達……なん……だけど」


「まさか……?」


 この答えを聞いた母は急にいやらしい笑みを浮かべて、じいっと私の顔を見つめてくる。これってもしかしなくても勘違いしてるよね?この誤解、1秒でも早く解かないと!私は顔を真っ赤にしながら手を大袈裟に振って母に弁明した。


「ち、違う違う違う!彼氏とかじゃないから!」


「なーんだ、つまんない」


 その母の反応を見て私は確信した。これはまともに私の話を聞く気がないって事を。きっと旅行の話も冗談として聞いていたんだ。じゃないとこんなに冷静に話を聞けるはずがないよ。そう思った私はつい母に強い口調で返事をしていた。


「からかわないでよ!」


「旅行ってどこに行くの?」


 私が少し怒ったところで母からの追求は終わらない。今度は目的地についてだ。これも困ったな。私はまだ有己から龍炎って使徒が具体的にどこら辺にいるか聞いていない。多分彼なら詳細な場所は分からなくても大雑把には居場所を把握しているはずなんだ。あ~あ、こんな事ならその場所を先に聞いておけば良かったよ。

 さっきから母は興味津々な顔をして私の言葉を待っている。仕方ない、ここは嘘でも適当に誤魔化すしかないか。


「えーと、近場の観光地とかをぐるぐると、かな?」


「遠くには行かない?」


「行かないよ、そんなにお金ないもん」


 うーん、つい流れで私の懐事情をバラしてしまった。って言うか今はお母さんからのお小遣いしか収入手段はないんだし、こう言う質問は野暮ってヤツだよ。

 でも実際、お小遣いの範囲で目的を達成出来るかなぁ?いざとなったら有己の持っている財源に頼っちゃおう。私は主の宿主なんだからきっと彼は断らないよね!うん、決めた。本音を言えばあんまり有己には頼りたくはないんだけど。


 私の話を聞いていたお母さんはひとりウンウンと頷いて、それから何かを企むような笑顔を見せながら口を開いた。


「そっか、ちょっと心配だけどいいよ。お父さんを説得出来るならね!」


「うわ……そう来ましたか」


「ふふん、頑張ってみる事ね」

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