旅立ち
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第14話 旅立ち その1
「でもおかしいよね」
「もぐ……どうした?」
休み時間、私は暇潰しに有己に話しかけていた。もうこの頃には私達をからかう声もなく、2人の関係は半ば公認の仲になっていた。なので私達の話に割りこむような無粋な人はもういない。誤解なんだけどな。
でもわざわざ言い訳するのも面倒だし、周りが勝手に納得している分には私には関係ない訳だし。誰も困ってないから訂正も何もしないでいる。
そんな訳で、今じゃもう使徒関係の話を教室でしても大丈夫なんだ。そこは楽になったかな。
話を戻して、私は有己に話しかけた。気になる事があったから。話しかけられた彼はいつものように口に何かを入れながらのんきな顔で私の方に顔を向けている。本当に緊張感ないなぁ、もう。
「だってもう使徒は残りちょっとしかいないんでしょ?」
「ああ」
私のこの質問に有己は眉ひとつ動かさずに当然のようにそう答えていた。それから続くであろう私の言葉に気構える様子すら見受けられない。
……まぁいいか。ちゃんと質問に答えてくれるなら全然緊張してないくらいがちょうどいいのかも。
「なんで数も減ったのにハンターがそんなにしつこく追ってるの?規模が縮小されたっていいのに」
「さあな……。ハンター側の事情なんか知らないよ……むぐ」
まぁ、言われてみればそうか。有己は追う側じゃなくて追われる側だもんね。敵の事情なんて知らなくても不思議じゃない。
でも追う側がそれだけ必死って事はアレだよ、それだけの理由があるからだよ。そこをもっと聞かなくちゃ。
「ねぇ、そんなに使徒って極悪非道の限りを尽くしたの?」
「俺達は人間じゃないからな……もぐ。人間側の理屈で言えばそうなるんじゃないか?」
私の質問を有己はあっさりと肯定した。具体的な事例は何ひとつ彼の口からは出ていないけど、否定はして欲しかった。濡れ衣だとか、冤罪だとか。
これじゃあまるで私は悪党の悪事の片棒を担いでいるみたいじゃない。そんなの嫌だよ。私は彼の発言に思わず強い口調で訴えていた。
「闇神様だって一応は神様なんでしょ?その神様に仕える存在が……」
「だから、俺達は人間に都合のいいような存在じゃないんだよ」
この私の言葉に対して、有己は気に障ったのか少しムッとした態度になって答えた。そりゃ彼は人間じゃないから人間の気持ちなんて分からないのかも知れない。
でも事の善悪の基準なんて人間と使徒でそう違いはないはずだよ。それすらも理解出来ないなんて――。私は少し不安になって言葉を続けた。
「それじゃあ……」
「むぐ、な、なんだよ?……むぐ」
「有己も私に会う前は……?」
私の疑いの眼差しが彼を突き刺す。それを感じた有己はすぐにその言葉の意図を察し、少し焦りながら弁明を始めた。
「俺はそんな悪さはしてないぞ……むぐ、多分。生き残る事を第一に考えていたからな」
「なるほど、いのちをだいじに、ね」
「は?……もぐ」
「いいのいいの、気にしないで」
私のゲームの例えに有己はきょとんとしていた。いくら人間界に馴染むようにひっそり暮らしていたとは言え、ゲームの話題なんて知らないか。
しかしこの反応から有己は特に悪さはしていないと言う事が伺われた。派手な事をしたらすぐにハンターに狙われる。
逆に言えば、ハンターの存在こそが使徒を悪事に走らせない防止弁のような働きをしているとも言えるのかも。そうなると彼らの存在も一概に悪とは言えないのかなぁ。
「話を戻すけど、じゃあ使徒の中には人間を襲うようなのもいた、と?」
「そうなるな、だが多分、原因は人間側の方だ……むぐ」
「なんで?」
使徒が悪さをしたから人間側が対抗したのがハンターじゃないの?それとも人間側が使徒を刺激したから使徒が暴れるようになったの?
この話を普通に聞く限り、この有己の言葉からは話の大事な部分が抜けているような気がした。
「俺達は大切な主を封印されてしまった。人間によってな」
そう話した有己は悔しそうな顔をしていた。もしかして――人間を恨んでいるのかな?その気持ち、分からなくもないけど……、恨むならせめてその関係者だけにして欲しいよ。
ここまで話したところでチャイムが鳴った。残念、話の続きは次の休み時間だ。私は授業中、次の休み時間までに有己に話す質問のネタを考えていた。
聞きたい話は他にも色々あって、そのせいで授業が全く耳に入らなかった。ああ、こんな事じゃ成績は下がっていくばかりだなぁ。
何とか出来るだけ早くにこの問題を終わらせて、平和な学園生活を取り戻さなくっちゃ。そう決意した私は授業中、小さくガッツポーズを取った。
そうして何事もなく授業が終わると、私はすぐに有己の席の近くまで行ってさっきの話を再開させる。
「それで、闇神様の封印もハンターがやったの?」
私はつい好奇心に任せて使徒にとって触れたくないであろう話題に踏み込んでしまっていた。しまった、と思ったのは話をしてしまった後だった。
私は恐る恐る彼の顔を見る。幸い、有己はこの件に対して今はそこまで心を動かされる事はなかったみたいで、淡々と私の質問に答えていた。
「いや、違う。ハンターってのは俺達が暴れ出してから徐々に出来上がって来た組織だ……もぐ」
「良かったら封印された話を詳しく聞かせてよ、無理ならいいけど」
さっきの質問が問題なかったので、私はついその先に踏み込んだ質問をしてしまった。今度こそ気を悪くさせてしまうかも知れない、そう思った私は少し気を使って無理なら話さなくていいと言う条件をつけた。そうしたら有己は私の予想に反してニコニコしながら話し始めた。
「そんな話に興味を持つなんてお前もやっと闇神様の宿主としての自覚が出来て来たんだな」
有己の言葉に私は一瞬呆気に取られてしまった。私の中の闇神様については勝手に宿られた時からずっとその正体を知りたがっているのに!
色んな事がジェットコースターみたいに襲って来て気持ちの整理が全然出来ていないだけなのに。私はのんきに話しかけてきた有己に対して、ちょっと興奮気味に言葉を返していた。
「いや、この私の中の存在に疑問を持っていたのは最初からなんですけど!」
「分かった、分かったよ。まぁ落ち着けって……むぐ」
私の反応に驚いたのか、有己はなだめようと手を前に出しながら言葉を返して来た。まだ彼とは一定の温度差があるなぁ。少しずつでもこの差を埋めていかないと……。
「私はずっと冷静だよ」
その後、私が怒っていると勘違いしたのか有己は率先してさっきの質問について話し始めた。
「えっと、封印の話だったな。あれはもう2000年位前の話になるのかな……」
「そんな昔の話なの?」
いきなり話し始めた有己の話に私は素直な反応をしていた。そっか、この話は2000年も前から始まるなのか。本当に神話レベルの話なんだ。
この話に私は興味を抱いて、身を乗り出しながら少し興奮気味に彼の話の続きを待っていた。
「我が主を封じたのは天神院家だ」
「天神院……何だかすごい名前だね」
天神院家……もう名前だけで凄そうだよ。流石神様を封印するような一族って感じ。ラノベとかで出て来たらチートな能力を発現させそう。
そんな私の興奮を知ってか知らずか、有己はそれからもこの話を真剣な顔をしながら続ける。
「天神院家は神の末裔を名乗る一族なんだ……もぐ。その開祖が我が主を封印したのさ。神を封じる事が出来るのは神だけだからな」
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