赤い悪魔と魔法使い殺し
七沢楓
■1『対魔法使い戦術』
第0話『赤い悪魔の弟子』
「魔法使いは欠陥を抱えている!!」
魔法学校の入学式。
在校生以外にも、当然今年度から入学してくる新入生も集まる、初顔合わせの場。
高校生になって、初めて魔法を学ぶ事が許され、小さな頃から魔法使いになることを夢見て来た生徒や、今は魔法使いが就職率トップだからなっておこうという打算的な生徒達、それに教員すべてをひっくるめた講堂に居る人間全員は、壇上に立つ赤髪の女の言葉に驚いた。
当然である。
彼女の名前は『ハチェット・カットナル』
その名前が示す通り、日本人ではない。赤い髪も地毛だ。
つまり外国人なのかといえば、違う。彼女は悪魔だ。それも、かなり高位の。
講堂で、椅子に座り、魔法を学ぶ事を楽しみにしている生徒達は、彼女の言葉に驚いた。それは、彼女がここ、
そんな彼女が、スピーチの掴みに『魔法使いは欠陥を抱えている』なんて言い出せば、誰もが驚くだろう。
「いい、アンタ達」
彼女は、肩に乗っていた自慢のポニーテールを掻き上げる。束ねているのに足の健まで伸びるその髪は、ワインレッドの鮮やかな輝きをバラまいていて、人目を引く。
白のブラウスを着て、その上に黒のベストと胸元には黒のループタイ。胸は、どう見ても間に週刊誌が挟まりそうなほど大きく、講堂にいる大多数の男子生徒は目を奪われただろう。
黒いスラックスに包まれた足も肉付きがよく、膝枕でもしてもらえれば、安眠は確約されていることだろう。
「魔法使いはいろいろな就職先がある。魔法具メーカーなんかに勤めるヤツも多いし、魔法を使ったプロスポーツ選手なんかも、道としては人気ね。それ自体は否定しない」
猫みたいに丸く、そして釣り上がった瞳で、講堂を隅から隅まで見渡すハチェット。自分にすべての視線が集まっているのを確認してから、満足そうに荒い鼻息を吐く。その自信満々な表情が、暴論と思われるだろう論を説いていても、止める事を許さない。
「けど、アンタ達は誤解してる。ただの人間が魔法使いより弱い、って事は絶対に無い。それを、あたしは証明したいと思う」
彼女は、ニヤリと笑った。
「そらっ、こい!」
ハチェットが生徒達の中から、一人を指差す。彼女が魔法を使ったのか、その一人の体が浮かび上がり、空中へ持ち上がった。
「うわっ、ちょっ!」
男子生徒が、悲鳴に近い言葉を上げると、壇上に叩き付けられた。
「い、ってて……」
尻を打ったからか、その男子生徒は尻を摩りながら立ち上がる。彼の姿に、また講堂の人間は目を丸くする。
どこに居ても目立つだろう、赤茶けたボサボサの髪。まるで赤錆だ。学校の制服は、普通の学ラン。それを前開きにし、まだ新品のYシャツも第二ボタンまで開き、胸元が見えている。
体格としては中肉中背だが、目つきがなかなか悪かった。まるで、不良生徒だ。時代が時代なら、リーゼントにでもしていただろう事を想像させる。
「こいつの名前は、『
それに、生徒達は様々な反応を見せる。生唾を飲み込む者、隣の生徒と話を始める者。だが、一番大きな反応を見せたのは、何故か当の本人、荒城幸太郎だった。
「……え、ちょ、待ってなんだそれ!? 対魔法使い戦術って、どういう事だよ!」
今にもハチェットに掴みかかりそうな幸太郎。だが、ハチェットは足を上げ、そんな彼の顔を踏みつける。
「どーもこーも、今言った通りよ」
「ふっ、ざけんなテメェ!! 今までやらせてきたヤツ、魔法使いの基礎だって言ってたじゃねえか! 嘘だったのかよ!?」
「嘘よ」
さらりと言ってのけるハチェット。
あまりにも堂々と、それでいてどうでも無さそうだったので、幸太郎は思わず絶句した。
「いい、アンタ達。アンタら、あたしと契約したいんでしょ? だったら、アンタ達がする事は一つ! この男を倒す事! この男を倒せれば、あたしが契約してあげるわよ!」
その言葉は、在校生はもちろん、新入生達の心も掴んだ。
何故か。
魔法使いが魔法を使う為には、悪魔と契約する必要がある。
魔力、というのは地球上に存在しないから、悪魔が自己精製する魔力を分けてもらうしかないし、物を飛ばしたりする簡単な物なら魔力があれば出来るが、それ以上となると自分の才能も関係するが、どれだけ高位の悪魔と契約できるかにかかっている。
そして、悪魔との契約には当然代償がいる。
悪魔が人間界にやってくる前なら、魂と言われる、なんて迷信が広まっていたが、実際に悪魔が魂を欲する場合などそうは無く、本当にその場で欲しい物を要求してくるのだ。
そしてハチェットは、代償として幸太郎に勝利しろ、と条件を出したのである。
彼女は先ほども言ったが、高位の悪魔。
契約できれば、どんな落ちこぼれでもそれなりのコースに乗れるし、優れた生徒が契約すれば、成功は約束されたも同然。
全校生徒の、目の色が変わった。
幸太郎を見る目が、生肉を見る獰猛なライオンのそれになった。
「じょ、冗談だろオイ……」
呆れた様な顔で、幸太郎は隣に立つハチェットの顔を見た。その顔は、堀った落とし穴にバカが引っかかったと言いたげなほど、楽しそうな笑みだった。
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