第6話
それから、私はお爺さんの話をずっと聞いていた。子供の頃に畑でスイカを盗んでこっぴどく叱られた話とか、初めて映画館で映画を観たときの話とか、初恋の話とか、それはどれもどこかで聞いたような、何かの本で読んだような、新鮮で特別な話ではなかった。けれど、お爺さんはとても嬉しそうに、それは本当に『自分にしかなかった物語』のように、嬉しそうに話していた。
そして、お爺さんは、一度も、私がどうして死んだのか、聞こうとはしなかった。
どれくらい時間が経ったかはわからないけど、何度かウェイトレスが現れて、私のジュースを取り替えた。年齢制限はなさそうだけど、気が引けたのでお酒は注文しなかった。
「受付は済みましたよ。いつでも行けます」
お爺さんの話が、初孫が生まれた辺りまで進んだところで、後ろから声が聞こえた。
「うむ、そうか。すまなかったな」
「いいえ、これが仕事ですから」
微笑をして、高級車に乗っていた天使が背後に立っていた。その声を聞いて、おじいさんは椅子から立ち上がった。
「それじゃあ、お嬢ちゃん。縁があったらどこかで会おう」
年下の私に丁寧な会釈をしてお爺さんは彼に連れられていった。その様子をぼうっと眺めていたけど、十メートルもしないうちにその姿がもやがかかったようにかすみ始めて見えなくなってしまった。どこかにはっきりとした入り口があるんじゃなくて、天使そのものがカギのようになっているのかもしれない、と少し私は考えていた。
私を連れてきた天使が戻ってくる様子はまだない。
もしかしたら、階級の順で処理をする時間が遅くなってしまうのではないだろうか。だとしたら、私はあとどれくらいの間待たなければいけないのか。単純に倍であれば、今費やした時間の十二倍ここに居座ることになるのだろう。
飲み物を頼んだり、他の人を観察したり、時間を潰しながら、私は彼が戻ってくるの一人で待っていた。
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