第2話


II




 さて、シミター小隊と敵目標、〈結社〉部隊との遭遇は、〈結社〉側の先制攻撃とその失敗によって幕を開けた。







《機体チェック……パラメータ正常、コンディション異常なし……各部損傷……異常無し! 三号車、こちらは良好だ》


《02、こちらもおなじくっ!》





「こちら01、当機も健在ナリ……ぅーっ、美容と二日酔いの差し引きに、そこそこ見返りは釣り合ったみたいね……は置いといって、さぁってっ、――しっぺ返しの始まりだ。用意はいい?」





 対するシミター小隊は、今まさに、痛烈な反撃を浴びせ返すその瞬間である。






……〈結社〉の保有する主力SAには標準装備されている、中型赤外線ミサイル・SSー11bによる飽和攻撃。


 これは、〈UNT〉が〈シミター〉を投入した事に対しての、〈結社〉の対抗策、結社側における、現在の対SA戦の基本戦術となっている。



 SA、つまりスタンディング・アーマーを実用化し、今回の戦争に投入した事で、〈結社〉は序盤の勝利をモノにした。


 条約によって惑星上での大型軍事兵器の開発・生産が禁止されていたこの星で、惑星開拓用に普及していた民生品である二足歩行重機…スタンディング・ユンボを武装化しただけのスタンディング・アーマーが、この植民惑星・ニューエデンに於いて、自前での“自給自足”…量産製造と大量調達が可能な唯一の兵器となれた事がその要因だった。この惑星に於いては、地球本星から莫大な時間と金を掛けて持ち込むしかない他の在来兵器では不可能な、使い潰しの利く、数で押し切る戦術を可能にしたのだ。


 その結果、開戦から一ヶ月後…今から一年前の決戦に於いて、〈結社〉は本拠地討伐に集結した駐留国連軍に対して勝利を納めた。


 この戦いでは、戦法とSAに装備する武器、何よりもやりよう次第で、SAは重戦車が相手でも、爆撃機が相手でも五分程度には戦える事が立証された。当初の国連軍の見積もりより、SAの実態は遥かに強力だったのだ。


 さらにその上〈結社〉が動員したおびただしく大量のSAに対し、開戦の混乱の中、惑星全土規模での空前の叛乱に圧倒された駐留国連軍が一正面作戦に投入できた僅かな戦力では、そもそも太刀打ちが出来なかった…



 こうして、このニューエデンでの戦争において、SAこそがその中心となったのだ。



 だが、この戦闘の後に、失点を補うかの如く発足した残存国連軍と植民地正当政府の合同軍…〈U.N.T〉も、例え急造品とはいえ、一応はそれに対抗可能なSA〈シミターMk30〉を開発した事で、押し切られるばかりであったこの惑星・ニューエデン各地の戦線はようやく停滞。


 今思えば一瞬ではあったが、超・短期間で大量配備した〈シミター〉での数の均衡によって、戦争を膠着状態にまで持ち込む事に成功した。



〈シミター〉は、敵SAに対する近接戦闘を前提に作られた初の対SA戦用SAである。


 開戦序盤、単独単体ではあらゆる状況・環境下でも無差別・非対称的な破壊作戦を実行可能な上、いざ主戦力同士の正面戦闘となれば、常に圧倒的な数の集団戦による肉薄してのクロスレンジ戦闘で絶対の優勢を主導し、強力かつ専門的であれどごく少数かつ機能不全がちの戦力を場当たりに逐次投入する事しか出来なかった〈国連軍〉の戦車・歩兵・航空航宙部隊すべてへ悪魔的な被害をもたらしたSAという兵器。それに一刻も早く対抗する為の、正規軍事史史上初の格闘型歩行戦車、国連軍側での正式分類“CVT”(=クローズコンバット・バーティカル・タンク)として採用された。


 戦局は決しつつあった。


 結社の快進撃の前に少なからぬ民衆がそれを受け入れ始め…或いは支持と援護に回り、駐在企業もどの陣営に付くかの二者択一を迫られる中、それぞれの支配地域の分社がそれぞれの勢力に協力・拠出をするというダブルブッキングの形でありながらも国連軍が協力を取り付けた現地法人の大手重機メーカー各社の努力によって、予備役と徴用兵が出鱈目に動員された結果ハンビーさえも不足していた各前線の部隊へと〈シミター〉は急速に普及・浸透をした。元が普及品の重機なので、特別な訓練の手間もかからない。そしてなにより、安い。新鋭兵器ながら、一瞬で、数の面での主力となった。


 そして肉薄しての接近・格闘戦に於いて、〈結社〉の保有するSA・“フリッター”と〈シミター〉とは、そもそも原型となるスタンディング・ユンボがまったくの同じの同一機種で大して基本の性能差が無く、即ち、より完成度が高いはずの〈フリッター〉の性能面での優位性は、特定の条件下では殆ど無かったのだ!



 応急処置ではあるが無二無夕の対抗兵器を獲得したことにより、残存国連軍改めU.N.Tは息を吹き返した。



 投入されたMk-30シミターは実戦でも……運用部隊の多大な損耗と消費を引き換えにしながらも……優秀な“成果”を出し、それは投入される規模と運用体制の理想度との相乗によって、時には投資に対して何倍ものリターンをU.N.Tにもたらした。

 それであるのだから、快進撃が停止し、所詮は民兵組織でしかないのだから、その犠牲と被害が構成戦闘員たち個々人のモチベーションを愕然と奪うことになった〈結社〉側は大変に頭を抱え、その様をありありと体感した国連軍兵士たちはおおいに歓喜するとともに、常に試行錯誤と、“自らたちの勇敢な献身と犠牲”とを必要とされるこの得体の知れない新兵器を…先任や古参の兵士であればあるほど…疫病神かのごとく忌み嫌った。結果として、この時点でスタンディングアーマー(国連軍内分類CVT兵器)運用部隊の評価と扱われ方のその方針は決定したようなものであった。



 なにはともあれ、こうして国連軍は一番長かった夏をなんとか乗り切り、そして冬が過ぎれば、〈結社〉に対して有効な反撃が出来る事を内外に宣撫していた。



 そんな状況に対して、〈結社〉が取った対策法が、前述のそれである。


 目的は、目の上のできものならぬ、もっとも厄介な高脅威目標……SAたる〈シミター〉の優先破壊、撃破。


 とはいえ、〈フリッター〉の運用法を変更しただけですべてのことは話がついてしまった。


――ミサイルを主兵装にしてのアウトレンジ攻撃――

……これを基本戦法として、それを敵SA隊との遭遇時に全弾投射して確実に撃破・殲滅するという、なりふり構わない必殺戦法を採用。そもそも相手に接近をさせない事によって、〈シミター〉の唯一の優位点を完全にぶっころす。


 威力についても、申し分ない。


 大局における優勢を得れた事と、序盤の快進撃の内にある程度のレベルの兵器の生産体制を整える事が出来た〈結社〉は、SSー11bの生産が可能だった事も理由の一つである。


 元々は対重施設・水上艦・対宇宙艦用の極めて高威力なSS-11bであったから、それの飽和攻撃ともなれば、まず、基本は軽装甲兵器たるSAの〈シミター〉如きなどは確実にしとめられる事が期待できた。


 数の面でも問題は無かった。


 そもそも、導入初期の国連軍の〈シミター〉と〈結社〉の開戦以来の主力である〈フリッター〉とは、その配備数が3:7と大きくフリッターが優勢で、一機づつ互いがつぶし合ったとしても、最後は〈結社〉側が生き残るという試算がされていた。さらに〈シミター〉は前線にこそ優先して配備がされて正面戦闘での均衡は得れているが、しかし国連軍のグリーンゾーンには充足出来ていないのが当時の状況であった。即ちもし押し切ってしまえば、後はどうとでもなろう事は国連軍も、〈結社〉も同じ認識を持っていた。


 そして何よりも、〈シミター〉の初期型に点在した類種の欠陥の存在も、その戦法を有効たらしめた。


〈Mk30シミター〉の初期型は、何よりも生産を優先した為に、コクピット周りの廃熱系統に致命的な弱点を有していたのだ。


 そしてSS-11bは、高性能な熱源追尾型ミサイルであった。






 秋の半ばだった。


 これによって、国連軍…〈UNT〉の戦線は完全に瓦解した。


 所詮は機動歩兵代わりの〈シミター〉ならともかく、虎の子である戦車部隊や航空戦隊からも甚大な被害が生じる様になり、唯一の優位点であるエア・ランド・バトルの根底が完全に麻痺した状態になった。


 主力がこれなのだから末端は尚の事悲惨で、装甲車どころかテクニカルすら無い国連軍の各地の守備隊では、〈結社〉のSAに対し、全くの無力であった。




 蹂躙されるしかなかった〈UNT〉は押しに押され、今では遠い過去の栄光たらん〈シミター・ショック〉から七ヶ月経った今、遂にはニューエデンの八大陸の内、一番小さな最後の一大陸を絶対防衛圏として、どうにか死守する状況にまで追い込まれていた。


 そして、〈結社〉は、その残された最後の大地・パンゲアまでもを、海岸線を中心に、全体の面積30%を占領するにまで追いつめてきているのである…



 新しい年の夏を迎えた今、ジングル・ベルの歌が両陣営で流行っている。こちらが勝ち、こちらが負ける。そういう意味だった。











――今回、この小隊に与えられた命令も、ある種の苦し紛れからの物に違いがなかった。



〈結社〉・パンゲア上陸部隊への打撃作戦。


 大陸南西部の海岸地帯に橋頭堡を構築しつつある〈結社〉部隊に対して、この日の夜、各地の戦線で一斉に逆襲を行うことでその指揮系統を一時的に麻痺・混乱させる、というのが目的の、残存が五つある国連軍戦車大隊の内、二つを動員しての大規模作戦である。



 しかし、最初から絶望視がされていた。



 動員される部隊は、残存国連軍各軍のSA決死部隊が主力とされた。


 部隊を構成する兵士の大勢は、今の残存国連軍の中枢派ではない地球本星に於ける発展途上国や中進国からの拠出部隊のなれの果てか、もし地球本星主要先進国の軍に所属していたような人物であっても、敗退によって本来の役職を失ったり、なにがしかの累に問われているような各種の敗残兵…つまり、どう消費してもミソの付かない“訳アリ”の要員が当てられる結果となった。


 支援の筈の戦車部隊も、ある程度の示威を行った時点で速やかに撤収、撤退…今回の出撃直前に、キャンプの司令から01が告げられた話だった。


 任務の本当の意味も、パンゲアにまで逃げてきたニューエデンの旧支配階級…地球にツテの残る、かつての富裕層や有力者等を、パンゲア内陸の、グランドロック宇宙港から脱出させる為の陽動作戦に過ぎない。


 そして、こんな体ではあったが、もしかしたら、この作戦が最初で最期の組織立った反攻になるか、ともの噂であった。








――この小隊の隊長…01の搭乗者は、作戦命令の通達から実行当日である今日までの五日間、なによりも生き残るために、〈結社〉のその戦法を相殺出来ないかと必死に熟考した。やんわりと残る目の下のクマはその証拠であるし、連日何杯も煽ったヤケ酒の所為で、今も01の咽から奥は焼けつくように荒れきっている。







 要するに、サーチライトを巨大なチャフフレアーにしたのだ。



 今のこれは、敵陣営が運用するミサイルの特性と、その運用戦術。最後に〈シミター〉のセンサーの探知限界性能から逆算したタイミングだった。



 相手側の欺瞞装置……チャフやフレアー、それからデコイ等を、内蔵した人工知能により高い精度で見破る能力を持つ、高性能“すぎる”SS-11bは、しかしなれどその運用目的上、最終誘導時での特定のパターンの最大熱源放射物に対して必中する設定のAIアルゴリズムだ……忘れたくても忘れられない苦い経験則から、01が見破っていた事だった。


 そして、機械的なアクチュエーターではなく、全身の酸素反応式人工筋肉で駆動し、最低限の電力さえあれば動作が可能なSAは、余剰出力の欠乏という代償と引き替えに、機体からの熱放射が極端に小さい、という特徴を持つ。



 この二つを有効に用いれば?



 ヒントは、宇宙雷撃艇がミサイル戦を行う際に使う赤外線爆雷の存在だ。


 少し前まで宇宙掃海艇のキャプテンをやっていた01からしてみれば、思いつくのも実行するのも簡単だった。あとは、トラウマによってすっかり臆病者になっていた自分の、如何にそのケツを叩くかに掛かっていた。




 さておき、さぁ、〈結社〉はそのやり方で効果を上げてきた。でも、もし失敗したらば?










「熱紋、残像照合っ」


《02タリホー! バッチリです、ヤッコサンのケツはまるみえですぅ!!》


《03、目標確認…だいぶ前の借りは返してやる!》





 次の行動は素早かった。


 爆炎が背後で収束する瞬間、立ち止まることなく散開した三機の〈シミター〉は闇の向こうの“獲物”へと狙いを向けていた。



 搭載機関砲の射程は互いに圏外。右手の“最終兵器”は弾数に限りがあるのでまだ使用許可は出せない、そして相手の携行ミサイルを使い切らせただろう事によって、向こうはミサイルの第二波を撃てない――ハズだ。これが第一の目的だった。相手の戦術を逆手に取ったのだ!



 だが、時間はない。


 相手達がミサイルを使用した事で、そのランチャー(発射器)には、まだ熱が残っている。


 つまり、これも目的だった。逆に利用してやるのだ。これに照準さえすれば……


 しかし僅かな時間でもあった。あっ、と言う間に、それは消えてしまうだろう。


 現に今、各〈シミター〉のコクピット・正面モニターに映し出されているだろう最大望遠の熱源分布画像では、ドットの荒い画面上の、しかしくっきりと白色に表示された敵SAの機影が、急速に元のグレーへと冷却されようとしていた。


 だが、今この瞬間までは、その膨大な熱紋が、貧弱な〈シミター〉の赤外線センサーでもありありと見て取れる事が出来る!








「各機、特火兵装使用許可。存分にやってやれ」


《ラージャ》《了解》







 隊長である兵士の仰々しい宣言と共に、反撃の時間が訪れた。


 しかし只、三機の〈シミター〉は、左腕のマニュピレータ…動作肢を前へと突き出し、その前腕部装甲の肘側を横へと回転させる…それだけをした。


 すると、その左前腕・外板部ハードポイントに懸架された、〈合衆国〉製M-74スピアヘッド・対戦車大型有線ミサイル。〈シミター〉一機につきチューブが三つで、計三発。虎の子だ。




 これが、本機・〈シミター・Mk42〉の必殺武装である。







「撃ち方始めェ!」






 発射!


 甲高い轟音と共に、連続して発射音が轟いた。


 一機から二発づつ…計、六発。


 それが曳き抜かれる様に、突き破ったカバーパネルのプラスチック片を散らして、勢いよくチューブから射出されたのだ。


 高性能なロケットモーターを内蔵しているため、その航跡に白い軌跡が続く、という事は無い。


 目標への誘導も、最初にターゲットを照準していれば手動での誘導ではなくミサイル側の内蔵コンピュータが勝手にやってくれる設定だった。


 内蔵された自己思考人工知能による高度な目標物の思考解析/追跡と、ミサイル本体と発射母機それぞれのセンサー情報のクラウドシューティングによってリアルタイムで照準の補正がされる為、たとえば〈シミター〉の兵士らが先ほどやった様な“手品”を逆に受ける恐れはおよそ無いのである。



――――ミサイルの後端の、発射母機センサーによるミサイル距離位置確認追跡判定用のフレアマーカーが点灯したことによる六つの光点……一瞬で初期加速から巡航速度にまで達したスピアヘッドの弾体が、次の瞬間には三機のシミターのはるか彼方に消え、密林の闇の向こうへと吸い込まれていった。






「全機。ワイヤー排除、前進っ」





 発射から一秒経ったかどうか、という瞬間だった。


 高速誘導弾であるスピアヘッドが敵への必中軌道に入っただろうタイミングを見計らって、その命中の成否を確かめるより早く、兵士は、次なる命令を繰り出した。


 その指示通りに、僚機である二機の〈シミター〉の搭乗員も…いや、隊長から命令の言葉が発される同時の瞬間には、ミサイルの制御誘導ワイヤーを機体から排除する操作を執り行っていた。


 それぞれが熟達したプロフェッショナルであるこの二人には、余裕はあれど油断なんてものはない。



 同時に、停止していた〈シミター〉の走行が開始される。


 02の機体が一歩早く、駆けだしていた。小隊全機も、瞬きの差で走り始めていた。


 スタンディング・アーマーの巨大な脚部が土くれと植生の地面から引き剥がすように持ち上げられて、足部の裏から土飛沫を散らばせながら、その一歩前にあった苔まみれの倒木を真っ二つにして踏み破った。そして〈シミター02〉の機体は跳ねるように浮き上がった!





《ヒャッっホー!!!!!!》







〈シミター02〉のパイロットは、元々戦闘機乗りだった。


 残存国連軍の中で、指折りのエースだ。


 悲惨な撤退戦の中で、仲間達と共に目覚ましい活躍を続けて、何度も勝利を飾ってきた。


 紛う事無き英雄であった。


 だが、一週間前に、撃墜された。幸い02自身は傷一つ無かったが、後席のフライトオペレーターを喪った。心を許せる親友の一人だった。


 敵を討ちたかったが、しかし乗れる戦闘機が無かった。


 02がベイルアウトした地点は前線地帯で、回収されたキャンプは、航空基地では無かったのである。




 迷った末、SAのパイロットになる事にした。


 セスナに毛が生えた程度の対地軽攻撃機に乗るつもりなんてさっぱりだったし、この小隊の隊長…01に、熱心に口説かれたから、というのもあった。




 それは、スタンディングアーマーとの相性が良いのを01が見抜いていたのもあった。現に今、バーテンダーのシェイカーの様にコクピットが上下に大きく揺さぶられるSAのこの乗り心地だって、02にとってはレジャーランドのメリーゴーランドでしか無い。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 年齢や性別のそれを取り除いてもやや小柄な体格である。しかしだからこそ、この大柄な暴れ馬をあやしつけるのにスリルがある。聞かん坊という例えもあろうが、子守は得意だ。弟や妹たちの面倒を見て、いつもよく褒められた。……なぜか成長した当人らからは大いに恨まれているが。


 第一これが暴れ馬だとして、精々、“牛追い娘”として家の牧場で腕を鳴らしたロデオにも満たない――そんな程度の物だった。









……――SHYURUSHURUSHYURU……


――BAHAAMMMMMMMMMM!!!!!!!!!!







 まもなく、森の向こうで閃光が閃いた。


 密林を縫い、闇を突き抜けて飛翔していった六発のスピアヘッド・ミサイルが、炸裂した瞬間だ!



――だが、どれだけ命中したかは定かではない。


 〈フリッター〉の機関砲で迎撃破壊されたのかも知れなかったし、ミサイルが不発弾だったのかも知れない。M74・スピアヘッドは当たれば必殺とはいえ、絶対の物では無かった。





 しかし、小隊長…01の狙いは、相手がミサイルに対応している内に、シミターの得意レンジである接近戦に持ち込むという算段だ。



 今のところは、計算通りだ。




〈シミター〉隊は、高速で走行していた。


 林の木々をかき分け、地面を踏みならし、人工筋肉が伸縮する作動音を上げながら、夜の森を走っていた。




 密林を突破する瞬間だ。



 時速は、五十キロ。巡航速度の約四.五倍。


 十二億年手付かずだったニューエデンの密林で、SAはどんな兵器よりも速く移動できる。



 夜雲が晴れて、一つ目の月光に照らされていた森がさらに明るくなった――夜空には、二つの三日月が浮かんでいた。


 このニューエデンの二つの月と、環境破壊の進んだ地球では地上から見ることが出来なくなった満点の星空からの光に、明灰色のスタンディング・アーマーは、夜の闇の中でその装甲を輝かせていた。


 その機影を木立の狭間に滑らせながら、密林の地形を突破して走破する〈シミター〉の勇姿は、確かに機甲兵器の血筋を継ぐ物のそれであった。




 高速の、疾駆を緩めない〈シミター〉。


 およそ七百メートル以内と推測される敵部隊とのエンゲージは、やがて遠くない瞬間の筈だった。






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