堕天使
アルレシアの手によって堕天使の女性を俺の背中に乗せ、取り敢えず安静に出来そうな場所へと移動する。
悪魔と堕天使が戦っていた場所へと来る途中に見付けた丁度よさげな洞穴。穴の大きさから俺とランドドラゴンは入れないけど、アルレシアと堕天使の二人ならば余裕を持って横になれるくらいのスペースはある。
その洞穴へと辿り着くと、俺の背から堕天使をおろし、地面に毛布を引いてそこに堕天使を寝かせる。
「えっと、心安らぐ癒しの光よ、彼の者の傷を癒し、失われた血肉を補いたまえ。【ハイヒール】」
アルレシアは思い出しながら回復魔法【ハイヒール】を堕天使へとかける。淡い光が堕天使を包み込み、見る見るうちに傷が癒えて行き、翼にも新しい羽が生えてくる。
光ってはいるが、回復魔法は属性を持っていないらしい。なので、アルレシアは回復魔法を扱える。
それと、旅の途中で聞いた話によると別に属性を持っていても無属性の魔法は行使出来るらしい。
箱庭の森でフォーイさんには属性を持つ者は無属性魔法は使えないと教わったけど、それはどうやら古い知識だったようだ。
何でも、大魔法使いなる人が属性を持っていても無属性の魔法を扱える術式と言うものを二十年程前に確立したそうだ。よって、魔力量さえ足りていれば誰でも回復魔法や転移魔法は扱えるのだとか。
ただ、それでも最初から属性を持たない者よりも精度や密度、威力は劣るらしい。なので、アルレシアが言っていたのは高純度の無属性魔法の使えるという意味で稀有な存在という事らしい。
因みに、その事をアルレシアが箱庭の森で一緒に修練を積んでいた時に口にしなかったのは、既に知っていると思っていたからだとか。認識の違いによるものだったので、箱庭の森に帰ったら、フォーイさんにきちんとこの事を伝えようと思う。
「ん……んぅ…………」
傷が完全に癒え、暫くすると堕天使は身動ぎをしてゆっくりと目を開ける。
「……私、は…………っ⁉」
思考が定まっていなかったのか、少しぼぉっとしたと思ったら直ぐに顔を引き締め、ばっと立ち上がる。
が、急に立ち上がった影響で堕天使の身体はふらつき、そのまま崩れ落ちそうになるも、寸での所でアルレシアが支える。
「おいおい、いきなり立ち上がると危ないぜ? 傷は治っても血までは戻ってねぇんだから」
「……お前は?」
「オレはアルレシア。外にいるのがトライとランドドラゴンの子供だ。ほれ、もう暫く横になってな。オレ達はあんたをどうこうしようとは思っちゃいねぇさ。今はな」
アルレシアはそう言いながら堕天使をゆっくりと降ろして再び毛布の上に横たわらせる。
一応、敵意はないと感じ取ったのか、完全ではないけど堕天使は警戒を解き、視線をアルレシア、ランドドラゴンの子供、そして俺へと向ける。
「……お前達が、私を助けてくれたのか」
「あぁ。悪魔を倒す奴を放っておくのは忍びなかったんでな。迷惑だったか?」
「いや、そんな事はない。歌姫と竜種よ、感謝する」
素直に礼を述べ、頭を下げる堕天使。彼女の言葉にアルレシアはぴくんと反応する。
「……歌姫?」
「相違ないだろう? サフィリア様の力の残滓を感じるのでな、遥か昔に讃美なる歌声によって魔神の封印に一役買った一族の末裔、と言った所か」
「その通りだ、堕天使さんよ」
「堕天使、か」
堕天使は己の肌と翼の色を見て、自嘲気味に笑う。
「そうだな、今の私は醜い堕天使だ。肌にも翼にも、神の御使いの証たる純白の輝きの一切が失せてしまった……。これでは、我が主に顔見せする事は出来ない」
すぅっと目を閉じ、堕天使は静かに語る。目の端には僅かに涙が滲み出て来ている。
「その言い方だと、あんたは神様によって堕天させられた訳じゃないのか?」
「あぁ。私は堕天などしていなかった。事実、こうして下界へと降り立ったのは我が主の命によるもの。決して堕天による追放ではない」
「主ってぇと、神様の命令か?」
「そうだ。命を受け、つい先日この地に降り立った。悪魔どもに不穏な動きが見られるとの事でな。その調査の為に私が遣わされたのだ」
「悪魔、ねぇ」
「この地に降り立った私は悪魔達と交戦し……撤退を余儀なくされてしまった」
「あ? 何でだ? 天使の弓があれば悪魔なんて」
「一撃で屠れる。しかし、最上位の悪魔には一撃では足らんのだ」
堕天使の言葉に、アルレシアは。いや、俺とランドドラゴンの子供も息を呑んだ。
「最上位、だと?」
「あぁ。かの大戦で死んだ筈の最上位悪魔……スロイス。それが悪魔どもによって復活させられていたのだ。まさかこのような事態になっていようとは主も思っておらず、遣わされたのは私一人だけだった。故に、撤退するしかなかった。何とか撤退出来たが、その際にスロイスから呪いを受けてしまった。堕落の呪いを。それによって私は堕天してしまった。御使いの証たる純白が、私の誇りが……あのような下賤の輩によって踏み躙られてしまった…………っ」
堕天使は唇を噛み、激情を無理矢理抑え込んでいる。
最上位悪魔の復活。これは、ちょっと不味い状況じゃないかな?
異世界トリケラロード 島地 雷夢 @shimazi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界トリケラロードの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます