第5話 危機

命からがら湊達から逃げてきた魔物が、男のもとへ駆け寄っていく。

出発時に比べて、多くその数を減らした部下に男は不審を抱く。

「どうした?何があったのだ?」

「…やけに強いのが、二人いて…みんなそいつにやられました」

「…そうか」

男は考え込み、つぶやく。

「…すこし、様子見か…」


                        ●


「それでは、軍の指揮は当分サリオンに任せることになるが、異議のあるものはいるか?」

アムロドの言葉に対して集会場から拍手が起こり、サリオンが軍の長官を務めることになった。

畑を襲った魔物に異変が見られたことを説明したところ、すぐに護衛のための集団が作られることが決定した。

住民にも事情を話し、約50人ほどの戦闘員が集まった。

だが、そのほとんどが既にほかの仕事があるため、今回の軍事は現状が改善されれば解散されるだろう。

「早速だが、あしたから周囲の警備についてもらう。よろしく頼むぞ、サリオン」

「はい、承りました」

そこで会議が終わり、湊が部屋を出ようとしたときサリオンが話しかけた。

「いまいいか?」

「ん?いいけど、どうかした?」

サリオンの真剣な表情に、湊が構える。

「私の考えでは、おそらく魔物たちがどこか近くに群れて棲みついている気がする。あとで、斥候を送り、後早めに攻撃を仕掛けようと思う。もしも、戦況が悪くなったら協力してもらってもいいか?」

「全然いいよ」

サリオンは、多忙な湊に遠慮しする気持ちもあったのだろう。

すこし緊張しているようだ。

「遠慮すんなよ。俺もこの街が大切だからさ」

湊がそう言って、サリオンの肩をたたくとサリオンは口角を上げた。

「…わかっているさ」

二人は、よく言葉を交わすわけではないが、互いに信頼を置いているようだった。


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「湊さん、作業はどんな感じなんですか?」

湊は、午前中新たな農地を確保するために、開墾作業を行っていたのだが、お昼になり、休憩を取ろうと思ったところに、リーファが弁当を持ってきたので一緒に食べることにした。

ともに作業をしていた者たちから、少し離れたところで昼食を取りながら、歓談していた。

「順調かな。あと一週間もしたらここの土地は使えるようになると思うよ」

湊をはじめ開墾作業に従事する者は、ステータスの力の数値が高く、作業は滞りなく進んでいた。

「そうですか。じゃあ、開墾作業が終わったら私の護衛についてきてくれますか?」

湊が丁寧に作った三圃式農業の資料のおかげで、彼はすでに農業主任の座から離れられている。

今作業についているのは湊のステータスがすぐれているからだ。

「いいけど、どこか行くの?」

「はい!」

リーファの表情は、遠足前日の幼稚園児のように、期待にあふれていた。

「どこに行くの?」

「まだ、内緒です」

リーファは、指を立て唇にあて、首を傾けながら言う。

その愛くるしい表情に、湊の顔は赤みを帯びていく。

「どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ?」

「いや、何でもないから大丈夫。そろそろ作業に戻るよ」

「じゃあ、私は今日移住してきた方がいらっしゃるんで、そちらの対応をしてきますね」

湊は、ごまかすように作業に戻るので、リーファも街へと戻っていった。


                        ●


「行くぞ!突っ込め!」

馬に乗ったサリオンの合図とともに、兵士たちは魔物の住処へと総攻撃をかける。

斥候の働きによってわかった住処の位置は、街から遠くない場所にあり、すぐさま攻め込むことになった。

「うおおおおおおおお!」

戦闘を行く屈強な雄たけびをあげながら進んでいく。

刹那、男の腕に矢が突き刺さり、男は倒れこむ。

それに続いて、矢の雨が降ってくる。

「「「「っっ!」」」」

軍は、どよめく。

魔物が使うはずのない矢が飛んできたのだから、驚いているのだろう。

「ひるむな、すすめ!」

サリオンの一喝によって、動きを取り戻した者たちが住処に近づいていく。

距離を詰めていくと、矢が降りやみ魔物たちが突撃してくる。

(やはり、おかしい。こんなに戦略だった攻撃を、魔物が建てられるはずがない)

サリオンは、内心焦るがそれを表情に表すわけにはいかない。

矢の牽制によってひるんだ軍の動きは、数で凌駕され、魔物によって抑えられていく。

(やむを得ない)

「撤退!」

サリオンの合図によって、皆逃げ出すがすかさず矢の追撃が彼らを襲う。

「っっ!」

そのうちの一本が、サリオンの背中に刺さり体が傾く。

兵士は動揺し歩みを止める。

「止まるな!はしれ!」

サリオンは、何とか気を保って叫ぶ。 

街につく頃には、多くのものがけがを負っていた。


                        ●


「サリオン!」

街に帰ってきたサリオンの様子を見て、湊が走って近づいていく。

サリオンは、気を失い馬から落ちる。

湊はその体を支える。

サリオンの顔は真っ青で、それに呼応して湊の顔からも血の気が引いていく。

親しい人の死を直感し、目線が揺らぐ。

「大丈夫ですよ、湊さん」

リーファは走ってサリオンに近づくと、背中の矢を引き抜き治癒魔法をかけていく。

みるみる傷がふさがっていき、血が止まる。

「これで、大丈夫です。ただ、血を失ったんで数日は安静にしないといけないですけど」 

リーファはそれだけ言うと、ほかのけが人のもとへ治癒魔法をかけに回る。

湊は、その言葉に安堵し胸を下す。

青くなった顔は、健康的な色を取り戻している。

「…よかった」

「ふん、お前に心配されるとはな」

気を取り戻したサリオンが答える。

「うるせえ」

湊は、本心をきかれ目をそらす。

「ふっ…それより、やはりあの魔物たちは普通ではない。住処は、柵で囲まれ櫓があり、うちの軍より訓練されている。しかも、数は300ほどはいる」

「やっぱり、そうか」

おそらくこれは最悪の事態だろう。

今回の敗戦で、士気が下がったうえに、戦える兵士の数も減っている。

「とりあえず、お前は休め」

「ああ」

湊は、サリオンを彼の家まで運んで行った。


                        ●


サリオンをは運び終えた湊は、集会場でリーファに相談していた。

「そうですか、どうしたもんですかね」

リーファが頤に手を当て考え込む。

「けっこきついんだよな。兵力差があるだけじゃなくて、向こうは訓練されてる。早めに倒さないと、どんどん繁殖していくし」

二人は、悩みこむ。

なんの思いつきもなく、二人が黙っているとそこに声がかかった。

「それじゃあ、ボクに任せてくれない?」

湊が声のほうを向くと、そこには最近移住してきた少女の姿があった。

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