ルミちゃん

 ルミちゃんは、サリナちゃん以上に頻繁に引っ越しをしている家の子。ご両親は研究関係のお仕事をされていて、今はこの離島に長期滞在中。


 でも、研究スパンでの長期なんて、小学生にとっては短い。三年生の途中で転校してきたルミちゃんは、みんなと一緒に卒業できない。


 ルミちゃんは音楽と図工が得意。特に音楽は、ピアノでもギターでも太鼓でも何でもできる。朝の会と終わりの会で歌うときは、あたしの代わりにオルガンを弾いてくれる。すっごい助かる。あたし、教員採用試験の直前に必死でバイエルを練習しただけの腕だから。


 海外にいたことがあるルミちゃんは、国語がちょっと苦手だ。漢字は一生懸命、習得中。方言には混乱するらしい。あたしも戸惑うことがあるから、ルミちゃんの混乱は大いによくわかる。


「先生、『アッパヨ!』って、わかる?」

「え、何それ?」

「あのね、島の人を驚かせたらね、『きゃあっ』の代わりに『アッパヨ!』って言うの」

「うそぉ!?」

「うん、嘘だと思った。だから、マツモト先生で試してみたの。そしたら、ほんとだった」


 子どもたちに驚かされたマツモト先生は「アッパヨ! ざまんたまんがったよォ!」と、とっさに口走ったらしい。


「それって日本語……?」

「あのね、『うわぁ、本当にびっくりしたよ!』って意味なんだって」

「無理無理無理、絶対にわかんない!」


 でも、マツモト先生がそんなに驚くなんて、ルミちゃんたち、何をしでかしたの? あたしは興味があったから、訊いてみたんだけど。


「企業秘密です」


 ルミちゃんは、かわいらしく、にっこりした。


 “ルミちゃんの音楽と図工のセンスは、授業の枠にはまりません。ハッとさせられることが多く、むしろこちらが学ばせていただいています”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る