【短編集】~ちょっと変な話~

魚紙奈夏乃

第1話 エイリアンin段ボール

『拾ってください。いい子です。』

「……」

「#*♪]>+¨∵?」


いやあの何語ですか。


会社で残業を終え、へとへとで家路につこうとしていた金沢 百合(25)。体力もちょっとずつ落ちてきた年ごろだ。大分現実を知ったので、もう大抵のことには驚かない自信があった。とゆうか、驚くようなこともなかった。あたりさわりない日常。これからもこんな感じで生きて、定年退職して、老後を過ごすのだと思っていた。ちなみに彼女の未来に、結婚という二文字はない。ただ、今回ばかりは、彼女も驚いた。目の前に段ボールがあった。ご丁寧に『拾ってください』なんて書かれている。ここまでなら、捨て猫か捨て犬かと思うだろう。だが、彼女の場合、中身が違った。宇宙人っぽいものが、中に入っていたのだ。

「дпёо#・*!●○▽©´?」

 しかも、明らか私達人類には通じない言語で話している。体は銀色。目が大きく、真っ黒で、口や鼻は見当たらない。

「ど、どうしましょう。保護とかした方がいいのかしら。いやでも面倒事に巻き込まれたくないし…」

 ブツブツ言っていたが、基本的に困っている人(?)は助けなきゃ、という考えなので、結局保護した。

****

「さて、拾ったはいいけどこれからどうしましょう…」

 百合が考えていると、ズボンの裾を宇宙人が引っ張ってきた。

「…意思疎通ができないのは困るわね。うーん…あ、そうだ」

 そう言うと、百合は奥に引っ込んでしまった。宇宙人は不思議そうにその様子を眺めていた。

(…お腹すいたな)

そう、今宇宙人は空腹なのだ。

「お待たせー」

しばらくして、百合が戻ってきた。手にはスケッチブックと鉛筆が握られている。

「絵心には自信があるの…」

と言いつつ、百合は二つほどある絵を描いていた。ひとつは、林檎を食べている宇宙人の絵。もうひとつは、布団に入って寝ている宇宙人の絵。

「よしっ、こんなもんでしょ。」

描きおわり、パッと宇宙人に見せる。少し宇宙人はとまどう様子を見せていたが、そのあとすぐに林檎を指した。

「おなかすいてるのね。OK!すぐ作るわ」

パッパと手際よく作ったのは、野菜炒めとインスタント味噌汁。あと白米。

「さーどうぞ!」

スプーンと箸を用意したちゃぶ台の前に、チョコンと座る宇宙人。

(どっちで食べるのかしら…)

 いい歳してわくわくしながら見ていると、不可解な事がおこった。百合が瞬きをした。一瞬。ほんの一瞬だ。その瞬間に、ちゃぶ台の上から料理が消えていたのだ。

「あれっ?料理は…?ご、ごめん。なんかきえちゃったから作りなお_______はっ!」

 宇宙人の方を見てみると、なんと口のまわりに米粒が1つついてるではないか。

 ま、まさか、食べたの?あの一瞬で?

そこで、百合は認識した。目の前の生物は、明らかな地球外生物だと。

…でも…

百合の方を見て、コテ、と首をかしげる宇宙人が可愛かったので、百合はどうでもよくなった。

そして数秒後、静かな部屋にカシャリとシャッター音が響いた。

 ****

「ん?」

宇宙人が、百合の服の裾を引っ張る。これは、何かを伝えたいという合図だ。

拾われたあとも、宇宙人はそのまま百合の家に居座り続けた。その間に、意思疎通がなんとなくだができるようになったのだ。

「えっと、はい。画用紙と鉛筆。」

渡した直後、宇宙人は物凄いスピードで絵を描きあげた。

 そこには、本を読んでいる宇宙人の姿が描かれていた。

「うーんと、これは…あぁ、なるほど」

宇宙人から渡された絵を読み解くのが、すこし楽しみになりつつある百合は、なれた様子ですぐに理解した。

 ちなみに今日は日曜日。百合も仕事は休みだ。

「やることなかったし、ちょうどいいか。」

百合は立ち上がり、バックに財布やらなんやら色々詰める。

「よしっ。いくよー宇宙人君。」

チョイチョイッと手招きすると、宇宙人は百合の元へ歩み寄る。

「はい、入って。」

 しゃがんで、バックの入り口を広げると宇宙人はバックの中に飛び込んだ。

(大きいバック持っててよかった)

 ドアを開け、外に出て歩くこと20分。百合たちが向かったのは、本屋だった。自動ドアを通り、百合はバックの中にいる宇宙人を見る。

 宇宙人は指っぽいもので右を指差した。「こっちに行けばいいのね。」

行ってみると、そこは幼児向けコーナーだった。

ここに一体なんの用が?

 と百合は内心首をかしげた。すると突然、宇宙人がバックから飛び降りたのだ。

「宇宙人君!?ちょっと、ばれちゃうよ?」

 小声で言うが、後に「あぁ、通じてないのか。」と、少し落胆する。

ハラハラと周りを見るが、人はいない。気配もない。

これなら平気かなぁ

 と息をつく。その間にも宇宙人は、幼児向けの本を漁っていた。しばらくして、いい本を見つけたらしく読み始めた。そして、パタンと閉じると百合に差し出した。

「これがいいの?…『誰でもわかる!言葉の基本と五十音』」

宇宙人を見やると、なんとなくウキウキしているのがわかった。

「本当、何に使うの?」

ぶつくさ言いながらも、バックに宇宙人をいれ、お会計を済ませる百合。

「さて、帰ろうかしら。」

そう言いながら外に出ると、宇宙人が突然不思議な機械をとりだし、スイッチを押した。瞬間、世界が止まった。百合と宇宙人を除いて。人目が無くなった世界の中に、宇宙人はバックから出て飛び込んだ。そして、側の山に走って行ってしまった。

「わわわ!ちょっと待って~!!」

 慌てて百合は、宇宙人を追いかける。空は、赤と青が混ざり、淡い紫色になっていた。そろそろ夕方になる。

****

 宇宙人に追い付いた百合は、常備しているメモに"走らないで"という絵を描き、移動を再開した。こんどは宇宙人も走らず、ゆっくり歩いていった。歩いて歩いて歩いて。やっとひらけた場所に出た。そこには、円盤型の乗り物みたいなものがあった。

「なにこれ。宇宙船…?」

おもむろに、宇宙人が船らしきものに近づく。どうやら、船は壊れているらしい。

これは…私が協力して船を直すパターンか

そう百合は考えた。だがしかし、それは間違いだった。

 宇宙人はどこからかハンマーを取り出した。結構大きい。そのハンマーを降り下ろし、

ガシャァァーン!!

そんな音と共に、宇宙船っぽい物は一つ一つのバラバラな破片になった。

「え。………ええぇえぇぇぇ!?」

百合が驚いていると、宇宙人がなに食わぬ顔で百合の裾を引っ張った。

 我にかえった百合は、メモと鉛筆を渡す。またもや凄いスピードで宇宙人は何かをかきおえる。

百合に渡し、それを見た百合は即座に意味を理解した。

一から作りなおした方が、性能的にもよくなる。

それが、宇宙人のだした答えだった。

「一から作りなおすにしても、材料とか揃うの?」

メモで素朴な疑問について聞くと、すぐに宇宙人は

大丈夫

とかえした。

*****

そのあと、止まった世界の中で材料集めをした。その材料というのが、人参、じゃがいも、豚肉、玉ねぎ、カレールー。

完全にカレー作る気だろ

と百合は思ったが、人参のかたさ、玉ねぎのうすさ、豚肉の柔らかさ、カレールーの香りなどが、材料にぴったりだそうで。

 ちなみにじゃがいもは、ただ単に食べたかったから。

どうにか集め、宇宙人に渡す。すぐに宇宙人は、じゃがいもを食べながら作業を始める。危ないなら避難して

とメモで伝えられた百合は、しばらく後ろに下がってた。宇宙人が作業しているところで、稲光と雷鳴が聞こえたから百合の判断は正しかった。…はず。

数分後に、宇宙人が百合を呼びに来た。完成したとのことだが、動かすにはしばらくかかるらしい。なので

「また居座るのね…」

あと一週間はいるとのこと。短いようで長い。

…けど、一週間過ぎたら行っちゃうのよね

少し寂しく感じる百合であった。

****

残りの一週間、宇宙人は百合に買ってもらった本を読んで過ごした。そして一日一回、必ず宇宙船の様子を見に行った。その時は、百合もろとも時間を止めて見に行った。それについて百合は

「釈然としない…」

と不満げだった。

残りの一週間は、今まで通りに過ごした。まぁ、最終日の土曜日だけは、ケーキを食べた。ちなみにケーキは百合の手作りだった。

*****

今日、宇宙人が帰る。夜に出るそうだ。そっちの方が、星に紛れてバレにくいと考えたらしい。それまで適当に過ごして、大体夜の1時くらいだろうか。出発準備をはじめた。

 宇宙人も宇宙人で荷造りがあったらしく、それなりに時間はかかったが、1時15分には出れたと思う。

 時間を止めて、二人は宇宙船に向かう。若干百合は迷いかけたが、保険として入り口から紐を伸ばして来ていたので、帰りは迷わない。

「はあっ!あー、やっとついたぁ…!」

またもやひらけた場所に出た。そこにある宇宙船は、前とは違い浮いていた。地面から数cm離れているのだ。

スゴいな…

百合は純粋にそう思った。

宇宙人が、突然百合の横から離れ宇宙船の入り口らしき物の前に移動する。

「…バイバイだね。」

百合は、奥から何かが押し上げられる感覚を感じていた。どうにか我慢して、宇宙人に声をかける。

宇宙人はいそいそと荷物の中からものを取り出す。それは、紙だった。でもただの紙じゃない。

「手紙…?」

それだけ渡すと、宇宙人は宇宙船に入りとんで夜空に消えてしまった。

 百合が手紙を開くと、そこには

『ありがとう だいすきでした。 さよ なら』

世辞にも上手いとは言えない字で、百合への感謝が書かれていた。たったあれだけ。あれだけで、百合の心は暖まり、同時に締め付けられた。さっき押し込めた何かが、また奥から押し上げられてきた。

「う、あぁ…うぅっ…っ…!」

 涙が、ボロボロ百合の瞳からこぼれ落ちた。涙は地面にしみをつくり、またとどまることを知らなかった。

 動き出した世界。1時15分の夜空は、星が瞬いていた。宇宙人は一体どの星にいるんだろう。

「会いたいなぁ…!」

百合は、宇宙人が大事な存在になっていたことに気がついた。そして、一人の部屋に帰ることを考えると、また涙が出てきた。

しばらく帰れそうにないな。

百合は泣きながらそう考えた。嗚咽が響く山のなかは、ひどく静かだった。

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