怪奇短編「母のレコード」

私の母ミワコはレコード収集が趣味で、昔から家には沢山のアナログ盤が並んでいた。 

近所に昔ながらのレコードショップがあって、若いころはそのお店に頼んで輸入盤なんかも取り寄せてたらしい。そのお店が先日ついに惜しまれつつも閉店してしまったので、その時に母から聞いた話。


母がまだ若いころ(おっ? さだ〇さし?) 

ある日、いつものように顔なじみのレコード屋の御主人から電話がかかってきて

「ミワコちゃん、頼んでたレコードが入ったから取りにおいで」

と言われたので、さっそく行って紙袋いっぱいのレコードを持ち帰ってきたミワコさん。

中身を改めると注文したモノは全部入ってたけど、その中に一枚おかしなものが入ってる。

レコードに違いはないけど、粗末な茶色い薄紙に包まれていて、しかもタイトルも何も書かれていないただのレコード。

なんだろこれ、海賊版か何かかしら。

 

奇妙なレコードではあったのだが、それに俄然興味を持った母ミワコはその早速レコードを再生してみる事に。この母あってこの子あり、だな。

でレコード。プレーヤーにセットして針を落とすけど、プツッと音がしたっきり。

あれ、何も音がしない。

 

色々調整したけれどやっぱりダメ。

もしかして……レコードをひっくり返して再び針を落とす。

すると

むぉーーーーーあぐぉおおおおおお、ぶの!!!!

あっ、何か入ってる!

どんな歌が入っているのか気になって、回転数を調整していく。すると、どんどん音声が鮮明になってゆく。でも、なんだかずっと同じ事を言っているようだ。

むぅぅぅいいああああごおおおお、ぐぉず!

むぅいいいわああああごおおおお、ごおず!


なんて言ってるんだろう、もう少し、もう少し調整すれば……。


みぃぃぃぃぃうぉわあああああご、ごどず!


やがて地獄の底から響き渡るような声がプレーヤーから放たれた。

 

ミワコ、殺す!!!! 

 

母はそれから少しの間の記憶がなく、そのレコードをどう処分したのか未だにわからないらしい。

我が家には今でも大量のアナログ盤のコレクションがあるけど、もしかしたら、そこにまだ紛れているのかも。

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