怪奇短編「悪友のいた団地」
中学生のころ、年上の悪友Y君の家に入り浸って遊んでいる事が多かった。
市郊外にある大きな団地の5階の角部屋が彼の家だった。私が中学2年の時、Y君は17歳だった。高校はとっくにやめちゃって、映画や漫画、音楽、そして性体験と幅広い知識を持つY君の話に私は夢中だった。吸血鬼ゴケミドロやエル・トポといった少々アレな映画もこのときにY君が教えてくれた。
Y君の家は母子家庭で、お母さんはホステスをしていたから夕方から家に居なくて、私とY君はいつも好き放題遊んでいた。
と言っても私は煙草を吸わないし、お酒も飲まない。で、Y君は真逆だった。
高校生のくせに煙草もお酒もどんどんやっていた。
色は白くて黒く少し伸びた髪の毛はつやつやしてて、華奢で顔たちも整っているY君は男の私から見ても可愛いようなかっこいいような、とても魅力的な人だった。
そんなある夜。いつものように話し込んでハっと気づけば夜11時を回っていた。
ヤバい!
わやだわ!(三河弁)
私の母親は当時再婚していて、その新しいお父さんの怖いのなんの。
当時27歳。身長180センチの痩せマッチョ。元水泳部のエースで体力満点、そのうえ喧嘩も強くて(聞けば元番長で実家はテキヤさんだというから根っからのホンモンだ)実は私も再婚当初相手になったけど歯が立たなかった。
なんというか人間としての迫力が違ったんだな。
それがこのエッセイをいつもご覧頂いている方にはお馴染み、輝さんである。
今日初めてご覧下さった方に申し上げますと、そういう人がこのエッセイの作者の父親なのです。
佐藤輝之さんといいます。よろしくね。
そんなわけで私は死にそうな顔をして、あーーどうしよう! と狼狽えつつ、急いでY君の部屋を飛び出してエレベーターのボタンをパン! と音がするほど叩いた。
ヒューーン……と音がしてエレベーターが下りてきた。
で、私の居る前を通り過ぎて行った。
おいおい! と思っていると、背後から
ギィィィィ、と団地特有の重くて冷たい鉄のドアが軋む音がした。Y君かな、と振り向くと、Y君の隣の部屋のドアが数センチだけ開いていた。
数秒経っても誰も出てこないし何も起こらない。
変だな、と向き直ると電気の点いたエレベーターが目の前で静かに止まっていた。
ドアは閉まったままだった。
明るい箱の中で、誰かがぶら下がって揺れていた。
ちょうどドア窓の向こうに足腰があって、胸から上は見えなかった。
紺色の背広を着て黒っぽい革靴を履いてたのを鮮明に覚えている。
私は叫び出しそうになるのをこらえて、階段を半ば飛び降りるようにして駆け下りた。
ぜえぜえ言って1階のエントランスに辿り着くと、上から
ヒューーン……という音がしてエレベーターが下りてきた。呆然と立ち尽くしていると明かりの点いた小箱がやってきて目の前で止まった。中には何も、いや誰も乗っていなかった。
がこん、と音がしてドアが開いた。
そこから自宅まで数キロの道のりをどうやって帰ったのか全く覚えていない。
そして玄関のドアをそーっと開けると、よりによって風呂上がりの新しいお父さん。
お父さんこと輝さんは無言で私(当時170センチ81キロ)の襟首をひっつかみ、家の外に放り投げた。アスファルトに横たわった私に向かって
「お前なにやってたんだ!」
「と、友達の家に」
「バカお前! 頭の上に首吊った奴なんか乗っけて帰ってくるな!」
お父さんは40歳になったら修行しろ、と言われるぐらいのとても霊感の強い人だったのだ。
それは母と結婚する前から聞いていたけど、この件でも十二分に立証された。
後日Y君に聞いたら、あのドアの空いた部屋はずいぶん前から空き部屋だったらしい。
それと、あのエレベーターの怪現象との因果はわからない。
Y君母子はその後色々あって団地を去ってしまい、私ももうその団地に近寄ることはなくなってしまった。
「悪友のいた団地」おしまい。
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