怪奇短編「びっくりばあちゃん」

 もう二十年以上前の話ですが、今でも忘れられない出来事を書きます

 当時、私は家からすぐ近くのお寺にある幼稚園に通っていました。周囲にも大小さまざまなお寺や墓地、さらに昔ながらの商店街もあるいわゆる寺町の一角にあったので、決して広くはなく小さいながらもとても明るく楽しい幼稚園でした

 普段は夕方になると母親がお迎えに来てくれるのですが、パートで勤め始めてからは時々おばあちゃんが徒歩で迎えに来てくれることがあって

 幼稚園が終わって園庭で遊んでいると、時折

「おーい和哉」

 とおばあちゃんが呼んでくれる。当時は近所にダイエーもあって、そこのフードコートでタコ焼きやアイスクリームも買ってくれました。私はおばあちゃん子だったので、これは嬉しいサプライズでした

 

 年長組さんに上がった頃

 お迎え待ちの時間にテラスに座っていたシンペイ君を私と間違えて

「おーい和哉」

 と声をかけ、ヒョイと顔を覗き込んだ私のおばあちゃん。驚いたシンペイ君も、私も、おばあちゃんや先生も、友達みんなも笑っていました 

 その日以来、シンペイ君は私のおばあちゃんを

「びっくりばあちゃん」

 と呼ぶようになりました。そして私のおばあちゃんには「びっくりばあちゃん」という愛称が付きました。おばあちゃんが迎えに来ると

「和哉、びっくりばあちゃんが来たよ!」

 といった感じで呼ばれることもあったぐらいです

 

 ある日のお迎えに待ちの時間、仲の良かったノブオ君が

「和哉、おばあちゃんが来たよ!」

 と教えてくれました。私は例のびっくりばあちゃんが来たと思って園庭を探しましたが、姿がありません。そして、その日は間もなくいつものように母が迎えに来ました 

 それからも時折、ヒデシ君やマサヨシ君が

「和哉、おばあちゃん来たよ!」

 と言ってくれるのですが、何処にも姿はありません。他のお迎えに来てくれた人を見て間違えたか、からかっているのかなと思っていました


 ある日シンペイ君の一言を聞くまでは

「和哉、知らないお婆ちゃんが探してるよ!」

 シンペイ君は私と見間違えられた時におばあちゃんに会っているので、びっくりばあちゃんの顔を知っていたのです。しかし、その時シンペイ君の元にやってきたのは

 もっと汚くて、よぼよぼのおばあさんで

「和哉を知らないかい?」

 としわがれた声で聞いてきたそうです 

 

 私自身は、卒園までついにその知らないおばあさんを見る事はありませんでした。一体そのよぼよぼのおばあさんの正体と、私を探す目的は何だったのか。


 もし、そのおばあさんが私を見つけていたらと思うと……今でもぞっとします


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