縁と絆と人外と

十六夜 透夜

第1話 そなたは誰じゃ?って俺が聞きたい!

一人寂しく夜の家路を歩く俺は洲崎 透すざきとおる

工場勤務の冴えない25歳独身男性だ。

ただ、自慢なのは職場の近くにある山の中にある一軒家を父親の知人から

安く手に入れられたことだな。

小さいころからこの山で遊んで、この一軒家を秘密基地にしたりして・・・

まぁ難点は最短距離にあるコンビニは自転車で15分というのがちょっと・・・

ってことぐらいかな?

まぁ、なんにしても広い一軒家を一人ぐーたらしながら暮らせるのが唯一の自慢だ

最近貯めた金でエアコンやら床暖房やらも入れたからさらに快適だしな


「さてと、家に着いた・・・」


鍵を差込み、左に回して鍵を開ける

むわぁっ、と熱気が体を包んだ

そう、何を隠そう今は夏、そう、夏なのだ。

しかも、今年は猛暑。

いやぁ、立ち止まった瞬間汗が止まんない上にこの帰ってきた瞬間の熱気は猛暑じゃなくってもつらいです、はい。


「エアコン、エアコン!」


リビングに入り、すぐにエアコンを入れる。

涼しい風が体を冷やしてくれる


ガタン・・・・


台所からなにやら物音が・・・・しかもなんか冷蔵庫の食材を食す音も聞こえ始めた

一瞬で違う意味の涼しさを感じる

汗も違う意味の汗をかき始めた

脱ごうとしたワイシャツに掛けたても止まってしまう


「まさか・・・・泥棒?山ん中だぞ?あぁ、山ん中だから山賊か・・・・・」


いやいやいや・・・そんなこと言ってる場合じゃない。

警察に連絡するか!?

どーする?どーするよ俺。

使える手札があまりにも少ないぞ


「スマフォでまずは警察への電話番号を控えておいて確認しよう・・・あと、武器はリモコンでいいか」


とりあえずの準備をして台所へ向かった


「「っ!?!?」」


目が合った!

冷蔵庫の野菜室を開けて野菜を貪る黒髪ロングに黒い蝶の模様を描いた紅い着物を着た少女だ・・・ってなんだよこの漫画的展開!!いや、これはさk(ry


「そ・・・そそ・・・」


なんかその少女がレタスを片手に俺を指差してうろたえて何か言おうとしてる


「そなたは誰じゃ!?!?」

「俺が聞きたいわ!!とりあえず警察呼ぶからな!」


俺は迷いなくスマフォの赤い受話器ボタンをタップ使用としたが少女が腕を掴み阻止される


「や、やめるのじゃ!後生じゃから!」

「えぇ~・・・・」

「そ、その、おなかが減っていたのじゃ!この姿になったら急に・・・」


はぁ?わけの分からない・・・本当にわけが分からない


「その・・・話だけでも聞いてもらえないじゃろうか?」


背の低いのその少女が腕を掴んで離さない。

その上目を涙でにじませながら懇願してくる

俺は少し冷静じゃなかったかもしれない、この子はまだ子供じゃないか?

それでおなかをすかせて忍びこんだ。

まさか虐待?ならなおさら警察?

とりあえず話を聞いてみるくらいのことはするか


「わかったよ、仕方ないな」

「ホ・・・・」


胸を撫で下ろすようなしぐさをして、腕を掴んだ手を離して二人でリビングのソファに座る


「んで?話って何だ?納得できる言い訳か?」


我ながら子供になんてことを・・・

口に出してから少し後悔したが、少女はそれになんのリアクションもせずに口を開いた


「信じてもらえないかもしれんが我は変化へんげじゃ。ほら、妖怪とかそういった類の」

「すみません、警察呼びますね」

「ちょ!?話はまだ終わっておらぬのに!?」


めっちゃあわてて、スマフォを奪い取ろうとする

この子、割といいリアクションするなw


「わかったわかった。んで妖怪が何のようかい?」

「信じておらんじゃろ、その反応。まぁよいわ。これを見れば信じるじゃろ」

「は・・・・!?」


少女の体から赤黒い煙のようなものが湧き出て、背中から・・・蜘蛛の手!?脚!?

うわ、なにこれ!?うわ!?

俺はスマフォを手から落として後ずさろうにもソファに座ったまま動けない

なんていうか、プレッシャー?みたいなもので動けないのだ


「これで信じたかの?もちろん蜘蛛のサイズにもなれるんじゃがこっちのほうが信じやすいじゃろう?」

「あ、あぁわかったから、それ仕舞ってくれ、頼む」


と、俺は震える体を抑えながら頼むとにっこりと笑って蜘蛛の手足を仕舞う

それと同時に辺りを覆った赤黒い煙のようなものは収まり、少女も普通に戻る


「これで分かってもらえたと思うんじゃが、我は蜘蛛の変化なのじゃ。それにここでずーっと暮らしてきた蜘蛛じゃ」

「ここでずっと?・・・・え?」

「そうじゃ。おぬしがここで暮らす前からずっとじゃ」


え?じゃぁこいつ俺より前からすんでた?いつからだ?


「それなのに或る日突然我は誰かにこの家から追い出されたのじゃ。そこの台所の隅で隠れ住んでいただけだったはずなのにじゃ」


胸の前に腕を組み、怒った表情で語る

あれ?部屋の隅でうずくまってた蜘蛛・・・・?


「それで我は仕方なくこの家の付近をうろついてたんじゃが、なぜかこの家の付近には虫が寄り付かんのでな?腹がさすがに限界が来て・・・・・。どうしたそなた」

「・・・・それって、このくらいの蜘蛛か?」


手のひら大の大きさを作って聞く

すると、少女は怒りの表情を見せる


「そなたが我をほっぽりだしたんじゃな・・・?よくも、飢え死に寸前までにしてくれたなぁ・・・この恨み・・・死を持って・・・」

「ちょ、ちょっとまて。俺はちゃんと理由があって逃がしたんだ!害虫駆除の煙を炊いたらお前死んじまうだろ!?さすがに昔よく目にした蜘蛛を殺すのはちょっと抵抗があったからだから逃がしたんだよ!!そっからまさか戻ってくるなんて思わないだろ!!」


俺は怒りの形相の少女に手を向けてわけを話す。

すると少女はきょとんとした表情にかわり首をかしげる


「そなた、あのときの坊やなのか?」

「・・・そうだよ。よく観察してた坊やだよ。」

「あぁ、そうか・・・大きくなったのう・・・。だがそれとこれとは別じゃ。やはりくろうてやらねば」

「おい、ちょっとまて、そこは空気を呼んで殺さずに出てくとこだろ!?」


と、逃げようとした瞬間少女は吹き出して笑った


「ククク・・・冗談じゃ。昔のよしみで許してやろう。あの時は幾度も助けられたからの。ただし」


俺は間抜けに逃げようとしたカッコウのまま少女の顔を見る


「ここに住まわせてくれ。なんだかんだでここは居心地が良いからのう。それにそなたともまた、一緒にいられる、退屈もせんから」

「あ、はい。食わないんならもうそれで結構ですはい」

「そういえばそなた、名は?」

「洲崎透。25歳独身だよ」

「そうかそうか、我はつくろいじゃ。歳は・・・・わからん!」

「・・・はい?」


長く生き過ぎて分からんようになった!!と大笑いする少女

繕はこう見えても蜘蛛だ。

こうして俺は日常がぶっ壊れて日常の姿をした非日常を過ごすことになったんだ

この先、もっと非日常が俺の日常を塗り替えていくことも知らずに

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