第138話 動き始めた計画 その5
彼女はそう言うと、銃っぽい造形の機械を俺の前に差し出した。この突然の行動に俺は目を疑って2度見する。
「ちょ、それ!」
「あ、ああ……。あのですね、これは私専用です!」
俺が何を言いたいのかすぐに察したモモは、とっさに言い訳っぽくその銃について慌てて説明する。その言葉をすぐに信じる事が出来なかった俺は、分かりやすく落胆した。
「なんでだよぉ~。俺がどれだけ飛び道具をリクエストしても拒否られていたのにぃ」
「これは……私のスーツ用にカスタマイズしているんです。腕輪にリンクしないと使えません」
嘆く俺を納得させるように、彼女はその銃の説明を続ける。腕輪に繋げる事でスーツエネルギーを何らかの形で弾丸か何かのエネルギーに変換する仕組みのようだ。まさにスーツエネルギーありきの遠距離攻撃装置。俺が求めていた理想の武器だった。
モモの持っているのが専用武器と言う事だったので、今回はその武器を潔くあきらめる。代わりに俺はニッコリと笑顔を浮かべて、彼女に頼み込んだ。
「今度、所長に俺用のも作ってって言っといて」
「は、はい……」
モモはぎこちない笑顔で俺の頼みを聞き入れる。その表情から言ってあんまり乗り気じゃなさそうだなぁ。どうして所長は頑なに俺に武器を与えてくれないんだ。
色んな疑問が頭の中で渦巻くものの、取り敢えずそれは別件で置いといて、俺は純粋な好奇心で質問する。
「で、それの威力は?」
「使う時が来たら分かりますよ」
「じゃあ、期待してるよ」
銃の性能についてはっきりした答えが聞けなかった事から、まだ十分な性能検査をしていない事がうかがわれた。俺は詳細を聞くのをあきらめ、実践で使われた時にその能力を目に焼き付けようと決意する。
車はやがて所長の指示した施設前に辿り着いた。そこは無人施設でも最大規模の場所。駐車場に車を停めて外に出ると、先に来ていたソラが声をかけてきた。
所長の言葉の通りに彼がいたと言う事で、俺は改めて彼女の読みの正確さを実感する。
「遅かったな」
「作戦を聞いてたからな。お前がせっかちすぎるんだよ」
「いつも計算通りに事が進むとは限らないだろ?いざって時のためだよ」
どうやらソラは少しでも早めに現場についておきたかったらしい。敵がやってくる前に合流出来て本当に良かった。
それでも、一応確認のために彼に声をかける。
「まだ敵は来てないな」
「一応な」
「作戦、聞いてるか?」
俺はソラに向かって話しかけた。作戦も聞かずに飛び出した以上、意見のすり合わせも必要だろうから。すると彼は少し投げやりっぽく俺に向って言い放つ。
「どーせ行きあたりばったりなんだろ?」
「う……」
「敵のデータが足りないからな。アリカが何を言うのかはすぐに分かる。俺が結界で守るから、その間にしっかり分析して適切な攻撃をしてくれよ」
このソラの口から出た作戦が行きの車内でモモが提案したプランとほぼ同じだったので、そのシンクロ具合に俺は感心する。
「何もかもお見通しか」
「当然。あ、後な……」
ここで何か追加の情報を口にしようとする彼に、俺は悪い予感を覚えた。
「な、何だよ?」
「俺の結界、あのセンとか言うヤツはスパッと斬るから」
「お、おい、それって……」
ここに来ての新情報に俺は動揺する。前回の戦いで黒スーツ男とまともに戦ったのはソラだけで、その時の情報が共有化されていなかったのだ。こんな直前になってそんな重要な情報を口にされても困る。
俺がこの情報に対してどう処理していいか頭を悩ませていると、ソラは更にやばい情報を口にする。
「後、あの斬撃が直撃したらスーツでもヤバイから気をつけろよ」
「お、おう……。でもそれで倒せるのか?」
俺は根本的な質問を彼にぶつける。勝てそうにない相手ならもっと焦っていてもおかしくないはずだけど、目の前のソラはどこか余裕を持っていたからだ。
その余裕の理由を、彼は少し得意げに口にした。
「アイツには反転が効く。まだ対策済みでないならな。それに動きもそこまで早くない。だから隙を突けばそんなに脅威じゃない」
「じゃあセンはお前に任せた」
頭の中に攻略法が出来上がっているみたいなその口ぶりを聞いた俺は、リーダー特権で黒スーツの担当をソラに任せる。なのに天の邪鬼の彼はすぐに別の意見を出して現場を混乱させた。
「いやここはリーダーの出番でしょ」
「何でだよ!」
ソラは何故か黒スーツの相手を俺にさせようとする。その思考パターンが理解出来なかった俺は当然のように反発した。
この俺の反応を見た彼は何故そう言う判断をしたのか、その理由をしれっと説明する。
「反転のいい練習になるじゃん」
「まだマスターしてないっての」
「えぇー」
俺の返事を聞いたソラは露骨に理不尽そうな顔をする。そんな表情をされても使えないものは使えない。期待に添えなかったと言う事で俺はちょっといじけた。
「悪かったな、トロ臭くてよ……」
「みんな黙って!敵が来る!」
ソラと三文芝居をしている間に所長の想定通りに敵が現れたようだ。モモの言葉に俺達もその声の方向に顔を向ける。するとゆっくりと歩いてくる黒スーツ男と黒フード男が視界に入ってきた。
俺達が気付いたと言う事は、必然的に相手から俺達の姿が見えたと言う事で、敵側もまた俺達に向って声をかけてきた。
「む!やはり現れたか!」
「3人揃ってのお出迎え、御苦労な事です」
「そりゃどうも」
黒フードのファールゥが俺達に向って丁寧に挨拶を交わしてきたので、つい反射的に俺も頭を下げる。紳士的な相手かと思っていたら、奴は突然俺達に向って予告なしに手をかざしてきた。
「そうしてこれでさよならです。火炎連弾」
「い、いきなりぃ!?」
モモが驚く中、俺達は黒フードの起こした火炎攻撃の攻撃にさらされる。連続して発射されるその火炎弾の爆風で視界は一気に不透明になった。
この先制攻撃の様子を目にしたセンは、感心したようにファールゥの顔を見た。
「某が出るまでもなかったか」
「いや、見てください」
黒フードはそう言って目の前の攻撃対象に向って指を指した。やがて爆風が収まり、結界でノーダメージの俺達が現れる。そう、テンプレ通りソラの張った結界でファールゥの魔法を全て無効化していたのだ。
この状況に、黒スーツは軽く感心する。
「ほう、敵ながらあっぱれ……」
「不意打ちとか悪党っぽいじゃん」
とっさに結界を張って危機を脱したソラは不意打ち魔法を仕掛けてきたファールゥに向って不敵な笑みを浮かべた。
俺達もすぐに臨戦態勢を取る中、MGSの幹部は自分の攻撃が無効化されたと言うのに全く余裕な態度を崩さず、更に感心するように彼の結界を褒め称える。
「へぇ、生で見たのは初めてですが、我が組織が苦戦する訳です」
「あの結界なら某が斬れる。その後で炎を……」
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