第123話 タイムリミット その7

「爆弾が爆発するかも知れないって。爆弾の場所はまだ不明」


 このいきなりの情報に俺は焦る。つまり今のバトルにはタイムリミットがあるらしい。これは一刻も早く加勢しなければ。俺はすぐに現在の戦況についての確認をする。


「ソラは大丈夫なんですか?」


「彼は今、例のレッドスーツ男と交戦中、でもピンチらしいんだ」


 彼女の話から更に詳しい状況を聞いてもいいけど、冷静な状況判断が今の自分に出来るかは分からない。そう考えた俺は少しでも時間を有効に使おうと、今後の行動の指針を自分より冷静な判断の出来る所長に委ねた。


「俺はどっちに向かえば……」


「当然、爆発物を探して!モモと一緒にね」


「了解です」


 俺は彼女のその判断を信じる事にする。2つの問題が同時に起こっている場合、そのひとつをしっかり選ぶ事が重要だ。迷っていたらどっちの問題も解決出来なくなるかも知れない。そうなってしまったら加勢する意味がない。

 俺はソラに加勢する可能性をすっぱりとあきらめ、頭の中を探索モードに完全に切り替えた。


「ソラ……悪い。何とか耐えてくれよ……」


 司令室では、サポートスタッフが所長にさっきの言葉の確認を取っていた。


「良かったんですか?」


「仕方ないよ、街の住人の命には変えられえない。それに、あの子ならきっとやってくれる!」


 彼女もまた難しい決断の責任を感じ、ソラの実力を信じていた。何もかも中途半端になって手遅れになるのが一番最悪の展開だ。だからこそ、最善の一手を選ぶ事はとても大事と言える。所長は司令室の机に両肘を当てて両手を組むと、自分の立案した作戦の成功を祈った。


 ヘリは思いの外早く現場に到着し、俺は上空から気前よく飛び降りる。


「とおっ!」


 そのままパラシュートもなく地面に直に落下した。とんでもない圧が体にかかるものの、それもスーツの能力で相殺。自由落下のスピードのまま地面に着地した。

 洋画のヒーローモノのようなかっこいい着地を決めると、すぐに近くにいたモモが俺の方に駆け寄ってくる。


「リーダーッ!」


「お待たせ!じゃあ急ごう!」


「はい!」


 どうやら事前に打ち合わせは完了していらしい。一刻の猶予もない事を実感していた俺は、彼女と一緒にそのまま爆弾探しに駆け出した。俺達2人が戦闘状態のソラを無視して動き出したのを横目で見ながら、コウは自分に向かい合っている元仲間に向かって軽口を叩く。


「あらら、どうやらリーダーはお前の加勢には来てくれへんようやけど?」


「それはな……。俺がお前に勝てるって判断したからだよっ!」


 ソラはそう言いながら目の前の敵に向かって念動力をまとわせ破壊力を増した拳をボディにめり込ませる。その力の差から余裕をぶっこいていた赤スーツは、この不意打ちをまともに食らって体をくの字に曲げた。


「ぐふっ!」


「そしてその判断は正しい。俺はお前には負けない」


 見事に反撃を成功させた彼は身体をかがませているコウに向かって堂々と宣言した。反撃されると思っていなかった赤スーツは脂汗を流しながら、自分にダメージを与えた目の前の元同僚の実力を改めて認める。


「や、やるやんけ」


「こうなったらとことんやりあおーぜ!」


「それはこっちの台詞やあっ!」


 ソラの攻撃をまともに受けたコウも、苦しんでいたのは数秒の間だけでスーツの機能ですぐに復活を果たしていた。こうしてウィルスに侵されている彼とほぼ万全の体調のコウの第2ラウンドが始まった。



 そんな白熱したバトルをまるっと無視した俺達はこの街のどこかにある爆弾を探す。最悪の事態を何としても阻止するためだ。ソラの加勢をしなかった分、確実に成果を挙げなければと俺は焦った。

 ただ、こう言う作業は俺にとって全くの門外漢だ。と言うのもあって、一緒に探しているモモに頼る事になる。


「分かる?」


「各種センサーを感度を最大限に上げていますけど……」


「そっか。参ったな」


 どうやらこの反応から言っても彼女の頭脳を持ってしても簡単に爆弾は見つかるものではないらしい。何か――何かすぐに分かる方法は――。俺は効率のいい方法を考えて、そこである結論を導き出した。


「あ!あの怪人を問い詰めようか。結構口が軽そうだし」


「いえ、あの口の軽さも計算に入っていると考えるべきです」


 俺のこのナイスなアイディアも、モモに言わせれば何か問題があるらしい。その問題点に思い当たるフシのなかった俺は思わず聞き返していた。


「と言うと?」


「ゾルグは正確な爆弾の設置位置は知らされてはいないでしょう。逆に適当な事を言われて混乱するかも……」


「なるほど。そうかも知れないな」


 秘密は秘密を守れる者にしか伝えられない。でないと秘密を維持する事が出来ないからだ。仕事仲間に口が軽いのがいたなら、そいつに正しい情報を与えるはずがない。自分が悪の立場だったらすぐに分かる事だった。


 こうして敵に頼れない事が分かった時点で、俺達に残された選択肢は自力で爆弾を探すのその一択しかなくなった。結局最初に戻っただけなんだけど。

 俺がうんうんと納得してうなずいていると、彼女から厳しい一言が飛んできた。


「リーダーもぼうっとしてないで感度を上げてください」


「分かったよ。あ、そうだ、所長は?こう言う時に役に立ってもらわないと……」


 俺はもうひとつの手段として、この状況をモニターしている天才少女に頼る選択肢をチョイスする。スーツヘルメットに耳を澄ますと、すぐに返事が返ってきた。


「今やってる。街の各監視カメラを調べてるからもうちょっと待って」


「でも監視カメラに映ってるとは限らないんじゃ……」


「何か不自然な部分があればそれが怪しいはず」


 この所長の作戦を聞いて俺は不安を感じる。セルレイスが自前の犯行を監視カメラに無様に映させるような間抜けをするとは思えなかったからだ。それで所長に忠告しする事にした。釈迦に説法かもだけど。


「そう言うのってダミー情報を入れていると思った方がいいぞ」


 ここまでやり取りを黙って聞いていたモモが、そこで急に話に割って入ってきた。


「だからここに私達がいるんです。個別に効率良くチェックしていきましょう」


「お、おう。分かった」


「こうしている内にもどんどん残り時間は減っていくばかりですからね!」


 やる気満々の彼女に急かされて、早速爆弾探しは開始される。それでも何のあてもなく探すのは流石に時間の無駄だと言う事で、所長からの指示に従った。


「急いで!解析結果で怪しい部分が確認されたのは20ヶ所!」


「そ、そんなに?」


「何よ、これでも絞ったんだからね」


 俺が彼女からの情報にたじろいでいる中、逆にモモは闘志をみなぎらせていた。


「位置情報をお願いします。全て調べます!」


「分かった!転送する!」


 そうして所長の分析したデータは秒でヘルメットに転送される。

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