第124話 タイムリミット その8

 その結果を見た俺は、自分達に任された仕事量を想定して途方に暮れた。


「うげ、結構バラバラだな」


「それじゃあ、個別に向かいましょう!」


「わ、分かった!」


 悩む時間も惜しいと、先に彼女の方から駆け出していく。俺もワンテンポ遅れて走り出した。まずは効率のいい探索ルートを走りながら構築しないと――。



 ソラを適当にあしらいながら、赤スーツは走り出していく俺達を見て軽口を叩く。


「お、やっと爆弾を探し始めたんか、無駄な事を」


「旋回パンチ!」


 余所見をしたコウに向かってソラの必殺パンチが空を切った。元々武闘派でない彼の単調な攻撃は簡単に赤スーツに察知されて余裕で避けられてしまう。


「お前の攻撃も無駄やけどな!」


「くっ!」


「今度はこっちの番や!喰らえ!赤龍拳!」


 コウは攻撃を避けながら、次は自分の番だと得意の技を披露する。赤龍拳と名付けられた力を上乗せされたパンチは、ソラのとっさのガードを軽々と弾いてスーツのボディに深くめり込んだ。無効化されないダメージによって彼は苦痛の声を上げる。


「くぅぅっ!」


「かーらーのー、無限ラッシュや!」


 ガードが弾かれて出来た隙を突いて、赤スーツの怒涛の連続攻撃が始まる。この防御をさせる時間を作らせない敵の連撃を、彼はただただ受けるばかりの状態になってしまった。


「ぐぼおおぉぉぉっ!」


「あはっ、このサンドバック結構殴り心地ええやん!」


 多種多様なパンチにキック。反撃が来ないのをいい事にコウは調子に乗って攻撃を繰り出し続ける。一連の連続攻撃が終わると、ソラは立つ事も出来ず、その場にバタリと倒れ込んだ。


「ぐはあっ!」


 彼はこうして倒れたものの、赤スーツは追撃しなかった。ただその様子をじいっと様子を見ている。攻撃が収まったのもあって、ソラはそれからゆっくりと立ち上がった。コウはその様子を見て満足げに笑う。


「やっぱそう来なくちゃなぁ。そろそろトドメ行こか!ファイナルアッパー!」


 立ち上がってすぐのその余裕のない瞬間を狙って、赤スーツは必殺の攻撃を叩き込む。これが決まればヤツの勝利は約束されたも同じだった。そう、その攻撃が完全に決まったならば――。


「けっ、何がファイナルだよバーカ!」


 ソラはドヤ顔のコウの必殺技を紙一重で避けたのだ。蓄積されたダメージとウィルスの影響で、もう素早く動くのは不可能に近いはずだったのに。

 このありえない現象に、今まで余裕たっぷりだった赤スーツも流石に動揺する。


「避けた……やて?」


「お、オデのウィルスに侵されていてあの動き……おかしいべ」


 結界内に閉じ込められたままのゾルグも、機敏に動く彼の姿に困惑している。ソラはバックステップで十分な距離を取ると、状況の把握出来ていない敵2体に対して早速種明かしをした。


「はん!テメーのウィルスなんてとっくにアリカが解析して無効化してたんだよっ!」


「嘘だべ!そんなはずはないべ!」


 その言葉にゾルグはムキになって反論する。よっぽど自分の能力に自信があったのだろう。身動きの取れない結界内で、外から見ても分かりやすいくらいに悔しがっていた。

 ウィルス無効化を宣言したソラは、更に新しい情報を開示する。


「あ、それとぉ……スーツのデータがアップデートされたから」


「何……やと?」


「今から当社比220%の戦闘を見せてやるぜ!」


 所長が司令室に入ってソラの苦戦を知った段階から、基地では彼のスーツのバージョンアップに向けて突貫で作業が開始されていたのだ。これを爆弾探索と並行して行っていたのだから、流石は天才の仕事と言えるだろう。

 そうしてウィルスの除去とスーツのバージョンアップも無事なされ、ここから先は彼の反撃が開始される流れになった。


 ついさっきまで余裕たっぷりのナメプをしていたコウの顔から血の気が引いていく。ソラはそこで出来た隙を見逃さなかった。



 その頃、俺達は街に仕掛けられた爆弾を探そうと、必死にその痕跡を辿っていた。


「ここも違う!」


「ここにもない!」


 所長が導き出した20ヵ所を次々にチェックしていく。その場所自体はどれもが怪しい雰囲気を醸し出していたものの、現地について確認すると、どこにもそれらしきものは発見されなかった。

 幾つかの場所を巡った後に俺は、同じ作業をしている同僚に連絡を取る。


「ピーチ、どれだけ潰した?」


「私は7つ」


「俺は5つだ。ヤバイな」


 もう残り時間は後10分を切っている。チェックするべき場所は後8つ。もし最後の最後に爆弾が見つかった場合、解体する余裕はあるだろうか。

 しかも全部調べたところで爆弾が見つかるとも限らない。焦りが募る中、この状況を打破しようと必死に考えを巡らせていたモモが何かを閃く。


「もしかして……」


「どうした?」


「どこかに設置していると考えていたのが間違いだったのかも!急いで!」


 彼女はそう叫ぶといきなり走り出す。そんな急かされても行き先すら見当のつかない俺は当然のように戸惑った。


「えっと、どこに行けば?」


「ソラのもとに。鍵はあのレッドスーツ!」


「分かった!」


 何だかよく分からないものの、今はこのモモの閃きに賭けるしかないと、俺もすぐに走り出す。今、あの戦いはどうなっているだろう。ウィルスで弱体化してかなり戦況的にも不利だったはずだ。

 最悪の想定もしながら、俺は少しでも早く合流しようと踏み出す足に力を込める。



 で、その頃のスーツ同士の戦況はと言うと、すっかり形勢が逆転していた。ソラの一方的な連続攻撃に対してコウは防御の型を崩せないでいたのだ。


「くっ、くそっ!」


「オラオラオラオアラオラァ!どうした、防戦一方かぁ!」


 スーツのバージョンアップによって今までより更に機敏な動きが出来るようになった彼は、元同僚に対して容赦のない攻撃を繰り出していく。その姿はどちらがヒーロー側なのかパッと見では分からないほど。

 さっきまでボコボコにされていた恨みもあったのか、ソラの声はまるで暴力を楽しむチンピラのそれと同じ系統のようなヤバさを秘めていた。


「なめんなぁっ!」


 ずっと防御しっぱなしでいい加減切れたコウは、ガードしていた両腕を力任せに開いて無理やり彼の攻撃を止めさせる。今度は赤スーツの攻撃のターンと言わんばかりに構えを取って殴りかかろうとしたところ、ソラは全く動じる事なくシームレスに次の攻撃に移っていた。


「必殺、オーラシャワー!」


 そう、パワーアップしたのは直接攻撃だけでなく、彼お得意の念動力もその対象だったのだ。ソラは右手を意味ありげに頭上に掲げると、自慢のサイキックパワーをホーミングレーザーよろしく放出する。

 無数の光の筋と化したサイキックエネルギーは、そのまま目前の敵に対して正確に急所を貫いていった。


「うぐっ!」

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