第108話 蘇る伝説 その9

「スーパー……」


「ヒーローズー……」


 上手くタイミングが揃ったところで、俺達2人は全く同じ動きで迎撃体制の整っていないルードラに向かって俺が右手、彼女が左手の拳を繰り出した。


「「ノヴァアーッ!」」


 2人の力が乗った拳は最強を自称する魔法使いの身体を貫いた。どんな攻撃も無敵の力で無効化および反撃に転じるはずだと油断していたルードラは、そうはならなかった事に信じられないと言う雄叫びを上げる。


「何イイイィィィッ!」


 共鳴するスーツの力を撃ち込みながら、俺達は思いっきり腕を突き抜いた。全く同じ動きをしなくてはいけないため、この技はイメトレを駆使している。

 おかげで100%シンクロした力が魔法使いの身体を貫き、そのまま衝撃で50mほどふっとばした。


「ぐああああ!」


「あれ?技が効いた?」


 自分で技を放っておきながら、面白いくらいに作戦がうまく行った事に俺は少し拍子抜けする。ルードラは自分の力に絶対の自信を持っていたからこそ、防御が疎かになっていたのだろう。

 だとしても、全く反撃をさせる事なくヤツを吹っ飛ばせたの何故なのだろう?この技はモモの作戦で初めて使ったけれど、技自体に何か秘密があるのだろうか。


 俺がその秘密を知ろうとモモの方に顔を向けると、質問するより先に彼女の方から説明が始まった。


「スーパーノヴァはエネルギーの流れを逆流させるのよ。ここまで上手くハマるとは思わなかったけど」


「なるほど……」


 原理の方はよく分からなかったけど、何となく説得力のある説明を受けて俺は納得する。つまり外側に向かう力を内側に逆転させたと。それによってヤツは自爆したらしい。

 例えるなら、抗体が逆に自分の体を攻撃してしまうアレルギーみたいな感じなのかな?


 力が逆流してどんどん顔色の悪くなっていくルードラは、自分ではその状況をどうにも出来ず、ついに俺達に助けを求め始めた。


「た、助けてくれえ……」


 さっきまでつやつや肌色20代前半の見た目の若々しさだった風の魔法使いは、今や顔色真っ青の土色で顔や体が皺だらけ、一気に80代の老体のような風貌へと変わってしまっている。

 その変わりように流石の俺も同情していると、モモはどこからか腕輪をふたつ取り出して優しく声をかけた。


「じゃあ、このリングで力の調整が出来るから……」


「た、頼む!」


「はい、一件落着」


 彼女はそう言うと、すぐに両手を差し出したルードラの両腕に腕輪を装着する。次の瞬間に腕輪は稼働を始め、こうしてヤツの魔力の逆流は止まった。

 顔色も戻り、肉体も力を得る前の30代前半の風貌に戻る。ただ、しばらくして腕輪の力による代償に気付いたルードラは大声を上げる。


「な、何だこれは!」


「何って力を封印する腕輪だよ。あなたはこれでもう二度と魔法は使えない」


 モモが救済措置としてつけさせた腕輪は、超常的な力そのものを抑え込むものだったのだ。これなら確かに内側を逆流する力も止める事が出来るだろう。


 しかしそれは魔法を使う事も封じてしまうまさに諸刃の剣。魔法使いが魔法を封じられてしまえばもうただの一般人だ。魔法使いにとってそれは屈辱以外のなにものでもない。

 この仕打ちにヤツはハメられたと感じ、怒り狂った。


「こ、こんな腕輪、外しうわああああ!」


 力を封じられた元魔法使いが腕輪を無理やり外そうと力任せに掴んだ途端、強力な電流が流れてショックでその場に倒れ込む。その様子を目にした彼女は呆れたように軽くため息を吐き出すと、腕輪の仕組みについて説明を始めた。


「馬鹿ね、無理に外そうとすれば高圧電流が流れるのに。ちなみに電源はあなたの内在魔力を変換したものだから電池切れはないから。あ、そうだ!魔力が完全になくなれば外せるかもよ?」


「それを早く言ええええ!」


 絶叫するルードラを無視してモモは腕輪の機能のひとつ、拘束モードを可動させる。これによって両腕にはめられた腕輪同士が電磁石でくっつき、腕の自由は封じられる。もはや目の前のMGSのエージェントは脅威でも何でもなくなった。

 全ての作業はこうして終わり、彼女はニッコリ笑うと俺に声を掛ける。


「じゃ、お土産も出来たし帰りましょうか」


 俺達はこの哀れな魔法使いを一緒にヘリに乗せると現地を後にする。遺跡は壊れてしまったけれど、これはまぁ仕方がないよな。全てはこの暴走した元魔法使いのせいなのだから。


 ヘリコプターで移動中、拘束されたルードラは恨みのこもった声で問いかける。


「俺をどうするつもりだ?」


 その言葉を聞いたモモは後ろの座席に座るヤツの方に振り返りもせずに、視線は前方に向けたまま、まるで世間話に答えるように平然と返事を返した。


「決まってるじゃない。警察にプレゼントするのよ」


「くそおおおおお!」


 最強の力を求めた結果、魔法使いですらなくなったルードラは俺達によってそのまま警察へと送り届けられる。久しぶりに会った警部はニコニコと笑いながら、そのとっておきのプレゼントを受け取ってくれた。

 この時に話を聞いたところ、ルードラは今までにもさんざん悪事を働いており、裁判がどんな流れになろうと、もう二度と刑務所から出る事は出来ないだろうとの事。


 こうしてひとつ大仕事を終えた俺達は、とても晴れ晴れとした気持ちで基地に戻ったのだった。

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