第107話 蘇る伝説 その8
ルードラが混乱している間に更に追い打ちをかけようと、俺は付け焼き刃見よう見まね風刃を屋上に向かって繰り出した。
けれど流石にまがい物の技だけあって、その風の刃が屋上にまで届くことはなかった。俺のは魔法ではなくて、ただの強い風圧でしかないのだから当然だ。
屋上からそんな間抜けな俺の姿を見下ろしていたルードラは、ニヤリと挑戦的に笑う。
「そんな付け焼き刃の偽物の技が俺に効くとでも?」
「ちっ!やっぱ無理かよ……」
「今の俺はな、神の化身だ。だから、風の力以外も使えるんだぞ」
ヤツはそう言うと、俺のいる場所に向かって意味ありげに手をかざす。すると次の瞬間に強力な圧力が突然発生し、その攻撃を想定していなかった俺は不意を突かれた格好でそのまま為す術もなく膝を付いた。
「う、うぐおおおお!」
「どうだ、何十倍もの重力の味は」
「な、何故……その技を……さっきまで……使わなかっ……」
ルードラは力を得た事で重力を自在に操る力を手に入れていたのだ。俺は全く動けなくなり、ヤツはその力を応用して屋上から飛び降りる。ゆっくりと落下する魔法使い。まるで鳥の羽が地上に優しく舞い落ちるようにふわりとルードラは地上に着地した。
地面に降り立ったヤツは苦しむ俺の姿を見ながら右手をかざし、更に重力の力を強めていく。
「かははははっ!いい気味だ!潰れろッ!」
「くううう……早く何か、打開策を……」
強くなる重力に俺の心が折れかけたその時、森に隠れていたモモが現れて助け舟を出してくれた。
「重力系なら任して、スーツの機能を使えば相殺出来るわっ!」
「あ、有難う。頼むわ」
モモはスーツの遠隔機能を駆使して離れた場所から俺のスーツを調整してくれた。おかげで段々体は楽になっていく。何も気付いていないルードラは苦しむ俺を見ながら顔を歪ませ、調子に乗って更に重力攻撃を続けている。
「そらそらそらそらあっ!」
「くうっ!」
俺はこの時、ほとんどヤツの攻撃を無効化出来ていたものの、それを悟らせまいと苦しむ演技をして油断を誘った。
けれどいくら重力を強くかけても反応が全く変わらないため、流石に違和感を覚え始めたようだ。
「おかしい、何故まだ潰れない?」
俺の反応を訝しがった魔法使いは、一体何が起こっているのかと近付いてくる。射程範囲内までヤツが足を踏み入れたところで、俺は満を持して反撃に出た。
苦しみうずくまった体勢から一転、すばやく振り返ると最大の力で足を踏み込み、そのバネの力を活かして超高速で殴りかかる!
「特大ミラクルパーンチ!」
「おおおおお!」
この不意打ちにルードラは驚いて反応出来ず、俺の拳はクリーンヒットする。ふっとばされた魔法使いは為す術もなく背後の遺跡の壁に衝突し、その衝撃で遺跡の一部ごと破壊された。ルードラはその瓦礫の下に埋もれ、手応えを感じた俺はドヤ顔で様子を伺っていたモモに向かって勝利宣言をする。
「貴重な遺跡がちょっと壊れてしまったけど、仕方ないよな……。ピーチ、何とか片付……」
ここまで話したところで俺は謎の力にふっとばされる。その力はどこから来たかと言うと、当然、さっき瓦礫の山に埋まったはずの魔法使いだ。倒したはずの敵は全くのノーダメージですぐに起き上がっていた。
一度ふっとばされた俺は謎に力にに捉えられ、何度も何度も地面に叩きつけられる。
いくらダメージ無効のスーツでも、こう何度も強い衝撃を与えられると流石に無効化出来ないダメージが蓄積されていく。そんな俺の様子を目の当たりにしたモモは悲痛な叫び声を上げた。
「1号ー!」
「あんまり舐めてもらっちゃ困るんだよ」
癇癪を起こした子供がおもちゃの人形を投げつけるかのように、最後は勢い任せで俺の体は遺跡の壁に叩きつけられた。さっきのお返しと言ったところだろうか。
俺は何とか一度は立ち上がるものの、そのまま後ろに向かって倒れる。体が全く言う事を聞かなかった。
「ド、ドジッちまった……」
「お、そういやもうひとりいたんだっけか?」
俺のピンチに身を乗り出してしまったために、モモはルードラに見つかってしまう。くそっ、助けに行かなくちゃいけないのに身体が――。
最強の魔法使いを前にひとりで立ち向かわなくてはならなくなってしまった彼女は、戦闘体勢を取りながら落ち着いた声で話しかける。
「あなた……」
「何だ?怒ったか?」
「力の使い過ぎは身を滅ぼすわよ?」
彼女は頭がいい。博士の助手を務め、しかも自力でスーツを作ってしまうほどだ。だからこそ、その話術で敵を翻弄するくらい朝飯前だ。そう思いたい。
モモの忠告を受けたルードラはそれが挑発だと見抜いた上で、自分の能力に絶対の自信を覗かせた。
「何を今更?俺はこの力を完璧に制御している。暴走などしない」
「へぇ、本当に制御出来ているのかしら?」
「その手には乗らないぜ?そう言う展開はテンプレ……」
最強になったはずの魔法使いはここまで話したところで一瞬立ちくらみを覚え、言葉を区切る。その不調をすばやく見抜いた彼女は、両手を腰に当てて得意げに話しかけた。
「どうしたの?もう限界?」
「そ、そんな訳があるか!俺は神の力を引き継いだんだ!地上の神となったのだぞ!」
モモの言葉に動揺したルードラは、声を荒げてその言葉を否定する。彼女はこの口撃が効いていると判断し、さらに言葉での追求を続ける。
「ふうん。それ、本当に神の力だったのかしら?」
「何を言うか!そんな戯言でオレの心が揺らぐとでも思ったか!」
「いや、別にそんな事は」
今のヤツに何を言っても、結局最後は怒らせるだけの結果に終わるだろう。ルードラは再三の挑発に心の余裕をなくし、怒りに任せて声を荒げる。
「決めた、お前は消し炭にしてやる!」
「うわっ!こわーい!」
「燃えつきろおおー!」
風の魔法使いだったはずのヤツが重力、念動力に引き続いて、今度は火の力を発現させる。強力な火炎が怖がるジェスチャーをする彼女に襲いかかった。
今まさに灼熱の巨大な炎がモモを焼き尽くそうと迫ったその瞬間、強固な風の壁がその攻撃を遮る。
「風壁!」
「何ィ!」
強い風に炎はかき消され、彼女に迫った危機は去った。この突然の現象にルードラはすぐに振り返る。その視線の先には復活した俺がいた訳だな。
「時間稼ぎありがとな。助かった」
「お前っ!」
「あ、殺したと思った?残念。生きてました」
激高する魔法使いに俺はおどけてみせる。ヒーローが簡単にやられる訳がないって言うね。ワナワナと身体を震わすルードラを無視するように、俺はすぐにモモのところまで戻った。そこで改めて彼女とハイタッチを交わす。この時に彼女から作戦を聞かされ、すぐにその話に乗った。
状況を整理した魔法使いは服の乱れを直すと、改めて俺達2人をじっと殺気立った目で見つめる。
「まあいい、死ななかったなら改めて殺すだけだ」
「あれ?お前身体が変になってきてない?」
俺は作戦に従ってルードラを軽い調子で挑発した。何か自覚があるのか、ヤツは俺の言葉を真に受けて自分の体を確認し始める。
「ん?そんなはずは……」
俺達はこの時に生じた隙を突いて速攻で攻撃に移る。モモからスーツの機能をまた調整してもらい、新たな技が使えるようになったのだ。まずは2人で呼吸を合わせ、力をためながらスーツから発生するエネルギーを同調させる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます