第84話 宇宙からの訪問者 その3
「ごめん、ちょっと頭の切り替えが遅くなった。急げる?」
「任しといてください!いつでも!」
俺が所長に返事をしていると、血相を変えたソラが勢い良く駆け出していった。
「先に行ってるぞ!」
「お、おう……」
その勢いに俺は圧倒される。やっぱり彼はセルレイス関係の事になると人が変わるな。俺もすぐに動きたかったものの、同じ部屋にモモもいると言う事で彼女と一緒に行こうとしばらく準備が整うまで待つ事にする。モモは作業の途中だったので、その処理をしてから俺のもとにやってきた。
「ごめん、ちょっとごちゃごちゃしちゃって……」
「それはいいよ、すぐに行こう!」
こうして俺達は本来のお仕事である悪党退治に向かう。モニター上のスーツ男は何かを破壊するでもなく、余裕たっぷりに草原を歩いていく。そこで具合の良さそうな大きな岩に腰を下ろしていた。まるで俺達がやってくる事が分かっていて、それを待ち伏せるような雰囲気だ。
「くふふ……さあて、裏切り者退治といきますか」
スーツ男は独り言のようにそうつぶやく。この事からもヤツの目的が普通の悪党と違う事は明白だ。俺達は敵の張り巡らせた罠の中に飛び込む事となるのだろう。そんな事をまだ知らない俺達は普通に強敵に対する心構えだけを胸に抱いて現場へと向かう。
スーツ男のいる場所はすぐに特定された。それは最近発見されたまだまだ謎の多い先史時代の遺跡だ。俺はモモと一緒に乗った自動操縦の車の中、フロントガラスモニターを眺めながら、ヤツとの戦いについて彼女とディスカッションを続ける。
「相手はセルレイス……気を引き締めていかないとだな」
「情報によれば、現れたスーツ男は以前倒し損ねたテンだと判明しています」
「あのやたら早いヤツか。二度目に現れたと言う事は弱点を克服して現れたと言う事なんだろうな。油断は禁物だ」
テンと言えば、ソラとも因縁の深い相手だ。ああ、だからあんなに急いでいたのか。もしかしてスーツを見ただけで相手がテンだって分かったのかも知れない。
俺がソラの事について思考を働かせていると、モモから今回の戦闘についての作戦が提案される。
「今度もやはりソラ君との共闘が戦闘のキーになりますよね」
「前の時に余裕そうだったから、案外俺達が着いた頃には決着がついていたりしてな」
「それはそれで物足りないですね」
モモの言葉に俺達は軽く笑う。そう、何だかんだ言って俺達は今までの戦績からこの戦いを楽観視していた。その後の苦戦を全く想像も出来ずに――。
その頃、一足先に現場に到着したソラはバイクから降りてスーツを装着する。見渡す限りの大自然の中、そこにある古代人の痕跡だけが異彩を放っていた。
「アイツ、再戦の場にこんな所を……」
テンは逃げも隠れもせずにモニターで目にしていたあの岩の上に悠然と座って、ソラの到着を待っていた。お互いがお互いの姿を目視で確認してヤツはゆっくりと立ち上がる。そうしてまるで知っている知識をひけらかすように喋り始めた。
「ここは古代の合戦場だと聞いています。私達の決着をつけるのにはちょうどいい」
「またやられたいとか物好きだな。お前もしかしてMか?」
出会い頭の軽口合戦は引き分けと言うところだろうか。まだお互いに余裕の態度は崩さない。2人の距離がある程度まで縮まったところから睨み合いの形となる。
「私に同じ技は通用しませんッ!」
「奇遇だな、俺もだぜ!」
先に動いたのはヤツの方だった。自慢の高速スピードを活かしたレーザー攻撃。言葉の通り、以前の戦いより更にスピードと精度と威力、そして何より攻撃数が増えていた。単発発射していたレーザーが今度は複数、何十本の光の束がソラを襲う。
「連続ブルーレーザー!」
「威力を上げたのか!」
対するソラはすぐに防御フィールドを展開。このレーザー攻撃を全て無効化させる。自慢の攻撃が通じないこの現実に、それでもテンは高笑いをする。
「フハハハハ!反撃の隙など与えさせませんよ!」
「こりゃ……我慢比べかな……」
フィールドを展開しながらソラは反撃の隙を窺う。
けれどヤツの攻撃はまるで蛇口を捻ったシャワーのように切れ目なく続く。この状態が続く以上、防戦の状況は崩れそうになかった。攻撃を続けながらテンはソラに意味ありげな事をつぶやく。
「知っていますよ、あなたの弱点」
「は?何言ってん……」
「あなたの力には活動限界がある。その時間を過ぎれば自滅するって事もね!」
ヤツはそう言って大声で笑う。この言葉を聞いたソラは顔色ひとつ変えずに馬鹿にするように言葉を返した。
「はっ……?何その古い設定?俺がそのリスクをまだ背負っているとでも?」
「試してみますとも。私はこの攻撃を2時間は持続させられます。我慢比べですね」
「くっ……」
テンに自慢の軽口も軽くいなされ、ソラの顔は若干苦痛に歪む。攻撃を続けるヤツは更に調子に乗って高速移動と連続攻撃のレベルを上げた。ソラのフィールドに向かって透明感のある青い光が全方向から撃ち込まれて、見ようによってはそれは美しい光景にすら見えていた。
「そらそらそらそらーっ!息つく暇も与えさせませんよ!」
「ソラーッ!」
そんな激闘のさなかに俺達は到着する。車から降りた俺達の目に映ったのは一面の眩しい青色の光。すぐにその光の狙う中心にソラがいる事が分かった。
俺はまず無事を確認しようとソラの名前を叫んだ。だけど当然のようにそれはテンにも俺達の到着を知られる結果となる訳で――。
「むっ!」
俺達に気付いたヤツが向かってくる。俺はカウンターを狙ったものの、その拳は当然のように空振りする。攻撃を楽々と余裕でかわしたテンはニヤリと笑うと右手を頭上に上げる。これは自慢の生体レーザーを放つ前動作だ。俺は攻撃を覚悟して顔の前に腕を組む。
次の瞬間には青い光の束が空に立ち昇り、そのまま俺達の前に降り注がれる。その強い光に身が焦がれようとした次の瞬間、駆けつけたソラのフィールドがこの攻撃を無効化する。
「悪い、助かった」
俺達はソラと合流出来た事をまずは喜んだ。先行した彼はどこか疲れているようにも見える。いつも余裕たっぷりなのに今回は苦戦しているらしい。
これは余り余裕はないのかも知れない。俺が気を引き締めていると、目の前の敵スーツ男がつぶやく。
「3人揃いましたか。ですが……」
意味ありげにそう言った後に謎の溜めが入る。ヤツはこの溜めの間に厨二病患者のようにそれっぽいポーズを取ると俺達を指差して叫ぶ。
「ここからが本番ですよ!」
テンはそう言ったかと思うと俺達の目の前から姿を消した。この現象に思わず俺は声を上げる。
「消えた?!」
「いや、得意の超スピードだ。アイツ、またスピードを上げてきやがった」
この状況でソラは冷静にテンの能力を説明する。ただ早いだけでここまでの事が出来るだなんて……残像なんてちゃちなものじゃない。素早過ぎて姿そのものが見えないのだ。一体どう言う事なんだ。慣性の法則とかどうなっているんだ。この状況に混乱してるのはモモも一緒だった。
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