第85話 宇宙からの訪問者 その4

 彼女はテンを科学者の視点で分析して、そこから反撃の手がかりを掴もうとしていたんだけど――。


「肉眼で捉えきれません。センサーでも……」


 素早く動き続き続けるヤツに攻撃するのは至難の業だ。それでいて攻撃は目にも止まらない速さで繰り出される。流石スーツの適合者だけあって舐めてかかったらいけなかったんだ。

 しかしどうすればこの厄介な相手を倒せるって言うんだ。全く有効な方法が思い浮かばないぞ。


 以前の戦いを参考にしようと当時の事を思い起こしていた俺は、ソラのフィールドにスムーズに合流出来た事に違和感を感じていた。


「おかしいな……」


「えっ……?」


 モモが俺の言葉に違和感を感じている。なので、自分が違和感を感じた部分を彼女に説明する。


「前の戦いの時はこのフィールド内にヤツは侵入してきていた。今回だって同じ事が出来たはずなのに」


「それは警戒しているのでしょう。ゼロ距離攻撃では逆にダメージを受けてしまいますし」


 この彼女の推論に俺は前回テンと戦った時の事をポンと手を叩いて思い出した。


「前の必殺技!そうだ!今回はアレ使えないのか?」


「アレは直接攻撃じゃないと無理だ」


 このソラの言葉に俺は前回の戦闘シーンを思い描く。そう言えば確かにあの反転とか言う攻撃は、ヤツがソラの身体に触れた状態で発動していた。前回有効だったソラのあの攻撃こそが切り札だと思っていたのに、まさかこんな弱点があっただなんて。もうその弱点はバレているだろうし、きっと同じ手は使えない。

 今回はまた別の手で対処しなくちゃいけないのか。うーん、一体どうすれば……。


 俺がテンへの対抗策を考えていると、視界の外から挑発的な声が聞こえてきた。


「ふ、馬鹿め、お前たちはここで終わりだっ!ホーミングブルーレーザー!」


「またせこい技を……」


 馬鹿のひとつ覚えのようにレーザー攻撃が続く。ソラは代わり映えのないこの攻撃に呆れていた。

 しかしその攻撃の威力は馬鹿に出来るものでなく、フィールドにぶつかる強力なエネルギーは僅かな振動を内側にいる俺達に伝えてくる。


「大丈夫なのか?このフィールド」


「強度的には何の問題ないけど……」


 心配になった俺に対してソラは自信たっぷりで自分の力に自信を見せる。

 けれど不安を感じたのは俺だけじゃなかったようで、同じフィールで守られているモモも心配そうな顔をして彼の顔を見た。


「まさか敵はソラ君の有効活動限界を?」


 この聞きなれない言葉に俺は戦慄を覚える。悪い予感を感じてすぐに彼女に説明を求めた。


「ちょっと待った!なんだよそれ」


「え?えーと……」


 どうやらこの事は知られてはいけないレベルのものだったらしく、俺に追求されたモモはすぐに言葉を濁した。そんな態度を取られると益々気になってしまう。

 変に誤魔化そうとするなんて、俺はまだ仲間と認められていないんだろうか。今までも結構頑張ってきたのに、後何が足りないって言うんだ……。

 そうして悶々としていると、返答に困っている彼女の代わりに当の本人の口が動く。


「いや、俺から言う」


「う、うん?」


 まさかのソラ本人からの告白と言う想定外の出来事に、俺は調子を狂わされてしまった。

 でも本人自ら喋ってくれるならきっと間違いはないだろう。嘘をつかれるかも知れないけど……。ソラは俺の目をじっと見つめると、真剣な顔で自身の秘密を語り始めた。


「ぶっちゃけ俺の能力には時間制限があるんだ。あまり長く力を使っていられない」


「もしかしてその事をモモは知っていた?」


「私は彼の記録係でもありますから……」


 俺の追求に彼女はうつむきながら消え入るような声で答える。なるほど、そう言う関係だから知っていたのか……。確かにこの秘密は敵に知られてはならないものだ。この事実が広まれば、次からそう言う戦略で狙われてしまうだろう。

 だけど、仲間にならひとりだけ蚊帳の外ってのもないだろう。俺だってソラを仲間だと思っているし、みんなから見て俺は仲間だと思われていると思っていたのに……。疎外感を感じた俺は思わず2人から顔をそらした。


「また知らなかったのは俺だけか」


「今はそんな事……」


「分かってるって!何とか攻略しないとだよな!」


 このピンチな状況でひとりだけ感傷に浸っている訳にもいかない。俺は気持ちを無理やり切り替えてこの状況をどうやって打破するか、その事だけを考える。攻撃し続ける事で実質ソラのフィールドから出る事を封じたテンは勝ち誇ったように高笑いをする。


「もうお前らはそこから動く事は出来まい!俺の勝ちだ!」


 この言葉を聞いたソラはぼそっとつぶやいた。


「あんな事言ってるけど、むっちゃフラグ立ててるよな」


「けど、レーザー攻撃が止まない事には手も足も出せない……」


 まだどこかに余裕があるのかいつもの能天気さを維持する彼と違って、現実的なモモは冷静に現状を把握して考えを巡らせている。そうだ、このままじゃジリ貧な事に変わりないんだ。それに敵はどうも弱点を知っているっぽい。知られていると言う事はそこを突かれている可能性が高い。

 何もしなければ俺達の負けは確定だ。折角防御をソラが頑張っているのだから、守られている俺達が何かいいアイディアを出さないと……。そうだ!と、閃いた俺は大声を上げてその作戦を披露する。


「手はない事もないぞ。このフィールドごと突っ込む!」


「ガバガバだなそれ。ヤツのスピードを考えろ」


 俺の考えたナイスアイディアは速攻でソラに却下された。うう……。そうだ、テンの自慢は超スピードだった。この作戦でうまくぶつけるなんてまず無理だろう。うまくいくと思ったんだけどな……。

 これが駄目なら――別の策を模索する俺はすぐに代案を思いついた。


「じゃあスーツの無敵機能を最大限に上げて、レーザーの雨をかいくぐって直接攻撃とか」


「あのレーザーの威力は前に戦った時の30倍だ。直撃すればスーツと言えども無事じゃ済まない」


「それにテンのあの機動性、まともにやって直撃させるだなんて……」


 この案も2人からのダメ出しを受けてあえなく撃沈する。うう……ソラどころかモモまで俺に厳しい。とは言え、命がかかっているんだから仕方がないか。

 やっぱりネックはあの機動性の高さだな。あれを攻略しない事には俺達に未来はない。俺は改めてあの機動性を封じる方法について議論を始める。


「そこだよ、何か手はないか?」


「うーん。囮……とか?」


 ここでモモがひとつ案を出した。確かに誰かが囮になれば、その分攻撃も分散されて隙も出来るかも知れない。

 けれど、この案に敵の実力を知っているソラがダメ出しをする。


「いや、それが危険なんだって。さっきの話聞いてた?」


 次は俺の番だ。今までのソラの戦闘を見てきて、何かこの状況を打破する技がないか考えてみた。そこで思い浮かんだのは幻獣を倒した時に使っていた方法だった。


「ならこう言うのはどうだ?このバリアは今こうして耐えられてるだろ?これを個別に作る事は出来ないか?」

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