第77話 待望の3人目 その6
俺はスーツについた煤を余裕の態度で払う。スーツ自体が燃えた訳じゃないので、それらの汚れは手で軽く払っただけでまるでコーティングされたフライパンのようにあっさりと払われていった。
パイクの最期をしっかり目に焼き付けたケンは、うつ伏せに拘束されたままニヤリと笑う。
「へっ、大量破壊兵器は爆弾ばかりじゃないぞ」
「えっ?」
この突然のバイオテロ犯の豹変に初仕事のモモは困惑した。その動揺の隙を突いて、奴はこうなった時の為のとっておきの秘策を実行に移す。
「古き世界に新しき秩序を!」
こいつが何をしたかって言うと、自身の体に目一杯溜め込んである毒ガスを100%開放しただけだ。つまりはさっきのパイクと同じく自爆技ってヤツだ。
全く、テロ犯ってのはどいつもこいつも行動パターンが単純だねぇ。
パイクが自爆した瞬間、毒ガスが一気に膨張して四散していく。その勢いにモモは衝撃を受けていた。
「うわっ!」
「モモッ!」
この毒ガスには何故か濃い色がついており、一瞬で辺りは何も見えなくなってしまった。今までに使われたものならスーツの機能で解毒されているはずだけど、また新種の毒を作られていたならその限りではない。ガスに色がついていたのは状況によっては煙幕にも使おうとしていたからなのだろう。
それはともかくとして、今はモモが心配だ。まさか初陣で倒れるような事があっては……。
「ふぅ……。毒ガスは想定していましたけど、そんなに怖いものでもないですね」
しばらくして、その毒ガス自体をものすごい勢いで吸収して平気な顔で彼女が姿を表した。モモの無事を確認した俺は胸をなでおろす。彼女のスーツには毒ガス浄化フィルター的な機能も搭載してあるらしく、約1分ほどで周囲の毒ガス濃度は無害レベルにまで戻っていた。全く、何て性能だ。
これで俺のスーツと性能が同じだなんて到底思えないぞ。もしかしてイメージングなんとかみたいに、使えるけど使い方を教えてくれていないだけ――なのか?
視界がクリアになった後、モモの足元には毒のせいで無残な姿になったケンの成れの果てが転がっていた。それを見た俺は思わず気分が悪くなってしまったのだけど、同じものを目にしている彼女は全く態度を崩していなかった。
「えぇ……こう言うの平気なタイプ?」
「私にグロは通じませんよ。そう言うのは研究で見慣れてますから」
淡々とそう話す彼女の冷たい視線を見た俺は思わず背筋を凍らせていた。やばい、これマッドなヤツだわ。
俺が静かにビビっていると、そこで何かに気付いたのか突然モモが忠告する。
「それからこの姿の時に本名は控えた方がいいです、1号」
それは名前を口にする事で素性が知られる危険性を危惧したゆえの発言だ。そう言われて、改めて俺はさっき気が動転して彼女の名前を口走ってしまった迂闊さを反省する。
「……それは悪かった。でももう俺はもう敵に全ての素性知られちゃってるし、今更かなぁ。あ、そうしたら君だけは3号って呼ぶよ」
「出来ればピーチで」
「了解」
その後は淡々と事後処理を済まし、2人で一緒に基地に戻ってきた。考えてみれば、一緒に現場に来たのだから帰るのが一緒なのも当然だ。ソラと一緒に仕事をした時は彼がいつも先に帰ってしまうから、2人で共同作業をして一緒に帰るのは新鮮な体験だった。
帰り道ではお互いに何も話せずに最後まで無口のままで過ごしていた。それは何となくお互いに意識してしまったからなのかも知れない。ずっと沈黙しているって言うのはストレスとプレッシャーが半端ないから、この状況に少しでも早く慣れないといけないな。
「すごいね、初陣大勝利じゃない!」
「手応えがなさすぎましたね。これならまだシミュレーションの方が手応えがありました」
初陣を終えたモモは、まるで何の手応えもなかったと言わんばかりの感想を口にする。初仕事を前によっぽどハードな状況を想定して鍛えてきたのだろう。仕事に対する気構えが違うなと俺は感心する。
「どう?彼女」
「末恐ろしいです」
不意に所長から話を振られて、全く無防備だった俺はつい本音を吐露してしまった。この言葉を聞いた彼女は当然のように気を悪くする。
「そこは頼もしいって言ってください!」
「わ、分かったよ」
モモの機嫌を損ねた俺は彼女に謝りながら居心地の悪さを痛感した。これからはなるべく言葉に気を使わなければいけないな。
しかしこんなのでこれからチームとしてちゃんと上手くやっていけるのか、俺はいきなり不安になる。
「良かった。いいチームになりそうね」
所長はそんな俺達2人を見て何故かニコニコ笑っている。一体彼女には俺達がどう映っているんだろう。ただ、期待されている以上はその期待に添えなければと、俺は決意を新たにするのだった。
そう言えば人数が3人ともなれば、やっぱり誰かリーダーを決めた方がいい気がする。ヒーローになった順番で言えば俺がリーダになるべきではあるんだろうけど、ソラひとりまともに言う事を聞かせられないのに、もうひとり増えて更にまとめられる気がしない。
まずここは、その事についてじっくり話し合わさなければいけないのだろう。ふう、今から先が思いやられるなぁ。
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