第67話 ソラの謎 その2
うーん、いくら観察対象とは言え、学園生活まで詳細に見られているのか……ソラもこれは息苦しいかも知れないな。俺が高校生の頃に誰かに見られているかも知れないような生活を強いられたら、精神的におかしくなったかも知れない。やっぱりあいつは性格的にかなりタフだわ。ある意味尊敬する。
そうして、彼の学園生活の報告を楽しそうに語る所長を見ていた俺はここで不意に目の前の女子の年齢の事を思い出した。
「あ、学校と言えば所長は?まだ17歳でしょ」
「一応カモフラ的に籍だけは置いてるけど行ってないよ。当然じゃん、こっちの仕事もあるんだし」
「何でそれで許されてるんですか。普通問題になるでしょ」
所長の就学問題についても実は昔から聞きたかった事だ。どうやら一応学生である事は分かっていたけど、学校に籍はあって通っていなくても平気って一体どう言う事なんだ?そこで俺が疑問をぶつけると、ここでまたとんでもない事実が発覚する。
「だって私が作った学校に通ってんだもん。私がルールよ」
「お……おぅ……」
何と、彼女は自分が自由である為に学校そのものを作ってしまったらしい。そんなのアリかよ……。て事は、ソラが通っているのも所長が作った学校って事なのだろうか?だとすれば監視の目が入るのも容易な気がする。一体どんな学校なんだ……。
「ソラの事がもっと知りたいなら朝食後に私に付いて来て。今までに分かっている事、みんな教えてあげる」
彼女はそう言うとそれからは黙々と食事に精を出した。俺もどっちかと言うと黙って食べたい派だったので、当然のようにそこからは一切の会話は消滅する。考えてみれば彼女と一緒に食事をすると言う機会って今回が初めてだ。それもあって彼女の食事風景をつい目で追ってしまう。
所長が選んだ料理の量はまぁ別段どこもおかしいものはなくて、選んだ料理もオーソドックスなもの。食事風景を見る限り、彼女もまた普通の17歳の女の子だった。
若い女子と向かいあって食事をするなんて、考えてみればかなり恵まれた環境と言えるのかも知れない。とは言え、仕事上の上司と部下と言う関係でしかないんだけど……。
変に意識した俺がぎこちなく料理を口に運んでいると、先に食べきった彼女が満足げな顔をする。
「ふー、まんぷくぷー」
「結構食べるの早いんですね」
「朝は時間との戦いだからね!じゃ、行きましょうか」
そう言われた俺は残っていた料理を急いで口の中に放り込む。所長を待たせまいと焦って咳き込んでしまい、結局余りこの行為は時短に結びつかなかった。
少し彼女を待たせたものの、それについて向こうから愚痴等の言葉が漏れる事はなく、そのまま俺達は並んで基地の通路を歩いていく。所長の案内のもと辿り着いたその場所は――。
「電子資料室……」
「そ、色んな資料が全部記録されている部屋よ。さあ遠慮しないで入った入った!」
彼女の生体認証で資料室のドアが開く。この時、ノックもなしにドアを開けたのでそれまで部屋にいた職員が慌てて振り向いた。
「わわ……」
職員は突然入って来た所長の顔を見て、焦りながらもすぐにペコリと頭を下げる。
「あ、博士、おはようございます」
「いつも資料の整理ご苦労様。ついでだからソラに関するヤツ、全部出してくれる?」
「は、はい」
部屋にいたのは先日会ったモモと言う基地職員だった。これは偶然なのかな?テキパキと作業する彼女を見ながら俺はふとある疑問が頭に浮かぶ。
「あのさ」
「ん?」
「所長の事、俺もこれからは博士って呼んだ方がいい?」
そう、この基地内で所長は職員から博士と呼ばれている。なのに俺は所長と呼んでいる訳で……それでいいのか少し不安になって来ていたんだ。
「ん?所長でいいよ、今ままで通りで。だってこの研究所の所長だもん私」
「了解」
何だか上手く言いくるめられた気もしないでもないけど、彼女がそれでいいって言うんだからこれからも俺は所長呼びを続けよう。もうすっかりこの呼び方にも慣れちゃっているしね。
そんな他愛のないやり取りをしている内にどうやら準備は整ったらしい。
「博士、出来ました」
「有難う。助かった」
「そ、それでは失礼します!」
所長に言われた用事を済ませたモモは何故か逃げるようにそそくさと電子資料室を後にする。その様子を見た所長は彼女の後ろ姿を見ながら少し不服そうな顔をした。
「何もあんなに焦って帰らなくてもいいのに……」
「これがソラに関するものですか」
俺の目の前モニターに分かり易く表示されているTOP画面を見て、それを揃えたモモの真面目な性格を思い浮かべていた。所長はマウスをクリックして得意げに説明を始める。
「そ、身長体重から能力の傾向、バイタルパターン、趣味から苦手なものまで……で、何を知りたい?」
「とりあえず全部見ていいんですよね?」
「これは公開可能情報だからね、遠慮なく」
そう話す彼女の言葉が耳に引っかかる。反射的に俺はその言葉に対する質問を飛ばしていた。
「それって……公開不可能なものも……あるって言う?」
「あるよ。例えばまだ確証を得られていないものとかね。ただ、知的好奇心を満たしたいだけなら今提示出来る情報だけでも十分でしょ」
とりあえず俺は好奇心の赴くままに各種項目をクリックして、知れる情報に目を通しまくった。画面には身長体重誕生日などのパーソナルデータから特技や趣味、好きな食べ物に好きな教科、クラスでの立ち位置、成績、趣味、最近凝っている事、主義主張、好みのファッションや音楽、共感する思想と、そんなの一体どこで調べたんだと言う程細かい項目が並ぶ。
それらの全てに目を通しながら、俺はただただその細かさに感心する。
「確かに……よくここまで調べられましたね。ソラってこう言うのにそんな協力的には見えないのに」
「あなたは彼を色眼鏡で見過ぎなのよ。ああ見えて普通の高校生っぽいところもあるんだから」
「って言うか、学校生活での詳細な行動とか、ここまで知る必要があります?」
「し、知る必要があるからこうしてまとめてるんでしょ!」
俺のツッコミに所長は顔を真赤にしながら声を荒げる。やっぱり中にはあんまり関係のないようなものも混じっていそうだなこりゃ。
「それはそうと、見れば見るほど彼の個性が見えてきませんけど、これってつまり……」
「そう、演じている。まだまだ壁はある。学校生活を通じて何か変わると思ったんだけどね」
「結局ソラと完全に打ち解けている人は今の所まだいないんですね」
「今まで過酷な体験を経ているんだもの、そんな簡単には行かないでしょ」
見たところ、ものすごくプライベートな事まで詳細に資料として記録されている……それって記録される側の人間にとってどうなんだろう?自分だったらあまりいい気はしない。俺は画面を眺めている内にそれが気になり始めていた。
「で?ソラはこうやって常に調べられている事を?」
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