急募! ヒーロー~誰にでもは出来ません~(仮)
にゃべ♪
雇われヒーロー
ヒーローになれる才能
第1話 崖っぷちのプー
「はぁ……そうですか。分かりました、はい……どうも」
またお断りの電話だった。これで何社目だっけ――もう数えるのもやめたよ――。
前の会社が突然潰れて無職になって貯金で生き延びる生活……もう残高が大変な事になっている……。このまま行ったら自動的に住む所がなくなる……政治家の言う景気が上向きって何時の時代の話だよ……。
(もう実家に戻ろうか……でも向こうで働き口なんてあるのかな……)
ここでまた大きなため息ひとつ。窓の外には無機質な都会の景色が広がっている。
求人情報誌も求人サイトも景気のいい言葉ばかりが踊っているのに、実際に面接に向かうと苦い顔。分かっているんだ。自分がそこに求められていない人材なんだって事は。
今まで何度鉄砲を数撃った事だろう。過去の実績なんて何の役にも立たなかった。
そりゃそうさ、前の仕事だってバイトに毛が生えた程度――入社1年で即戦力にもなる前に仕事を失って何かの役に立つ訳がない。
特に何か資格を持っている訳でなし――強いて言えば誰でも持ってる運転免許くらいか。
時間を遡ってもっと真面目に勉強してもっといい学校を出ていれば――何かが変わったのかな。
(条件をさらに下げて取り敢えず誰でも出来るバイトでも……)
次に俺はバイト情報誌をめくった。そこで一番最初に目に止まった仕事をとりえずやってやろうと……。
精神を集中しようと一旦目を閉じ、めくったその先で一番最初に目に止まったのは真っ白な空白だった。
(ん?……うんん?)
情報誌に謎の空白があるってなんだ?これが俺の運命の行き着く先ってか?
「お先真っ暗じゃなくてお先真っ白かよ」
俺は自嘲気味に笑うと、その空白の記事の上を無意識の内に指でなぞっていた。
その時だった、その空白に変化が現れたのは。何となぞったところから文字が浮かび上がっていたのだ。
「読める!読めるぞ!」
俺は小さなメモ片手に古代文字を読み取る某大佐のように、興奮しながらその空白の部分をなぞりまくった。
銀剥がしの要領で全ての空白をなぞると、そこには紛う事なき求人情報が書かれていた。え?何これどう言う仕組み?
「暇な若者求む!時給1000円」
なんだこりゃ。そこに表れた言葉に俺は呆れていた。更に読み進むと業務はヒーロー業務だって。しかも誰にでも出来る簡単な仕事です。だと?
詳細は面接会場にて――後の文章はその会社の住所だけ。事務所の電話番号もメールアドレスすら書いてない。とてもシンプル。
ふむふむ、必要な物は履歴書くらいか……。求人内容を読ませる方法だけ凝っている。これって何か新しい印刷技術?
しかしなぁ……流石に怪し過ぎる……。
(これは……試されているのか?)
俺は何故かこの求人に興味を持ってしまった。それどころか自分にしか出来ない仕事じゃないかとすら思ってしまった。どうせ落ちたって今までの戦歴にマイナスがひとつプラスされるだけの事だ。
物事は何でも試してみるべきだって、何かの漫画のキャラもドヤ顔で言っていたっけ。
俺はその日の内に早速履歴書をサラッと書き上げて、次の朝それだけを握りしめて記載されていた場所へと向かった。
電話番号が載ってないんだから事前にアポを取るなんて事は出来ない。つまりアポなしで来いと言うのがこの会社の方針なのだろう。
「うーん、ここでいいんだよ……な?」
スマホの地図機能を頼りに記載されていた場所まで一応辿り着いたものの、俺の心の中には不安しかなかった。そこは古い建物が立ち並ぶ今は寂れた古い通り。
今時どんな田舎だって見渡せばコンビニの2、3件はすぐに見つかるこの御時世にコンビニひとつ見当たらない立地にその建物はあった。
建てられて50年は余裕で過ぎているであろう古びれたその古い小さなビルは、外から見る限り人の気配を全然感じない。
俺はゴクリと息を飲み込んで一歩を踏み出した。誰かの悪戯ならそれはそれでいい。ここまで来ているのだからもう後には引けなかった。
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