異世界の姫は竜<オレ>のもの! エルフ娘とやらかすチート強奪生活/為三

MF文庫J編集部

プロローグ

0-1 異世界に召喚されたと思ったら幼女に殺された

「ねえねえカイくん、ここってどこなのかなあ」


 見知らぬ円形状の広場を眺めている俺に、隣のリオが不安そうにたずねてくる。

 可愛いクラスメイトにいいところを見せるチャンスだったけど、残念ながら今は冴えた答えを持ちあわせていなかった。


「……もしかすると、夢を見ているのかもしれないな」


 リオに返事をしたというより、独り言のように呟く。

 今いる場所を現実にたとえるなら、ローマの闘技場だろうか。

 しかし空は奇妙な薄紫で、同じ色に染まる雲はイチゴ味の綿菓子みたいに見える。


 あまりにも幻想的ファンタジーな空間で、どうにも現実味が薄い光景だ。


「だからお前は本物のリオじゃなくて、俺の夢に出てきた妄想の産物なんだよ」

「ええー、そんなわけないよお……」


 リオはポニーテールを揺らしながら、困惑したように首を振る。


 俺も彼女も紺の制服姿だから、ついさきほどまで学校にいたと考えるのが自然だ。

 ところが前後の記憶が曖昧で、なんでこんな場所に立っているのか、まったく思い出すことができないのだ。

 

 やがてリオが何かに気づいたようで、


「あそこにいるのってルウちゃんかな。……おーいっ!」


 彼女が指さすほうに目を向けると、大勢の人影が近づいてくるのが見えた。

 離れたところにいたので、今まで気がつかなかったらしい。

 花柄のワンピースを着た小さな子が、パタパタとかけよってくる。


「やっぱりお姉ちゃんだ。ここがどこなのか、知ってたりしない?」

「ううん。だからわたしも困ってるの」


 そういえば小学生の妹がいると、リオから聞いたことがある。やや釣り目で生意気そうな印象を受けるものの、かけよってきた少女の顔立ちはリオによく似ている。

 ルウは俺をじろじろと見つめると、小学生らしく無遠慮に言った。


「こいつがお姉ちゃんの彼氏? 話に聞いてたのとイメージが違うんだけど」

「俺たちはそういう関係じゃないぞ。仲がいいのは確かだけどな」

「嘘っ!? 映画とか行ったのに!?」


 隣で聞いていたリオが、何故かショックを受けている。

 ……あれ? もしかして俺の認識が間違っていたのか?


「甘酸っぱい空気にならないから、てっきりデートじゃないのかと」

「わたしはなってました! アピ―ルだってしてました!」

「すまん。全然気づかなかった」

「で、結局どっちなの……?」


 眉をひそめるルウの後ろから、遅れて集団がぞろぞろとやってくる。

 間近で見ると、集団には可愛い女の子しかいなかった。

 気がつけば俺は、リオとルウを含めた十二人の美少女たちに囲まれていた。


「……さすがに都合がよすぎるような。まるでハーレムじゃないか」

「でもでも、わたしはカイくんの妄想じゃないからね? 夢に見ちゃうくらい意識してるって言うんなら、嬉しくないわけじゃないけどさあ」

「うん、まあ……その辺の話はあとにして、今はこの状況をなんとかしないと」


 ブツクサ言うリオをたしなめてから、俺は周囲の子たちに「ここは夢の世界」という自分の考えを説明した。


 すると短髪の女の子が正面にやってくる。

 タンクトップにホットパンツ姿で、ほどよく焼けた肌はいかにも活発そうだ。

 彼女は俺の肩になれなれしく手をかけると、


「だったらボクが試してあげるよ。ほらこうやって――」


 いきなりフロントチョークをかましてきやがった。

 強引に頭を抱えこまれたので横乳の感触がするものの、首がぎゅうぎゅう絞まってそれどころじゃない。


「ちょ……っ! ギブギブギブ……っ!」

「ほら痛いじゃん。だからここはあんたの夢じゃないってこと」


 ベタな方法で俺の考えを否定した少女は、得意げに八重歯を見せる。

 こいつの顔はニュースで見た覚えがある。

 やたら鋭いパンチを放つ動画で話題になった、ボクシング少女のユウカだ。


「夢じゃないなら、何だってんだよ……」


 俺の問いかけを皮きりに、周りの少女たちが口々に騒ぎだす。


「宇宙人にさらわれたんとちがう?」

「みんな死んでて霊界にいるとか……やだ、自分で言ってて怖くなってきちゃった」

「夢で痛みを感じないというのは俗説ですけどね。脳内の記憶を整理する生理現象なわけですから、過去に経験した苦痛が夢の中で再現されるケースだって存在しますよ」


 女子フィギュアの新星ナナミが妙な関西弁でオカルトな推測を述べれば、朝ドラ主演に抜擢されたアイドルのカヅキちゃんがさらに不穏な推測を返している。

 夢のうんちくを語った金髪の子は、アメリカ生まれの天才発明少女アリサだ。


 お嬢さま高校の制服からフリルのついたステージ衣装、ストリート系ブランドの大ぶりなパーカーまで――様々な服装に身を包んで語らう、小鳥のような美少女の群れ。


 彼女たちはただ可愛いだけではなく、何らかの特技で名の知れた才女ばかりだ。

 クラスメイトのリオもテニスの全国大会で優勝しているし、妹のルウは絵画コンクールで何度も入賞していると、前に彼女から聞いた覚えがある。


 とくに取り柄がないのは、俺くらいだろうか。

 唯一の男という意味でも、俺は集団の中で例外だ。

 これが夢でないのなら、目の前のファンタジー空間はいったい何なのだろう?

 ふと頭をよぎったのは、ファンタジーというよりはクレイジーな発想だった。


「――わかったぞ! 異世界に召喚されたんだっ!」


 いきなり大声をあげた俺に、女の子たちが会話を止めて注目する。

 発明少女のアリサが、けげんそうに問いかける。


「つまり何らかの手段で、現実とは異なる空間に飛ばされたということですか?」

「あからさまにファンタジーな空間に集められた、稀有な才能を持つ美少女と平凡な少年。……異世界召喚系の小説によくある展開じゃないか」


 たぶん俺はこれからぶっちぎりで最強の能力か、最弱だと思われていたけど使い方によっては最強になるチート級の能力を手にいれる。

 他の女の子たちもすごい能力を手にいれるけど俺ほどじゃなくて、誰も勝てないラスボスをワンパンで倒す俺の強さに感動して、みんな服を脱いでキャッキャウフフと――。


「さっきの夢の話もそうですけど、どうしてそこまで自分本位になれるですか……」


 最年少のルウが的確なツッコミを入れてくれる。

 俺は無意識のうちに、言う必要のない妄想まで口に出していたらしい。


「わたしもすごい力が使えるようになって、カイくんと冒険できるのかなあ」


 冷めた妹と違って、頭がお花畑なリオは全力で話に乗ってくる。

 他の子たちも真面目に考えることに飽きたのか、


「だったらボクは拳で戦いたいよ。モンスターぶん殴ったらどんな感触なんだろ」

「わたしは炎が出せるようになりたいな。気にいらないやつ燃やしたら楽しいでしょ」

「みなさんストレス溜まっとりますなあ。現実逃避したくなるのも無理あらへんけど」


 最後にナナミちゃんがはんなりと、全員の思いを代弁してくれた。


 実際のところ俺の推測は穴だらけだ。

 もし本当に異世界に召喚されたのだとしたら、俺たちをこの場に呼び寄せたやつがいるはずだ。

 しかし今のところ、そのような人物は姿を見せていない。


 いや、もしかしたら――。


「……そろそろ出てきたらどうだ。俺はすでに気づいているぞ」


 誰もいないところに声をかけてみる。

 召喚したやつが隠れて様子をうかがっているのではないか――そう考えてハッタリをかましたわけである。


 しかし返ってきたのは虚しい沈黙だけだった。

 女の子たちの「何言ってんのこいつ」という視線が痛い。

 俺は思わず目を背ける。


 すると隣にゴスロリの幼女がいた。


「――どわっ! なんだお前っ!」

「自分で言っておいて何を驚いておる。出てこいと言われたから出てきたのじゃぞ」


 腰を抜かした俺に向けて、ゴスロリの幼女は不服そうな表情で腕を組む。

 幼女は何もない空間から、いきなり湧いて出てきたみたいだった。

 その姿は威厳たっぷりで、三千歳のロリババアと言われても信じてしまいそうだ。


「えーと、じゃあ俺たちをここに召喚したのは」

「左様。こそが汝らを彼方の次元から呼び寄せた、秘術の使い手なり」


 ……どうやらマジらしい。 


 重度の中二病患者みたいに喋る幼女は、不思議と嘘をついているように見えなかった。おかげで俺の中で芽生えていた異世界ハーレムの妄想が、より現実味を帯びた期待へとふくらんでいく。


「さて本題に入るとしよう。汝らをこの世界に召喚した目的は、争いによって失われてしまったの力を取り戻すためじゃ」


 自分のことを『我ら』と呼ぶゴスロリ幼女はそう言って、ひょいと上を指さす。

 つられて空を見ると、周りの女の子たちも俺の行動にならった。


 薄紫色の空を背景に。

 神々しい姿をした何かがいる。


 ――燃えたぎる炎をまとった巨人。

 ――漆黒のマントをたなびかせる悪魔の公爵。

 ――まばゆく光る甲冑をまとった銀の騎士。

 ――極彩色の羽を広げた巨大な蛾。

 ――ひたすらうねりつづける闇の渦。

 ――稲光を走らせながら躍る一角の白馬。


 他にも、他にも……。

 異形と呼ぶべき存在が、俺たちを歓迎するようにくるくると空を舞っている。


「歓喜するがよい。類い稀なる資質を持つ汝らは、我らに選ばれたのだ。十二界を総べる超常者――魔皇アスラが求める、秘宝を生みだす姫君として」


 空を仰ぎながら、その場にいる女の子たちの誰もが息を呑んでいる。

 一方の俺は、期待どおりの展開にガッツポーズを決めた。


 間違いない。

 ガチの異世界召喚ハーレムだ。

 十二人の美少女は、空を舞う召喚獣みたいなやつらと契約して悪い魔物と戦う。

 俺だけ蚊帳の外にされてるけど、これから最強系の能力を授かって無双するのだ。


 興奮した俺は幼女の頭をポンポンと叩く。


「要するに俺がこの世界を救うんだろ。おら、さっさと最強の力をよこせや」


 しかし幼女は俺の手を乱暴に払う。

 そしてゾッとするような目で睨んできた。


「ずっと気になっておったが、どうしてこの場にお前のような男がおるのじゃ?」


 ……は? 

 意味がわからず、呆然とする。


 直後。

 凄まじい地響きとともに、空を舞っていた異形者たちが広場に降りてくる。


『どうやら召喚の儀に手違いがあったようだな』

『アグニよ、この少年は排除するべきだろう』

『我らに必要なのは、秘宝を生みだす少女のみ』


 彼らのいる方向から不穏な声が響いてくる。

 なんとなく……場の空気がきな臭くなってきたような。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。話がおかしな方向に進んでないか?」

「確かにその通りじゃな。お前のような異分子が召喚されるとは」


 狼狽する俺に、アグニと呼ばれたゴスロリ幼女は冷徹な言葉を返す。

 周囲の女の子たちは、恐怖に凍りついたような顔でこちらをじっと見つめている。


『礼節をわきまえぬ者に、慈悲などかける必要はないか』


 可愛らしい幼女の口から、おどろおどろしい声が響く。

 華奢な身体はみるみるうちに巨大化し、燃え盛る炎をまとった魔神へと変身する。


 いや……この姿こそなのだ。

 異形なる超常者――魔皇としての。


 変わり果てたアグニが黒光りする岩のごとき腕を伸ばし、ボクシング少女のフロントチョークとは比べようもない容赦のなさで、俺の首をギリギリと締めあげる。

 女の子たちの恐怖に染まった叫び声が聞こえてきて、自分がどれだけヤバい状況にあるのか否応もなく理解してしまう。


『不要物として処分されることになったわけじゃが、最後に言いたいことは?』

「ちょっ……俺の異世界ドスケベハーレムは……」

『バカを言え。お前のような低俗な輩に、そんなものが与えられるはずはなかろう』


 魔皇と呼ぶにふさわしい鬼面を歪ませ、アグニが嗤う。



 そして俺の喉元から。

 硬いものが砕ける音が響いた。

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