就職先は見つからなかったけど、ダーマ神殿をみつけた。

奥田啓

第1話 株式会社ダーマ神殿

「それでは、志望動機を教えてください」

面接官は言う


おれは元気よく答える

「はい!

企業理念の『達磨人間になる』に共感したからです。

というのも大学時代ラクロス部にはいっており、3年次にはキャプテンを務めていました。リーグ戦で大事な試合中、敵に多く点数がはいってしまい、士気がさがっていたところ、

わたしは諦めたら終わるが諦めなければまだ続く

そういって皆を鼓舞して

逆転し、勝利を収めました。

倒れそうになっても、立ち上がるこの精神は父に教えてもらったものでした。

弁護士だった父が法廷で何度も負けそうになったとき、その言葉を唱えて勝ち上がってきたと。

それを幼い頃のわたしにおしえてくれました。そんな父に憧れ、その精神をずっとわたしは守っておりました。

ずっと習ってきたその精神が御社の企業理念と強く結びつき、

ここで働いて自分の力を発揮したい、そう思い応募に至りました。」






全部うそだ。なんていうかほんとうに丸々うそだ。真実の含有量はゼロだ。

おれは大学時代何もしてない。なんのサークル部活にもはいらず友達もできないままここまできたし

父は弁護士でもなんでもない。ただのさえないサラリーマンだし

達磨人間なんてとんでもない。常に弱音をはいてる立ち上がるどころか最初から倒れたままだ。そんな人間だ。

だけどなにもないなんていえないこんな人間なんていってとってくれる会社なんていないのはさすがにわかる。だから偽るのだ

とにかくでないうんこをひねり出すように

架空の経験談を話して自分をアピールしなければ

おれにとって就職活動とはそういう場だ。



面接官をみると、俺の話を大変退屈そうに聞いている


一応おれは面接にきた人であるとともに会社の製品を使う客でもあるんだからそんな態度していいのかといいたくなる。

だけどいったって何にもならない。「生意気な奴だが、こんなこと言ってくるものはいなかった。面白い、あの人材をとりなさい」なんてドラマみたいな展開にはならない。ただただ失礼なやつだ。俺は雇われる側で向こうは雇う側

バワーバランスは向こうが有利に決まってる。

職がないんだから這いつくばってでも向こうの非を飲み込みただ好かれることに神経を注ぐ。それが生き残る術なんだ。



しかしその後もむこうはつまらなそうにきいて、俺は一生懸命はなして

、またつまらなそうにきく。

それがずっと続いた。

あっ落ちたな。

面接中にビンビンその感じが伝わってくる。

面接がおわり誰もいないエレベーターに乗り込むと

ネクタイを外す。

クソが。

おれがなんかすげぇ偉くなってあいつらがおれになにか頼んできてもまじなんもしてやらねーし

悪態をつくが、そんな場面ないだろうな。

ああもうこれ何社目だ

俺って本当に社会不適合者なのかな。

やりたいこともないしかといって働かないことを世間は許してくれないし。金がないと生きていけない。

ほんとうにしんどい世の中だ。

おれはどうしたらいいんだ?

また正解不在の自問自答を始める。

不毛とはこのことだと思う。




新宿のオフィスビル群を歩く。

人が溢れていて日差しが強い。

何も考えられない

コンディション最悪だよ。

ちょっとどこかで涼んでいこう。

あのビルにカフェあるな、あそこにしよう。

入り口にはいろうとしたら、

ちょっとへんなものが一瞬めにうつった

なんだ?

ビルをみてもおかしいところはないけど。なにがおかしかったんだ

ビルに入っている会社の一覧をみる。

一階はカフェの名前。2.3.4階と何の疑問も抱かない普通の会社の名前が連ねている。



5階 株式会社ダーマ神殿


は?


もう一度みる

株式会社ダーマ神殿


なんだこれ。

これあのあれじゃん、某有名ゲームのアレじゃん。

ふざけた名前だな。

ネタで会社やってるのかな?

金持ちのお遊びか?

最近はやりのコンセプトカフェとかBARとかじゃないのかな


なんか少し興味がわいてきた。

カフェは後にしよう。

ビルの奥にエレベーターがあったので乗り込み、5階のボタンを押す。

上昇音がうるさい。

なんなんだよ株式会社ダーマ神殿って。矛盾だらけじゃないか。

なんか笑えてくる。

中はどうなってんだろう。

いわゆる神殿っぽくしてるのかな?

こんな狭いビルの中にそんな神殿あったら笑うんすけど。

ようこそ、ここは転職をつかさどるところとかいうのかな。

一体なにに転職できんだよ

このご時世戦士とかになってもな。

想像が膨らむなか5階につく。

扉が開く。

そこは普通のだった。

すぐ扉があり、普通のプレートに

「株式会社ダーマ神殿」と書かれている。

シュールだなあ。笑いを抑える。

そしてノックをしてみる。

するとTシャツ姿の女性が現れた。

普通にセミロングで可愛かったので面食らってしまった

普通の人がいて笑おうとしたのに。

女の人はきょとんとしている

「えっとあの…ここ株式会社ダーマ神殿ですか?」おそるおそるきくと

「あ!転職希望ですか!」ぱああっと顔を明るくして「お客さんきましたよ!」と部屋の向こう側にいう。

そして「さあ狭くてかたづいてないんですけど、どうぞ」といっておれを部屋の中に誘う



中を入ってみると段ボールだらけだ。

オフィスというかんじで神殿感はゼロだった

「すみませんつい先日ここに越してきたばかりなので。」

もう核心をきいてしまおう

「ここってやっぱり…」

「おっと、あれ言い忘れてましたね。ようこそ、ここはダーマ神殿です。」

なんだよ急に


「転職ってどうやってその…」

「もうやってもらったほうが早いですね、そっち行ってみてください」



大きくはられたパーテーションがあり

そっちにいくと

小さな段差のあるものがある。

これはもしかして祭壇、のつもりなのか。

その上に人がいる。



Tシャツ姿の髭のおじさんだった。

せめて神官の服とか雰囲気だすためにきないのかよ…

おれをみて髭のおじさんは

「ここは転職をつかさどるダーマ神殿。職業を変えたいものが来るところじゃ転職希望かな?」



「は、はい」

もう暇つぶしといて従っとくか…


「名前はなんと申すか?」

「え、えっとたける…ですけど」

「たけるのなりたいのはどの職業じゃな?」

急に呼び捨てなんだな…


するとタブレットをわたしてきた。

ここはITなのかよ。現代だな。


リストをみると



戦士とか、武闘家とか普通のがある。

こんなのなってもね…


あれ、いつもある魔法使いがないな


「あの魔法使いないんですけど…」

「魔法使いになるには童貞の熟練度をあげてマスターする必要がある。まだ、そなたは足りないようじゃ」


うるせえわなんだよそれだれが童貞だよ!童貞だけどさ



ほかにはなにかあるのかな…


女子大生?




「これ、なんすか?」

素直にきいてみる



「女子大生になりたいと申すか?」

「え?いやあの」

「それでは たけるよ

女子大生の気持ちになって祈りなさい」


え、え?

急にまわりがひかりはじめた


「おお この世のすべての命につかさどる神よ!たけるに新たな人生を歩ませたまえ!

まばゆいひかりがおれを包む。

まわりがみえなくなる


なんだなんだ、なんなんだよ!


光がうすれ

大神官がみえた。


これでたけるは女子大生として生きてゆくことになった

生まれ変わったつもりで修行をつむがよい。」


するとさっきの女性が後ろから声をかけてくる

うわーすごいいいですね!似合ってます!

姿みます?


は?姿?

何か変わったの?


女性は姿見を奥から持ってくると

俺の前においた。

すると現れたのはさえない顔のスーツ姿の男じゃなかった。

キャピキャピした俺の苦手な女子大生の姿になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

就職先は見つからなかったけど、ダーマ神殿をみつけた。 奥田啓 @iiniku70

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ