りんご仲間と楽しい日々
プチ旅行
第95話 プチ旅行 その1
元気になった泰葉が4日ぶりに学校に登校して教室に顔を出すと、すぐに仲間達が集まってきました。すぐに彼女に声かけたのはセリナです。
「泰葉、もう大丈夫なの?」
「うん、もう元気だよ」
心配そうにしている彼女にニッコリ笑顔で泰葉が返事を返すと、今度は自分の番だと言う勢いでルルが質問をしてきます。
「結局原因は何だったっスか?」
「分かんない。おばあちゃんが言うには、認証の副作用らしいんだけどね」
寝込んでいた理由がはっきりしない事を泰葉は苦笑いを浮かべながら説明します。次にゆみが声をかけてきました。
「病気が治ったって事はもう再発とははないんだよね?」
「多分。アリスのおかげだよ」
「わ、私は何モ……」
あれほど大活躍したにも関わらず、アリスは自分のした事を謙遜します。その態度を見たゆみが彼女の肩を抱いて励ましました。
「何言ってるの、アリス大活躍したじゃない!」
「そうっスよ!胸を張るっスよ!」
「エヘヘ……」
ルルからも激励を受けて、アリスは照れ笑いを浮かべます。こうして場が柔らかい雰囲気になったところで、セリナが突然何か閃きました。
「ねぇ、泰葉復活記念に何かしない?」
「何かって?」
彼女の思いつきにゆみが食いつきます。自分の事でみんなが動くと言うのは悪いなと感じた泰葉は困惑の表情を浮かべると、その申し出を断りました。
「や、別にいいよ、そんな大袈裟な……」
「それ、アップルパイパーティーでいいんじゃないっスか?最近やってなかったし」
この話の流れからルルが得意顔でアイディアを披露します。その話を聞いたセリナはすぐに不満を訴えました。
「えー、そんなのサプライズでもないでもないじゃん」
「そっスかねぇ」
このダメ出しに納得行かないのか、ルルは首を傾げます。
けれど逆に泰葉はこのアイディアを気に入ったらしく、ポンと手を叩くとニッコリ笑顔になりました。
「あ、でもその案頂き!パーティーやろっか、うん」
「やろうやろう~」
アップルパイパーティーと言う言葉を耳にした鈴香もノリノリで同意して場を盛り上げます。主役の泰葉がやる気を見せていたので、この案に消極的だったセリナやゆみも渋々同意する事になりました。
こうして1ヶ月ぶりに泰葉の家でアップルパイパーティーが開かれる事が決まります。
そうしてすぐにクラスメイトに声をかけて参加メンバーを募ったり、参加メンバーの数が決まったところでその数に見合う材料を仕込んだりと、パーティーの下準備が忙しく進められました。
準備が整ったと言う事で話が決まったその週の休日にアップルパイパーティーは無事に開かれました。参加者はみんな泰葉の無事回復を喜んだクラスメイト達です。
りんご仲間を含む男女合わせて15人程度が泰葉の家に集まり、賑やかにパーティーは始まりました。パーティーに集まったクラスメイト達は次々に彼女に声をかけていきます。
「パーティ久しぶりだね」
「呼んでくれてサンキューな!」
みんなから声をかけられて泰葉はニコニコ上機嫌。クラスメイト達がそれぞれ好きに過ごしている姿を見て満足そうです。用意していたジュースを飲みながらまったりしていると、今回初参加の佐藤仁美が不安そうな顔をして声をかけてきました。
「あの……。余ったの持って帰ってもいいかな?」
「うん、いいよ」
泰葉がその申し出を快諾すると、彼女の顔がパアアと一気に明るくなります。そうして何故かしっかり用意していた持ち帰り用のタッパーにどんどんパイを詰めていきました。多分パーティ参加者に事前にリサーチをしていたのでしょう。
とは言え、そこまで強欲に持ち帰ろうとしていた訳ではなかったので、この行為を咎める人はどこにもいませんでした。
パーティの賑やかな雰囲気を眺めていたルルは自分が初参加した時の事を思い出して遠い目をしています。
「懐かしいっスね」
「本当デス」
同じパーティーで同じく初参加だったアリスも同じ感想を抱いて、パーティーの雰囲気を楽しんでいました。同じ景色を眺めていても流石に古参のりんご仲間は視点が違います。セリナは賑やかに進むパーティーを眺めながらポツリとつぶやきます。
「今回は新しい仲間、見つかるかなぁ」
そんなおもてなし側の思惑とは裏腹に、パーティーは何事もなく順調に楽しい時間だけを提供し続けていました。
「うまいうまい」
「そう言えば最近さあ……」
「えー?マジ?」
りんご仲間達は参加者の言葉に注意深く聞き耳を立てるものの、どこからもりんご能力についての話題は聞かれません。どうやら今回は仲間探しと言う点においては不発だったようです。それでも主催者の泰葉は満足そうでした。
「久しぶりだったけど、盛り上がって良かった」
「美味しいねぇ~」
鈴香は泰葉の作ったパイを頬張りながら、満足そうな表情を浮かべています。それを見たゆみは呆れたようにため息を吐き出しました。
「鈴香、参加者側……」
「いいよ、みんなが楽しければ」
泰葉はそんな鈴香も笑って受け入れます。本人が気にしていないので周りのメンバーもそれ以上彼女を責める事はしませんでした。足りなくなったところでパイを補充していた泰葉に、パーティー常連の井出希が声をかけてきました。
「あれから体調はどう?」
「うん、健康そのものだよ!」
「そっか、良かった」
こうして楽しい時間は過ぎていき、やがてお開きの時間がやってきます。参加者は次々に泰葉に声をかけて、帰っていきました。
「んじゃーなー」
「またやってね」
「楽しかったよ」
りんご仲間以外が全員帰ったので、早速みんなで後片付けをします。食器類を洗って元の場所に戻したり、椅子や机を並べ直したり……。
前はメンバーが少なくて30分くらいかかっていたこの作業も今は総勢6人です。手分けして効率よく作業する事で片付けは数分で終わってしまいました。
部屋が元通りになったところで泰葉がみんなに向かって声をかけます。
「ふう、無事に終わったね」
「アレ?」
作業が終わり落ち着いた頃、何かに気付いたアリスが顎に手を当て首を傾げます。その言葉が気になったルルが彼女に声をかけました。
「どうしたっスか?」
「確かこのパーティーって、泰葉の復帰を祝うものだったはずデスヨネ?」
「そっスね」
その疑問にルルは不思議な顔をしながらうなずきます。アリスは更に言葉を続けました。
「肝心の彼女は会場の準備やパイの制作と裏方に徹していマシタ。全然祝えていマセン」
「おお……。そう言えば……」
ルルは目を丸くしてポンと手を打ちます。変に気を使われるのが嫌な泰葉は、ここでも話が変な方向に行かないようにフォローに入ります。
「い、いいよいいよ。私も楽しかったしさ」
遠慮しているのが見え見えな彼女を見て、何か思うところがあったのかセリナが突然立ち上がりました。
「いや、良くないよ!やっぱり何か別の事をやろう!」
「別な事って?」
セリナのその力の入った宣言にゆみがツッコミを入れます。あまり先の事までは考えていなかった彼女は、ここで急に口ごもりました。
「それは……。それを今から考えようよ!」
「だからそんな気を使わないで」
「私達が何かしたいんだよ!ね、みんな!」
熱意だけは熱いセリナは、その勢いのままみんなに向かって話しかけます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます