第94話 泰葉、倒れる その6
説明を受けた彼女はまだ何が何やら分かっていない風でしたが、取り敢えず自分のために頑張ってくれた彼女にお礼を言います。その光景を見終わった夢の精は、ここらが潮時だとばかりにアリスの服を掴んで引っ張ります。
「さあさあ!夢の主人が起きたからあたしらは帰るよ!」
「え、まだ何も伝エテ……」
「これが掟なの!逆らう事は出来ないの!」
精霊に引っ張られながら遠ざかっていく彼女を目で追いながら、まだ現状が把握出来ていない泰葉は戸惑います。
「えっと、アリス?」
「ま、また現実で会いまショウ!」
アリスは最後にそう言い残すと、ふわっと姿を消してしまいました。ひとり取り残された彼女は思わずつぶやきます。
「現実?現実って何?」
泰葉はアリスの残した言葉を何度も
やがて彼女は何も出来ないまま、その光に包まれます。
「うわっまぶしっ!」
光の中に溶け込んだ泰葉が次にまぶたを開けた時、その瞳に映ったのは見慣れた自分の部屋の光景でした。
「あれ?」
「アレレ?」
同時期、保健室で寝ていたアリスも目を覚まします。眠り姫を起こすミッションに成功したので、現実に戻ってこられたのでしょう。
彼女が目覚めたので、その様子を見守っていた保健の先生がやさしく声をかけます。
「あ、目が覚めたのね。ちゃんと4時間目の終わりに目が覚めるとは、君の腹時計も中々に正確じゃない」
「えと……あの……何で私は保健室ニ?」
「友達2人が運んできたのよ。後でお礼を言うといいわ。で、どうするの?」
この唐突な先生の質問の意図が分からず、アリスは困惑します。
「え?」
「このまま4時間目が終わるまで休むのか、それともすぐに授業に戻るのか」
先生は授業の途中で戻るのか、授業が終わるまで休んでいくのか、その選択を迫ったのでした。追加の説明で話を飲み込めた彼女はニッコリ笑うと、自分の望みを伝えます。
「……あの、もうちょっとここにいてもイイデスカ?」
「ふふ、了解」
アリスの答えを聞いた先生は満足そうにニッコリと笑うのでした。
所変わって泰葉の自室では、部屋の同居人に自分が寝ていた間の事を尋ねます。
「ナリス、私、ずっと寝てた?」
(ええそうよ。おはよう、泰葉。目覚めはいかが?)
「何か不思議な夢を見ていた気がする。殆ど忘れたけど、最後の方でアリスを見た気がするんだ。その夢の中のアリスはすごく生々しかった……」
ナリスは泰葉のその言葉を聞いて、すぐに何が起こったのかを察しました。
(アリスは確か色んな事が出来る子でしょ?本当に泰葉の夢に遊びに来たのかもよ?)
「そうかも知れない。明日学校で聞いてみよう」
(もう学校にも行けそうなのね?)
「うん、じっくり寝たからなのかな。今は身も心もスッキリしてるんだ!」
そう言った後、泰葉はベッドの上で思いっきり背伸びをしました。体調が戻った事を実感した彼女は、次に急に下腹部の異常に気付きます。
「ああ、安心したらすごくお腹空いてきた!おかーさーん!」
食欲が復活した泰葉はそのまま部屋を出て台所へと向かいました。元気になった彼女を見た母親は、驚きながらもすぐに食事を作り始めます。もうお昼が近かったので、少し早めの昼食を彼女はもりもりと口に運んだのでした。
学校ではちょうど4時間目が終わった直後にアリスが教室に戻ってきました。ドアを開けたところですぐにりんご仲間達は気が付きます。
その中でセリナが一番最初に彼女に声をかけました。
「アリス、目が覚めて良かった」
「ご迷惑、おかけしマシタ」
「それはいいけど、うまくいったの?」
セリナに続いて、一緒にアリスを運んだゆみが声をかけます。この質問に彼女のニッコリと笑顔で返しました。
「はい!今頃はきっと泰葉さんも目覚めているはずデス」
「そっか。良かった良かった」
「一件落着う~」
そのやり取りを聞いていた鈴香もニッコリ笑顔になって、りんご仲間達の間にほっこり空間が広がります。それからみんなお弁当を取り出して、昼食の準備をしました。
みんなで集まって楽しいランチタイムを過ごしながら、またさっきの話の続きが始まります。最初に喋り出したのはまたしてもセリナでした。
「結局原因は何だったんだろうね?」
「それは私にも分かりません……」
「いや、アリスは何も悪くないよ。どうか胸を張って!」
何故か落ち込んでしまったアリスを見て、セリナは慌てて慰めます。その様子を見ていたゆみは場の雰囲気を良くしようと、明るく話しかけました。
「元気になったらまた学校にもくるだろうから、その時に真相を聞いてみよう!」
「明日が楽しみっス!」
ゆみの言葉にルルルが乗っかりました。この流れを上手く利用しようとセリナも同調します。
「本当、素敵な質問を考えておかなくっちゃ」
「あはは」
そんなやりとりが楽しかったので、みんなは笑いました。アリスもすっかり調子を戻し、輪の中に混じって笑います。
会話はその後、休んだ泰葉にどんな質問をしようかと言う話題で大いに盛り上がりました。きっと明日泰葉が登校した時、彼女は質問攻めにされる事でしょう。
当の泰葉はまだそうなる事も知らず、自宅で休みの時にしか楽しめない平日の昼のテレビ番組を見ながら笑っているのでした。
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