第79話 愉快な休日 その6

 定番のエビに季節の野菜が乗っていて天つゆが染み込んでいる、それはもう食欲をそそられる天丼でした。


 みんながそれぞれ他の人の選んだ料理を眺めていても始まりません。そろそろ食事を始めようと泰葉がみんなに声をかけました。


「じゃ、食べよっか」


「いただきまーす!」


 こうして楽しい食事の時間が始まります。みんなが美味しく食事を楽しみ始めた頃、フードコートはかなり混雑してきました。もしここに来るのが少し遅れていたら泰葉達もこの行列の中で料理を待ち、座る席も確保出来ていなかったに違いありません。

 混雑する店内を横目で見ながら、早めにここに来ると言うこの選択を選んだ事は正解だっとみんなは思うのでした。



「ふー、まんぷくぷー」


 全員が好きなものを選んだので、みんなあっと言う間に完食しました。食後のまったり感をそれぞれが味わっていると、鈴香のまぶたがとろんとしてきます。


「スヤァ……」


「鈴香、いきなりな寝ないっ!」


 早速それに気付いたゆみが彼女を叱ります。きつい言葉を受けて、鈴香は何とか意識を取り戻しました。


「ふあ……ごめんなさい~」


「本当、マイペースだなぁ……」


 その様子を見たみんなは彼女らしいと笑うのでした。食事も食べ終わり、食器を返した6人はフードコートを出て次の場所へと向かいます。モール内をぞろぞろと歩きながら、お腹いっぱいで満足顔の泰葉が話しかけました。


「じゃ、服見に行こっか」


「今日十分お金持ってる人いる?」


 セリナは美しくディスプレイされた季節のオシャレな服を眺めながら、先立つものをまず気にします。この言葉を耳にしたゆみは肩を落とします。


「私はそこまでは……」


 その流れで6人はそれぞれ顔を見合わせますが、全員が困惑する表情を見せていました。大体の事情を察した泰葉が苦笑いを浮かべます。


「やっぱみんなそっか」


「今日はウィンドウショッピングだね~」


 ここで珍しく空気を読んだ鈴香がみんなを代表してここでの予定を口にします。一応買い物の予定もスケジュールとして組み込んではいたのですが、ここで流行りの服を買ってなおかつそれ以降も資金に余裕のあるメンバーはいなかったようです。

 そう言う訳で、結局服に関しては今日はウィンドウショッピングで済ます事となりました。


 こうして楽しくも欲しいものがすぐには買えない苦痛のような店内観察が始まります。みんな好みのデザインの服を見つけては心の声を隠しませんでした。


「くっ、この可愛い服……欲しい……ッ!」


「今日は我慢っス……」


「今度買いに来る時までどうか売れないでいて~」


 みんなそれぞれが次に来た時に買う服を決め、お店を後にします。それぞれが自販機でジュースを買って、モール内に用意された休憩スペースのソファに座ると一息つきました。

 ジュースを飲んで落ち着いた泰葉がここから先の予定をみんなに相談します。


「でさ、どうする次は」


「猫カフェ~!」


 ここで鈴香が待ってましたとばかりに満を持して右手をピーンと勢い良く上げると元気良く声を張り上げます。普段の彼女とは見違える程のそのはつらつさに周りのメンバーは若干引き気味になりました。

 ただ、その意気込みは十分伝わったので泰葉は早速鈴香の案を採用する事にします。


「そだね、猫カフェ行こう!」


「わ~い!みんなで猫カフェ~!」


 自分の案が採用された事で鈴香は今のもその場でジャンプしそうな程喜んでいます。そう言う訳でこの休憩が終わったらショッピングモールを後にする事になりました。駐輪場で自転車の鍵を外しながら泰葉はお店の場所の確認をします。


「マロンってどの辺りだっけ?」


「商店街の入口近くのビルの二階だよ~」


「お~流石お詳しい」


「えっへん」


 褒められた鈴香は気持ちの良い程のドヤ顔です。場所の確認が出来たと言う事でみんなは商店街へと向かいました。商店街に着いて、その中にある駐輪場に自転車を停めると、みんなは雑談をしながら徒歩で猫カフェへと向かいます。先導するのは常連の鈴香です。場所が分かり易いのもあって、そこにはすぐ着きました。

 お店の入っているビルを前にして、彼女はまるで自分の家のように猫カフェを紹介します。


「ここだよ~」


「私、猫カフェ初めてっス」


「わ、私もデス」


 猫カフェ初心者の2人は初めての猫カフェに若干緊張している様子でした。

 けれど鈴香の癒やしスマイルを見ていたらその緊張もすうーっと溶けていくのか、段々その表情から緊張の色は消えていきます。


「じゃあみんなついてきて~」


 普段のんびりしている彼女が先に先にグイグイと動いているのを見て、それを見慣れていない泰葉は呆気にとられました。


「おお……鈴香が率先して動いてる……」


「流石は猫好きパワー」


 セリナもまたそんな鈴香を見るのは初めてで、改めて彼女の猫好きの力に感心します。6人がぞろぞろと建物の階段を登ると、すぐに猫カフェの入り口に到着します。透明なガラスのドアの向こう側では、複数の猫達がまったりと気ままに過ごしているのがすぐに彼女達の目に飛び込んできました。


「うわ~、猫が一杯っス!」


「みんなかわいいデスネ」


 猫カフェが初めての2人はもうこの時点で興奮しています。そんな2人を含めた6人は早速猫カフェへと入店しました。猫カフェは猫と触れ合うのが目的なので、カフェとは言っても普通の喫茶店みたいに決まった椅子に座るような形にはなっていません。猫のいる部屋にお邪魔した格好で、お客さんは好きな場所に佇んで猫と触れ合うシステムです。

 6人もまた好きな場所に座ってカフェ内の猫達とふれあいます。


 泰葉はカフェ内に用意されていたソファに座りながら話しかけました。


「みんなはよく猫カフェ来るの?」


 この言葉にすぐに答えたのは隣りに座ったセリナです。


「そう言う泰葉は?」


「私は1回だけ。ここがオープンした時にどんなものかなって」


「一緒一緒。でもそもそも私はあんまり外に出ないから……」


 どうやら泰葉もセリナも猫カフェに来たのは今日でまだ2回目のようでした。そんな2人の会話にゆみが苦笑いをしながら割り込みます。


「私なんて毎回鈴香に付き合ってるからもう常連だよ」


 彼女の言葉に泰葉の好奇心はうずきました。


「そんなに?」


「毎週、とまでは言わないけど月に一回以上はね」


「じゃあもう猫達とかなり仲良しだ」


「そうでもないよ、やっぱ相性とかもあるからさ」


 そう話すゆみの周りには確かにそんなに多くの猫は集まっていません。1匹の小さな白猫、マルコだけが寄り添うように座っているばかりです。彼女はこのマルコと特に仲良しらしく、ずうっとその背中をなでています。

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