5-4. 頬笑
俺と葵は木炭を抱えながら、自分の班へ戻ると、花音と優里、そして武彦が待っていてくれていた。
「おい、遅いぞ! 二人とも!」
「野菜はもう全部切ってあるから、あとは焼くだけ」
「さきに野菜で、あとで肉な」
「ごめんな、待たせちゃって」
俺は木炭をコンロのそばへ置いて、火の加減を見てみると、
「って、全然足りてんじゃん!」
「いやー、なんていうか、お前らが木炭取りに行っている間に、全体に火が行き渡ってな、燃え盛っているわけよ」
武彦は笑いながら野菜を編み目の上に載せていく。
「たぶん、他の班も同じハメを食らっているはずだわ」
「はぁ……、そうだったのかよ」
俺はため息をついた後、葵のほうを向く。
葵は俺が見ていることに気づき、俺は頷き、葵を促す。
「み、みなさん!」
葵の声に、花音、優里、武彦が反応する。
「い、今まで、ごめんなさい」
葵は持っていた木炭をぼろぼろと地面に落としながら、頭を下げる。
「で、でも、もう解決したので、安心してください」
と、笑顔で顔を上げて、みんなに言う。
「あ、あああ、あああああ」
「?」
「葵ぃぃぃぃぃぃっ!」
「ふぇっ!?」
急に優里が葵に飛びかかる。
「葵―、心配してたんだぞー。葵ぷんぷん状態だったから怖かったんだからなー」
「ごめんって、優里ちゃん。そ、それはともかく、へ、変なとこっ、触らないでぇっ……」
この二人はいつもどおりに戻ったみたいだ。
「ちっくしょ――――っ! どうしてこういうときにカメラがないんだ――――っ! おのれ、女子どもっ!!」
武彦も武彦で、相変わらずだ。
「で、どんな魔法を使ったわけ?」
花音が俺のそばへ近寄ってきた。
「いや、そんな変なことはしてないぞ」
「そう? ほんとに?」
「あぁ、ほんとだ」
「そう。だったら、恋の魔法でもあなたが無意識に使ったんじゃない?」
「ははっ、そうかもな」
「あら、否定しないのね?」
「でも、それは、お前的には、面白い展開なんだろ?」
「そうね……。もし、そうだとしたら、物語的に、面白い展開だったかもね」
花音はそう俺に言って、小皿と箸を構えた。
「ささっ、早くしないと食べるものがなくなっちゃうわよ」
俺がコンロの上を見てみると、もうぎっしりと野菜やら肉が焼かれていた。
「おいおい、なんでもうこんなに始まってるんだ!?」
「いやいや、さすが材料に値段を注いでいるだけあってか、量がなかなか多いんだよ」
優里がとうもろこしを頬張りながら、そんなことを言う。
「ほら、眞柄くん、手を動かさないと」
「は、はい! わかっていますって」
武彦は、焼けたものを食べつつ、他の材料を焼くという、器用なことに二つの作業を同時に行なっていた。
「あ、遥くん、はい、これ遥くんの」
葵が俺に渡してくれた皿には、出来上がったものが載せてあった。
「あら、何気にいいご身分じゃない?」
花音が俺にそう言うと、
「違うよ、久東さん。これは遥くんだからこそ、やってあげていることなんです」
と、葵が花音に言ってくる。
「そうなの? てっきり彼女がしていると思っていたから」
「いえいえ、私は今、遥くんの彼女になるつもりですから」
葵は何も恥ずかしがらずに、言い切った。
「す、素直に言われて、わ、私、結構動揺してるんだけど」
そう言いながら、花音は俺の腕を掴み、震えている。
「おいおい、なんでお前が俺にしがみついてくるんだよ」
「だ、だって、あんなに素直に言われたから、動揺して」
「久東――いや、花音さん! 遥くんにそんなにべったりくっついちゃダメ!」
葵が、花音に向けて焼きたてのピーマンを投げつける。
それを花音はうまく口でキャッチをして、咀嚼する。
「ものを投げるなんて、いけないことだって、知ってる?」
花音は俺から離れて、自分の皿と箸を取る。
「あー、さっきかののんが遥斗にしがみついてたのはなんで!?」
「優里! そんなこといいからって――お前まで、くっつく必要ないだろ!?」
優里までもが、俺の腕にしがみついてきた。
「いや、なんかブームに遅れた感じだったから……」
「いいから、離れろって!」
「ケチー、ブーブー」
「ブーブーじゃないだろ!」
俺は優里の手を振りほどいた。
「……なぁ、遥斗」
「どうした? 武彦」
「なんでお前だけそんなにいい思いをしているんだよっ!」
武彦は滝のような涙を流しながら、玉ねぎをコンロに載せていた。
「いや、いい思いなんてしてないと思うんだが……」
「くっ、これだからこのヘタレ野郎は……!」
「ちょっと眞柄くん、肉がないわよ、肉が」
「あ、はいっ! ただいま!」
花音が武彦に指示を出す。
「花音さん、肉ばっかり食べていると、太っちゃいますよ?」
「いいの、私は」
葵の言葉に動揺せず、肉を頬張る花音。
「まだ肉足りないよっ! 私の鉄の胃袋が、唸り始めているぞ!」
優里もお構いなしに、肉ばっかりを頬張っている。
「――ってか、肉の消費量が半端ない!?」
「大丈夫だよ、遥くん。遥くんの分はちゃんと私が確保済みです」
そう言って、葵は俺に肉を盛った皿を渡してくる。
「おう、なんかありがとな!」
「いえいえ、どういたしまいて」
「ん? お前全然食ってないじゃんか、食べろよ、ほら」
俺は盛ってくれていた肉を数枚、箸の逆を使って、葵の皿に載せてやった。
「い、いいの?」
「いいよ、せっかくのバーベキューだし」
「う、うん」
そう言って、葵は肉を一枚取って、口に運ぶ。
「おいおい、賑やかにやってんじゃないかい」
「あ、沢ちゃんじゃん」
「こら、遠野! だから沢ちゃん言うんじゃないって」
「で、先生、何しにここに?」
「あぁ、そうだったそうだった」
俺が質問すると、沢嶋先生は首にかけていたカメラを手に取り、
「ほら、写真取るから並んだ並んだ!」
「え? 写真ですか?」
「そうそう、ほら久東もぼさっとしてないで、並ぶ!」
そう言われて俺たちは、一箇所に集まった。
俺の右隣には葵がきちんと立っていて、左隣には優里がピースをしながら、テンション高めでいて、右前には花音が葵に捕まっていて、左隅に、武彦がトングを持って、輪に加わろうとしていた。
「はい、チーズ」
そのとき撮影した写真は、みんな、笑っていた。
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