眼鏡をかけて生活するのが当たり前の世界のお話
益田米村
序章
『汝、眼鏡と共にあれ』。
これはこの世に人間を造り給うた神が、原始の人間に告げた言葉だという。ゆえに、人は眼鏡をかけて生活している。この世界では当たり前のことだ。
この世に生を受けた時、親が子に最初に与えるものが名前と眼鏡である。これはこの世界の常識。立派な眼鏡を与えることが、親のステータスなのだ。それから人生の節目節目で、人は大切な人に眼鏡を送り、送られる。誕生日に眼鏡。入学式に眼鏡。プロポーズにも眼鏡が使われる。
そして、町を歩けばどこもかしこも、老若男女問わず眼鏡をかけて歩いている。この世界において、眼鏡をかけることは、服を着るのと同じことなのである。中には眼鏡をかけずに生活する『裸眼族』なるものもいるらしいが、それはジャングルの奥地の未開の部族に限られる。
そんな世界に生きる、俺「」も当然眼鏡をかけて生活している。外すのは風呂に入るときくらいのもんだ。寝るときだって、きちんと就寝用の眼鏡をかけて寝る。まあ、うちの姉は寝るときだけは『裸眼族』になるみたいだが。(何てイヤらしい…)。何にしろ、眼鏡は人々の生活には欠かせない、言わば体の一部のようなモノなのだ。
そんな世の中にあって、最近日本では悪い噂をよく耳にする。他人の眼鏡を無理矢理奪う、『眼鏡狩り』なる行為をする集団がいるというのだ。眼鏡を外されるなど、恐ろしい辱しめを受けるようなものである。強にも近い行為だ。
歴史上、自主的に眼鏡を外そうとする反社会的な集団はいくつか存在した。しはしたが、そのほとんどが時の流れの中で、自然に消滅している。そしてこのご時世、眼鏡を外して生活しようなどという思想は、文明の中では流行らないのだ。にも拘わらず、眼鏡を外す、ましてや他人の眼鏡を無理矢理外そうとするなど、反社会的にもほどがある行為である。当然のことながら、「他人の眼鏡を外す行為」は法律で禁止されている。レンズを汚したり、弦を曲げたりする行為も右に同じだ。こういった行為を繰り返せば、必ず警察組織に追われることになる。特に日本警察の『眼鏡犯罪』に対する検挙率の高さは、世界屈指だ。だから、『眼鏡狩り』なんて噂を聞いたとき、「そんなものはすぐに捕まるさ」と思っていた。
しかし、奴らは狡猾で周到であり、また強力な集団であった。警察も全力で捜査に当たり、アジトや関係者を絞り込めもしたが、いずれも寸でのところで取り逃がしている。『眼鏡狩り』の構成員は、皆往々にして驚異的な身体能力や超常的な力を身に付けているのだという。それゆえに、警察でも手に負えないのだとか。世論では自衛隊の出動を求める声も上がっている。しかし、これには左側からの声がぶつかり、実現には至っていない。『眼鏡狩り』出現から半年近くが経ち、被害者の数は日に日に増えるばかり。市民は恐怖に怯える日々を過ごしている。
そしてついに、魔の手は僕の周りにも訪れた・・・。
眼鏡をかけて生活するのが当たり前の世界のお話 益田米村 @masudayonemura
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