冒頭モノその1

益田米村

冒頭

名探偵を名探偵足らしめている最も重要な素質とは、何だと思うかね?


『推理力』?それは、物事を結び付ける『論理的な思考』のことかね?それも良いだろう。事件はよく「パズル」に例えられる。事件を解決することは、パズルを完成させることだ。論理的思考は、パズルを組み立てる力と言えるだろう。どのピースとどのピースが隣同士になり、全体のどのあたりに配置されることになるのか。それを導き出す力は探偵には重要なものだ。

だが、違う。


『豊富な知識』?それもいい。論的な思考は常に多くの情報よって裏付けされなければならない。情報・知識こそ、パズルのピースというわけだ。事件と言うパズルのピースは、必ずしも全て揃った状態で作り始められるわけではない。予め多くのピースを手にした状態で始められる。これほど有意な事は無い。事件解決は近いぞ。

 だが、違う。


『観察力』!良い着眼点だ。手元にないピースを見つけ出す力。ピースはあらゆる場面、状況に落ちている。探偵のイメージに付き物なアイテム「虫めがね」もこれを象徴している。これも重要と言えよう。

 だが、違う。


『コミュニケーション能力』。他者が持っているピースを手に入れる。時には騙し、奪い取る能力。たまに極端にこの能力に乏しい探偵も見かけるが、重要な要素には間違いない。

 だが、一番とは言えない。


『事件を解決しようとする心』だって?面白いことを言う。そうだ。パズルを組み立てようと思わない者に、パズルを完成させることはできない。しかし、考えてみたまえ。事件を解きたくて解く探偵ばかりではないだろう?周囲に急かされ、仕方なしに解く探偵だって、少なくは無い。これ無しにも、探偵は成立する。

 だから、違う。



今あげた物で、探偵が成立するかね?あんなものは誰だって持っているさ。君らだってそうだ。持っているんじゃないか?『論理的な思考』も。『豊富な知識』も。『観察力』も。さらには『事件を解決しようとする心』だって持っているはずだ。だが君たちは探偵ではない。それは何故か?それは、目の前に事件が存在していないからだよ。目の前に無いパズルを完成させることができる者など、居やしない。当然な話さ。事件が存在していなければ、どんなに優れた『推理力』を持った探偵も、その他大勢と変わらない存在になるのさ。


さて、解ってきただろう?探偵を探偵足らしめる最も重要な素質とは。そう、『運』だ。探偵にとって最も重要な素質とは、『事件にめぐり合う強運』なのだよ!事件!事件!事件!毎日が事件!事件を解き続けてこそ、探偵は探偵で居続けることができる!

・・・まあ、もっとも、人によってはそれを『不運』とも呼ぶがね。事件に巻き込まれ続ける人生を良いとするか悪いとするかは、人それぞれだろう?

今回私が皆さんにお聞かせするのは、そんな強運の星の下に生まれてしまった、不運な「探偵」の物語なのだよ。

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冒頭モノその1 益田米村 @masudayonemura

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