星祭り

第143話 星祭り その1

 文化祭騒動も終わり、学園に平穏がやってきた。通常営業な日々が始まったと同時に、新たなイベントの話がクラス内に広がり始める。

 このイベントについて全く前知識のなかった留学組2人は、戸惑いを隠せないでいた。


「星祭り?」


「知らない?」


 キョトンとするマールにミチカも戸惑っている。聞き慣れない祭りの名前に、指を顎に当てながらマールは上目がちにつぶやいた、


「地元ではそう言うのなかったなぁ」


「そっかぁ」


「地元にも星を見るお祭り自体はあるけど、この時期じゃないないんだよね」


 マールが説明していると、そこでなおが会話に割り込む。


「星祭りってどう言うお祭りなんですか?」


「えっとね、星の美しい夜とされる聖ミトラの日の夜にみんなで宇宙の精霊に感謝を捧げる日なんだ」


 このミチカの説明に興味を持ったマールは、目を輝かせながらずいっと身を乗り出す。


「願い事とか叶ったりする?」


「ま、まぁ……祈りを捧げる日だから、そう言ういわれもある……かな?」


 彼女の勢いに引き気味のミチカは、若干視線をそらしながらはっきりしない答えを返した。段々この祭りに興味が湧いてきたマールはすぐに次の話題を口にする。


「屋台とか出る?」


「そりゃまぁ……お祭りだからね」


「やった!」


 望み通りの答えが返って来た事で興奮がマックスに達した彼女は、パンと手を叩く。その嬉しそうな様子を見て、なおもニッコリと笑った。


「マールちゃんらしいです」


「あはは」


「じゃあいいよね、みんなで」


 ミチカは2人からの反応が良かったので、すぐに話をまとめようとする。どうやらこの星祭りに彼女達を誘っていたようだ。マール達もミチカと一緒にその祭りに行く事自体には何の不満もなかったものの、その祭りが行われる時間帯に若干の不安要素を感じていた。

 2人は顔を見合わすとお互いにうなずき合い、マールが代表でそれを口にする。


「でも私達寮暮らしだから聞いてみないと。門限あるし」


「大丈夫、星祭りの日は遅くなってもいいんだよ」


 彼女の不安をミチカは軽く一蹴する。得意げに話すその口ぶりはまるで何もかもお見通しと言った雰囲気だ。

 とは言え、それをすぐには信用出来なかったマールは、マジ顔で改めて彼女に問いただした。


「それ本当なの?適当に言ってない?」


「え、えっと……」


 その強い目力にミチカは目が泳ぐ。実家から学校に通っている彼女に寮のしきたりは分からない。適当に言っていたの事がその態度で丸分かりだった。ただ、星祭りは本島でも大きな祭りなので寮の規制も特別になっている可能性は高い。

 2人のやり取りを見守っていたなおはここでさり気なく助け舟を出した。


「後で管理人さんに聞いてみましょう」


「だねー」


 2人がそれでうなずきあっていると、ミチカはしれっと通常営業の表情に戻って何事もなかったかのように話を進める。


「じゃあ、この話はその事がいい感じになってからって事で」


「おっけ」


 こうして、寮の門限の話がクリアになったらと言う条件でマール達はミチカの話に乗る事となった。



 時間は飛んで放課後、2人は召喚魔法部の部室に顔を出す事にする。文化祭のゴタゴタの後、2人は中々部室に行く機会もなく、部長からも落ち着いてから顔を出すように言われていたからだ。もうすっかり落ち着いたと言う事で、マール達は久しぶりにあの怪しげな部室に向かう事にしたのだった。

 部室に向かうには転移魔法を使う事になるのだけど、大ぴらに使う訳には行かないのでまずは人気ひとけのない所へと移動する。その道中で、2人は星祭りについて雑談を交わしていた。


「星祭り、何だか神秘的な感じがしますね」


「楽しめるといいよね」


 話しながら人気のないところまで移動した2人はお互いにうなずき合うと転移魔法を使う。転移した瞬間、やってきた彼女達に気付いたミーム先輩が気さくに声をかけた。


「お、来たか」


「あれ?」


「やあ、始めまして」


 部室に転移した2人を待っていたのは見慣れた部長とミーム先輩、それと初めて目にする上級生達だった。この状況に戸惑ったマール達は取り敢えずペコリと頭を下げる。


「ど、どもです」


「まだ紹介がまだだったよね。今来たのが期間限定の新入部員だよ」


 ミーム先輩が見慣れない先輩部員にマール達を紹介する。その流れで2人はお互いに自分の名前を口にした。


「えっと、マールです」


「なおです」


 2人がそれぞれぎこちなく頭を下げると、今度は対面している先輩方も自己紹介を開始する。ます最初の口を開いたのは長身短髪の文学少年っぽい先輩だった。


「僕はユニエル。ミームと同じ2年生。よろしくね」


「俺はダム。3年だ。よろしくな」


 後に自己紹介したのはがっしりした体格の器の大きそうなおっさんっぽい先輩。2人の自己紹介が終わったところで疑問を覚えたマールが質問する。


「あの、部員はこれで全員?」


「や、今日も動いているのはいるから」


 ミーム先輩はそう言うと、何かしらの書類の整理をし始めた。その話に続いて、ユニエル先輩が正部員達に向かって話しかける。


「全員が揃った事なんてあったっけ?」


「たまにあるんじゃない?3ヶ月に1回くらい?」


「おー、そんなもんか」


 部員集合の話を聞いたユニエル先輩はポンと拳を叩く。いい具合に区切りがついたところで、今度はダム先輩が後輩2人に少し得意げに話しかけた。


「今日部室にこれだけ集まってるのもレアなんだぜ?」


「そ、そうなんですね」


「部員は全員で7人だ。おっと、君達を外しての数だぞ」


 更に先輩は現在の召喚魔法部の部員数の説明をしてくれる。そこから数を計算したマールは顎に手を当てた。


「じゃあ後3人の顔と名前を知らないのかぁ……」


「部室に顔を出していればその内会えるよ」


「だな」


 マールのつぶやきに先輩男子部員2人が返事を返す。どうやら部員達はそれぞれ仲が良い様子。

 部の雰囲気の良さを実感したところで、今度はなおが先輩達へ質問を飛ばした。


「皆さんは集まって何を?」


「俺は報告書を書きにな」


「何か書き物しないといけないんですか?」


 ダム先輩の言葉にマールは少し困り顔。レポートとか、そう言う書類関係の作業が苦手なのだ。この質問から大体の事情を察した先輩は、眉を逆八の字にして腕を組んだ。


「ま、そう言う部活だからなぁ。作文とか苦手?」


「えっと、ちょっと……」


 そのたどたどしい返事を聞いたミーム先輩は、分かりやすく大きなため息を吐き出した。


「この子達は留学生なんだから単独で仕事させる訳にも行かないでしょ」


「おっと、そうだった」


 ダム先輩はここで豪快に笑う。そのガハハハと言う分かりやすい反応に留学生2人組は顔を見合わせて困ってしまった。それで改めてマールはまだ多少は話しやすいミーム先輩の顔をじいっと見つめる。


「えっと、それはどう言う……?」


「正式部員と同じ仕事をするにしても、単独活動はしないって事だよ」


「単独活動は部活経験1年を超えてからだからな」


 ダム先輩はそう言うと、とびっきりの笑顔を見せて不安そうな新入生組を安心させた。その朗らかなオーラを浴びて緊張の糸が解けたマールは、ここでつい本音を口走ってしまう。


「良かったぁ。レポート的なのは先輩達にお任せすればいいって事ですよね」


「お?マールの癖に賢い」

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