第142話 魔法文化祭 その10

 動力源が抜き取られたのでもうこの厄介なオブジェが動く事もないと、教室内のクラスメイト達は今度こそ本当に全員が安心する。


「そっか、良かったぁ」


「2人共……すごいよ」


 騒動が完全終結したと言う事で、教室内はお祝いムードに包まれた。みんなから賞賛の言葉が投げかけられる中、なおは今後の事についてポツリとこぼす。


「でも、もうこれを動かすのは止めた方が良さそうですね」


「だねぇ」


 さっきの騒ぎを思い返して、みんな彼女の意見に賛同する。床に転がったオブジェはもうピクリとも動かないただの置物だ。危険はなくなったものの、そこにあるのはただの学生が作った何の変哲もない造形物に過ぎない。暴れまわった時に他の展示物は全て破壊されてしまったので、もうクラス展示はあきらめるしかなかった。


 こうして騒動事態は解決出来たと言う事で、マールは時間を確認する。すると12時55分だった。最初からは無理だとしても、急げば最後の何曲かは聴けると言う事で、マールはなおに声をかける。


「じゃ、ライブ観に行こっか」


「一体何があったの?」


 マールがなおを連れて教室を出ようとした時、タイミング悪くそこに先生が入ってきた。そう、クラスメイトが呼びに行った先生が連絡を受けて教室にやってきたのだ。この時の教室はボロボロになった展示物と床に転がる大型オブジェがそのままの状態。悪い予感がしたマールは思わず叫んでしまった。


「げえーっ!先生!」


 先生は教室から出ようとするマール達を引き止めてまずは事情聴取。それから何故すぐに先生を呼ばなかったのか、から始まるお説教モードに突入してしまった。

 このお説教は延々と1時間ほど続き、先生の気が済んだ後はみんなで教室の後片付けをさせられる。こうしてマール達の文化祭は残念な形で終わりを告げた。

 全ての作業が終わった後、ミチカがマール達に話しかける。


「お説教のせいで昼から全然楽しめなかったね」


「本当だよ、ライブ見たかった」


「でも騒ぎを起こしてしまったのは事実ですし」


 2人の先生に対する不満は自分達の自業自得だとするなおの正論にかき消されてしまう。一度目の暴走時にもっとしっかり対策を取っていれば文化祭当日の暴走は起こさなかったのかも知れない。生徒だけで解決出来たとしても、一応は先生方の意見も聞くべきだったとその場でプチ反省会が始まった。

 色んな意見の出る中、レプリカ魔導石を浄化したにも関わらず、それでも暴走してしまった事についてミチカがポツリとこぼす。


「もしかしたら最初のコンセプトからまずかったのかも……」


 つまり、大きなオブジェを作ってそれを動かそうとした企画そのものがまずかったと。この意見に教室内がお通夜状態の中、文化祭途中参加のマールは場の雰囲気を明るくしようとみんなを励ました。


「反省はもう十分したし、被害も大した事なかったからいいじゃん。ね?」


「そうだそうだー」


 この意見にみんなから賛同の声が上がり、雰囲気は一気に切り替わる。自分達の努力を自分達で認め合い、もう片付けも終わっていたため、みんなは下校の時間が来るまで教室内でささやかな打ち上げを楽しんだ。



 こうして波乱の文化祭は終わりを告げ、次の日からはまたいつもの日常が戻ってくる。学校に登校したマールは校内の掲示板の前に人だかりが出来ているのを発見。

 一体何事かとその人だかりの山の中に潜り込むと、中にいたミチカがマールを見つけて声をかけてきた。


「オブジェの暴走、学園新聞の記事になっちゃった……」


「本当だ、私達の事もちょっと載ってる」


 掲示板に張り出されていたのは週に一回発行される学園新聞。今回の特集は当然魔法文化祭だ。記事は人気の演劇部などに多くのスペースを割いていたものの、騒ぎを起こしたと言う事でマール達のクラスの事も割と詳しく書かれていた。

 何て書かれているのか興味を持ったマールが記事を読んでいると、先に来て同じ記事を読んでいたなおが感想を口にする。


「でも混乱を鎮めたのが生徒2人って事しか載ってませんね」


「あんまり目立ちたくないし、いいんじゃない?」


「ですね」


 記事には文化祭の出し物のオブジェが暴走して、それをそのクラスメイト2人が止めたと言う意味の事が書かれていた。取材が雑なのか、敢えて配慮したのか、混乱を止めた生徒についての詳しい記述は書かれていない。

 それをマールは好意的に捉えていた。大人しい性格のなおも彼女の意見に賛同する。



 こうして文化祭はマール達のクラスを少し有名にして、一週間くらいはクラスを見に来る野次馬が絶えなかった。ただ、時間が経つにつれて段々そのブームも去っていき、二週間もするといつものクラスの雰囲気に完全に戻ったのだった。

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