第137話 魔法文化祭 その5
「マールのおかげだよ!」
「みんなが頑張ったからだって!」
彼女の言葉に照れたマールは謙遜する。教室がオブジェ完成のお祝いムードの浸っていたその時、あろう事かそのオブジェ自体に異常が発生してしまう。
オブジェは目を赤く光らせると、突然唸り声を上げ始めた。
「グ、グギギ……」
「あれ?ちょっとおかしくない?」
オブジェの一番近くにいた生徒がその異常にすぐ気付く。お祝いムードはすぐに一転し、この異常事態にさっきレプリカ魔導石を組み込んだベテラン作業員生徒がオブジェが突然おかしくなったその理由を見抜く。
「安全装置が可動してない!」
どうやら魔導オブジェは、機能がうまく働かずに暴走してしまった場合のために安全装置が組み込まれているらしい。その安全装置がどう言う訳だか正常に可動していない事がここで判明する。
何故安全装置に不具合が起きたのか理解の出来ないマールは、思わずその生徒に聞き返した。
「どう言う事?」
「分からない!何で?」
どうやらこの場にいる制作担当のクラスメイト達は全員魔導オブジェがどうして突然暴走したのか、その心当たりがまったくないらしい。オブジェが動き出した原理が分からないために、それを止めるためにどうしたらいいのかも分からず、教室内はパニックになってしまった。
そんな中、この状況をずっと冷静に観察していたミチカがこの状況を抑えるための方策を口にする。
「とにかく止めよう!」
その言葉をきっかけに教室内にいた複数の生徒が一斉に魔導オブジェに向かって拘束魔法をかける。総勢8人の生徒が呼吸を合わせて一斉に両手をかざして魔法の光の網を絡みつける事で、何とかこの暴走オブジェの動きは止まった。これで一安心だと言う事で作業は魔法の固定化へと移る。
この作業をしないと術者が魔法を解いた瞬間に拘束が解けてしまうのだ。
で、この固定化の作業の途中でオブジェから謎の光が発生し、さっきまで固まりかけていた光の網をバラバラに破壊してしまった。
この事態には、流石のミチカも驚いて思わず口を両手で塞ぐ。
「嘘?拘束魔法が」
頼みの綱の拘束魔法が弾け飛んだと言う事で教室内が騒然とする中、いち早く事態の収拾に向かって動いた少女がいた。そう、マールだ。彼女はミチカに声をかけるとすぐにこの場から離脱する。
「私、なおちゃん呼んでくる!」
「なる早でお願い!」
なおを呼びに出かけた彼女の後ろ姿にミチカが叫ぶ。教室を出たマールは今なおがいる美術室へと走っていった。一方でこの暴走オブジェについてはもう一度拘束魔法組がさっきと同じように光の網でその動きを力づくで止める。拘束魔法をかけ続ける限りはこの暴走する置物も動く事は出来ない。
しかし、この方法ではやがて生徒達の魔導力も尽きてしまう事だろう。そう言う事情もあって、この問題は時間との勝負となった。生徒達の魔法の力が尽きるまでになおを呼んで彼女の力でオブジェの動きを止めるか、彼女が教室に着く前に生徒達の魔法の力が尽きて大変な事になるか――。
拘束魔法はクラスでも今オブジェを必死で止めている8人しか使う事が出来ない。ミチカはマールがなおを一秒でも早く連れてきてくれる事を願うのだった。
この混乱の中で、冷静に状況を見定めていたクラスメイトがポツリとつぶやく。
「あれ?呼ぶなら先生の方が良かったんじゃ?」
「先生読んだら成績に響くかもでしょ」
「うっ……」
そう、ミチカが内々でこの問題を解決しようとしているのはクラスの不祥事を先生方に知らせないためでもあった。
確かに大人に報告すれば適切な処置をしてくれる事だろう。それと引き替えにこの状況を作り出した原因を徹底的に問い詰められるだろうし、それは成績にも大きく影響しかねない。出来ればそうなる事はどうにかして避けたいと彼女は考えていたんだ。
それにこの問題、上手く行けば秘密裏に処理する事も出来ると彼女は踏んでいた。その理由をミチカは自信たっぷりに口にする。
「なおちゃんは魔法検定Aなんだからきっと何とか出来るよ」
「ギオオオオオーッ!」
8人がかりで動きを封じられた魔導オブジェが苦しそうな雄叫びを上げる。拘束魔法をかけ続けている有志のみんなは、今すぐにでも暴れだそうとするこの暴走オブジェの勢いに苦心しながら救世主の登場を待っていた。
「少しでも早く呼んできて欲しい……」
教室でそんな攻防戦が繰り広げられてたその頃、マールはなおのいる美術室に到着する。扉を開けるとすぐに大声で叫んだ。
「なおちゃん、大変!」
「マールちゃん、今は……」
突然の呼び出しに、作業途中だったなおは困惑の表情を受かべる。美術室ではクラスの美術担当が色んな飾り付けやポスターなどの製作をしていた。
美術担当スタッフのリーダーはマールが必死そうな顔をしていたため、すぐに事情を察し、なおに声をかける。
「いいよ、行ってきて。緊急事態っぽいし」
「有難うございます!」
こうしてなおを連れ出す事に成功したマールは彼女を連れて教室に戻る。その道中でまだ状況を飲み込めていないなおが話しかけてきた。
「何があったんですか?」
「教室でゴーレムが暴れてる!一緒に止めて」
「分かりました!」
その一言で大体の事情を察した彼女は強い返事でその覚悟を示す。2人が自分のクラスに戻ると、そこでは拘束魔法を引きちぎらんとする暴走オブジェの姿があった。
オブジェの目は怪しく光り、拘束している光の網は見る見る内に一本、また一本と拘束する力を失い消滅していく。
「グギョガワアアー!」
「も、もう駄目……」
拘束魔法発動組はもう魔力の限界っぽい雰囲気だ。このままではこの魔法でオブジェを止めていられるのも後数分がいいところだろう。
そんなタイミングで、マールは強力な助っ人を連れて教室に戻ってきた。
「お待たせ!なおちゃん連れてきたよ!」
「マール!」
ずっと待っていたミチカが、戻ってきた彼女の名前を嬉しそうに叫ぶ。教室に入った途端に暴走オブジェを目にしたなおは、その異様な光景に言葉を失った。
「マールちゃん、これって……」
「これを止めて欲しいんだ」
マールは早速優等生に無茶振りを要求する。今すぐにでも拘束魔法が解けてしまいそうなこの緊急事態を前に、なおはゴクリとつばを飲み込んだ。
それからゆっくりとオブジェに近付く彼女を見て、制作担当のクラスメイトから更に無茶な注文が飛び込む。
「出来れば余り傷つけないで!」
「ぜ、善処します……」
プレッシャーが重くのしかかる中、手を伸ばせば届くところまでオブジェに近付いたなおは、この暴走の原因を感じてそれを確認した。
「魔導石が入ってるんですね」
「分かるの?」
「うん、それを動力にしてるんですよね?」
彼女に何度も確認されたので、製作班スタッフもここでこの暴走を止める手段に気付く。
「魔導石が外れれば止まる?」
「多分……ですけど」
確かに動力源が魔導石なので、それをなんとかすれば当然暴走も止まるだろう。ただ、一度埋め込まれた魔導石をこの暴走状態の中で取り出すのは難しい。
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