第116話 収穫祭 その3
「おま、部長とそんなに仲良くなってたのかよ!」
「あ、はい」
この突然の大声になおは素直に返事を返したものの、突然の状況の変化に戸惑ってオロオロとし始めた。これ以上何か彼女を攻撃するような物言いが続いたならしっかり援護しようとマールが身構えていると、先輩はハァとため息を吐き出して通常の表情に戻る。
「ま、検定Aだからなぁ……」
その吐き出した言葉にマールは敏感に反応する。
「ミーム先輩は検定の結果で態度変えるんですか?」
「うぐ……」
その指摘が図星だったのか、言葉に詰まった先輩を見た彼女は更に調子に乗って言葉を続けた。
「ま、先輩も検定上はなおちゃんより下だからしょーがないですよね!」
「うっさいよ!そこの検定E+!ああもう気分が悪い、帰る!」
さんざん図星を突かれて機嫌を悪くした先輩は感情を高ぶらせたままずんずんと足音を立てながら帰っていく。その後姿を見送りながら、マールは感情を逆なでするように労いの言葉を投げかけるのだった。
「おつかれっしたー」
「いいの?怒らせちゃったけど」
「先輩はああ見えて引きずらないんだよ」
すっかり先輩の気質を把握していたマールは、少し得意げになおの質問に答える。最初は心配していた彼女も、嬉しそうに話すその顔を見てほっと胸をなでおろすのだった。
「そうなんだ。ずいぶんと仲良くなれたんですね」
「毎日放課後に顔合わせてるんだもん。当然だよ」
ドヤ顔でそう話すマールは、もうさっきまでのモヤモヤを引きずっていないように見える。夕日で空が赤く染まる中、先輩も帰ってしまったと言う事で、なおは優しい顔を友達に向けた。
「じゃあ私達も帰りましょうか」
「うん、帰ろう」
魔法用具小屋の壁に立てかけていたカバンを手にとって寮まで帰る帰り道、マールは好奇心のおもむくままに話を始める。
「で、部長さんとどんな話してたの?」
「収穫祭に遊びに行っていい許可を貰いにです」
「ええっ?別に許可とかいらないでしょ」
「うん、部長もそう言ってました」
なおはそう言って笑う。マールが先輩と仲良くなったように、なおは部長と仲良くなっていたようだ。お互いに上級生と良好な関係が築けている。それがこの会話からうかがわれて、マールはとても嬉しい気分で満たされていった。
それから、せっかく収穫祭の話が出たと言う事で、彼女は目を輝かせながらその話を続ける。
「収穫祭、楽しもうね。あ、そうだ、留学組のみんなも誘おうっか」
「それ、いいですね!」
こうして2人の収穫祭同行メンバー募集計画が発動した。寮に帰った2人は部屋に誰もいなかったので早速留学生組メンバーを探す事に。寮の施設をぐるぐると回っていると、中庭でダンスの自主練習をしているゆんに遭遇する。
まずはひとり目とばかりにマールが彼女に声をかけると、すぐに話を始めた。
「ごめん、ライブの予定が入ってる」
折角話を進めたものの、どうやらその日は予定が入っていてって無理らしい。収穫祭当日の予定と聞いてすぐにピン来たマールは、すぐにその内容を思い浮かべ、それを確認する。
「もしかして収穫祭関係?」
「うん、そうなんだ。良かったら見に来てよ」
「うん、分かった。頑張ってね」
本人が収穫祭でイベントを行うなら誘う事は出来ないと、マール達は勧誘をあきらめた。それと同時にゆん達のアイドルのライブに興味を持つ。
と言う訳で、当日に予定が合うならそのライブを見に行こうとマールは決意した。
それから同行していたなおとゆんのライブについて色々と話しながら他のメンバーを探していると、寮の入口付近で部活帰りで帰って来たばかりのファルアとばったり遭遇する。
これはいいタイミングとマールはすぐに話しかけた。
「ごめん、部活のみんなと廻る予定入れちゃったんだ」
どうやら彼女もまた収穫祭に予定が入っているらしい。
けれど、その予定はマール達と同じ収穫祭を楽しむ側のようだ。それならばまだ妥協点はあるとマールは食い下がる。
「じゃあそのみんなと一緒に……」
「えっと、今回は部活のみんなとの交流を一番の目的にしてるから……」
ファルアもファルアで、マール達と一緒に行動出来ない理由があるようで、誘いに乗ってはくれなかった。確かに、部活の交流で集まるのに部外者がいてはその目的もうまくは果たされないだろう。
勧誘の言葉を却下された事で、マールは気を悪くする。
「ぶー、付き合い悪いなあ」
「マールちゃん……」
不機嫌になったマールの言葉に場の空気が悪くなる事を心配したなおが声をかけた。軽い冗談を真に受けられて焦った彼女は、すぐにすぐに苦笑いを浮かべながら弁解する。
「いや、冗談だよっ?」
マールと付き合いの長いファルアも当然その冗談には気付いていて、全く怒る気配もなく、逆に今回2人の誘いに乗れなかった事を謝った。
「ごめん。また今度誘ってよ」
「うん、収穫祭、部活のみんなと楽しんでね」
マールも彼女の気遣いに対してしっかり笑顔で返事を返す。こうしてファルアと別れた2人は最後の1人を探してまたウロウロと施設内を歩き始める。
しかし、くまなく歩き回ったものの、該当人物の姿を見つける事はついに叶わなかった。
「しずるーっ」
「いませんね……」
「一体どこに行ったんだろう……」
地元の島では隠密行動を得意としていた彼女。もしかしたらこの島でも何か秘密の任務についているのかも知れない。夕食時にも入浴時にも姿を見つる事が出来なくて結局しずるを誘う事は出来なかった。
もし誘えたとしても、応じてくれた可能性は低いけど。
そんな彼女、流石に夜は部屋に戻って寝ていたっぽいんだけど、マールが朝に起きた時にはもういない――。しずるがいつからそう言う行動していたのか、周りの誰にも記憶にないらしかった。
こうして留学生組の誰も誘う事が出来ずに日々は過ぎていき、やがて収穫祭当日の朝がやってくる。マール達は外出用にそれなりのおしゃれをして朝食後にミチカ達との待ち合わせ場所、学校の校門前で待っていた。
寮が学校から徒歩5分と言う好立地な事もあって、必然的に留学生組の方が待つかたちとなる。
「ちょっと早かったかなぁ」
「かも知れませんね」
「待ち合わせ、校門でいいんだよね?」
「まだ15分前ですし、きっとその内来ますよ」
ミチカ達と合流するまでの間、マール達はそれぞれの方法で暇を潰す。なおは入念にストレッチをして体をほぐしているし、マールはスマホ画面を凝視していた。
そうして待ち合わせ時間約5分前になった頃、視界の向こう側から近付いてくる待ち合わせ相手の姿が見えてくる。
「おーい!」
「あ、来た!」
マール達の前に姿を表したのはミチカと彼女の友達の委員長キャラ、エーラだった。マール達に話を持ちかけた後にクラスメイト全員に話しかけていたみたいだけど、結局元々の親友以外は都合がつかなかったようだ。
あんまり大人数になったらちょっと困るなと思っていたマールは、総勢4人と言うそのちょうど良さにほっと胸をなでおろしていた。
校門に辿り着いたミチカは改めて2人に向かって話しかける。
「ごめんごめん、待たせちゃった?」
「今待ち合わせ時間だから問題ないですよ」
「だよね」
なおの言葉にミチカはニッコリと笑う。その横でエーラがジト目で今朝の友達の事情をばらした。
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