第93話 新しい生活 その4

「生徒が自主的に部活として運営してる植物園に水族館、そうそう、魔法生物も飼ってるよ。名目は生体の研究だけどね」


 ミチカの口から語られた育成系の部活の話にマールは目を輝かせた。彼女曰く、そのそれぞれの施設は生徒達が自由に鑑賞していいものらしい。この話を聞いたマールはただただこの学校のスケールに圧倒されるばかりだった。


「みんな活発に活動してるんだねぇ」


「マンモス校だからね。生徒の要望に合わせて色々してくれるんだ。それが学校の方針だから」


「何でも出来そうだ!」


「何でもは言い過ぎだけど……結構色んな事やってる人は多いよ。新しい部活も簡単に認められるしね」


 この色んな事という言葉にマールは好奇心を疼かせる。そこでこれはないだろって部活を敢えて口にした。


「じゃあさ、ゲーム研究会とか?」


「ガチめのなら……」


 ミチカはこの質問にもあっさりと答える。まさかゲーム部まであるとは思わなかったマールは当然のように目を丸くした。


「あるんだ!」


「言っとくけど体育会系だよ?全国大会で優勝を目指しちゃったりしてるし。しかもレベル高いんだうちの学校」


 ゲーム部自体はあったものの、想像していたものとは違う事がここで発覚する。マールはゲームエンジョイ派でその実力はお世辞にも上手な方ではない。

 そう言うタイプだから本気で上を目指すプレイをする人とはきっと話すら合わないだろう。なので彼女はがっくりと肩を落としてしまった。


「あー、それはちょっと……」


「また後で検討しなくちゃですね」


 なおはマールをフォローするように話を合わせた。どうにも部活選びが難航しそうな雰囲気を感じ取ったミチカはニコッと笑うと、2人に顔を近付ける。


「どこにも選べそうになかったら水泳部でよろしく!優しく教えてあげるから~」


「か、考えとくよ……」


 その無言のプレッシャーにマールはたじろぐばかりだった。自主的な学校案内は大体これで終わったと言う事で、彼女は後ろ手に組んでちょっとわざとらしく首を傾げる。


「さて、こんなものかな?後は何か質問とかある?」


 この質問にマールはまだ行った事のない場所がないか真剣に悩み始める。学校は広くて教室の数だけでもべらぼうにあって、生徒数が多いからその分、各種施設も多くて、ついでに部活動も多くて――。腕組みをしたマールはそこでピンと何かを閃いた。まだ行っていない場所を思いついたようだ。

 そうして回答待ちの彼女にドヤ顔で答える。


「保健室は?」


「保健室は一階だね。行っとく?」


「勿論!」


 そう、学校になくてはならない施設、それが保健室。生徒が急に体調を崩したり、定業や部活で怪我をしたら必ずお世話になる場所。マール達はまだちゃんと保健室に案内はされていなかったんだ。勿論保健室なんて重要な場所は調べればすぐに分かるだろう。

 けれど折角在校生が案内をしてくれるって言うんだから、これに乗っかった方が楽と言うものだよね。何より迷わずに済むし。


 校舎自体が大きいので保健室はかなり遠い場所になるようで、長い廊下を歩きながらマールは間を持たすために何となくミチカに話しかける。


「それとさあ、この学校って屋上はどうなのかな?」


「屋上は鍵がかかってるねー。昔は行けたらしいけど」


「そっか、残念」


 学園モノのお約束と言えば屋上だけど、ミチカにすぐに現実を知らされたマールはがっくりと肩を落とす。この質問に逆に興味を持たれ、今度は彼女の方からマールに質問が飛んだ。


「島の学校では屋上行けたの?」


「いや、同じ。ここはみんな生き生きとしていたし方針も違うのかなーって思って」


「あてが外れてご愁傷様」


「ま、別にいいんだけどね」


 屋上に簡単に入れないのはどの学校も似たようなものらしい。ここで共通点が見つかったと2人はまた意気投合する。その後は他愛のない雑談で小さく盛り上がったりして、保健室までの道のりも退屈せずに済んでいた。目的の場所は校舎一階の突き当り。着いた途端、ミチカはまた自慢げに紹介する。


「ほら、ここだよ保健室」


「おお、やっぱり大きい」


「生徒が多いと怪我する数も多くなるからねえ」


 保健室は外観だけでもその中の大きさが分かるくらいの規模を誇っていた。外から見ただけで感心する2人を前に彼女はドアに手をかけて一応の確認を取る。


「どうする?中に入る?」


「いや、怪我もしてないのに入るのはちょっとね。部屋の場所が分かればそれで」


 マールは用事もないのに保健室に入るのを嫌がった。それもあってミチカもドアから手を離してこれで案内を終了する。


「んじゃ、教室に戻るか」


 保健室への案内が終わってもう追加のリクエストがなかったので、3人は自分達の教室に戻る事にした。帰りの道中でまた雑談しながら歩いていると、そこで何かに気付いたのかいきなりミチカは声を上げる。


「あ、ひとつ案内し忘れてた!」


「えっ?」


「食堂だよ!」


 その食堂と言う言葉にマールは心を踊らせる。


「おおっ!」


「この学校では食堂でごはんを食べるんですね」


 彼女に続いてなおもミチカの言葉に興奮していた。この反応にミチカはこの学校の昼食事情を説明する。


「弁当が良ければ弁当でもいいんだけどね、パンとかの人もいるし。ただ食堂で食べる人が一番多いかな」


「島じゃ給食だったよー」


 彼女の言葉に対してマールはお返しとばかりに島の学校の昼食について嘆くように口にする。給食が嫌な訳ではなかったものの、教室で配膳されたものを食べるのと、食堂に集まってそこで好きにメニューを注文したりして食べるのとでは雰囲気が違う。それをマールは羨ましがっていた。

 一体この学校の食堂での食事風景とはどんなものなのか、興味津々の2人にミチカはまず、この辺りの学校の事情を口にする。


「こっちでも給食の学校が多いよ。ウチみたいなのは数校かな」


「美味しい?」


 食堂と言うとその出される料理の味も気になるのは当然な訳で……。マールは溢れ出るよだれを拭きながら質問を飛ばす。するとミチカはニンマリと笑うと腰に両手を当ててふんぞり返った。


「当然じゃん!毎日食堂の人が美味しい食事を作ってくれるよ」


「お昼が楽しみになってきた!」


「ふふふん、期待していいよ」


 こうして食堂未体験の2人に最大限の期待をもたせつつ、3人は食堂を目指して歩いていく。

 食堂は校舎内ではなく別館に建てられていて、やはりかなり大きな建物だった。建物自体のデザインは図書室と違ってかなりシンプルだったものの、それがまた質実剛健と言う雰囲気を醸し出している。


「ほら、あそこだよ」


 食堂がそれだとはっきり分かるところまで近付いたところでミチカが指を指した。マールは初めて見るこの建物の感想を口にする。


「さっきの図書室より広いね」


「ま、全生徒が入っても大丈夫な広さがあるからね」


 彼女は食堂の大きい理由をそう説明する。確かこの学校、全校生徒が2000人近くいるって話だったから、その広さにも納得だ。

 2人が感心していると、食堂から3人が立っている場所まで料理を仕込んでいる気配が伝わってきた。


「うわ~もういい匂いがしてきた~」


「もうちょっとの我慢だよ」


 今は3時間目の休み時間、後授業を一回受ければお楽しみの昼食の時間になる。

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