新しい生活

第90話 新しい生活 その1

 留学先の学校、レビド中央魔法学校の講堂で全校生徒2000人弱に見守られる中、マール達は先生によって紹介された。それぞれが緊張の中でぎこちなく自己紹介をして、割れんばかりの拍手で迎えられる。


「と、言う訳でクリング島からの留学生の皆さんでした。これから一年間、仲良くしてあげてね」


 留学生10人の紹介も終わり、マール達は舞台袖に消えていく。今日一番の出番が終わったと言う事で5人はそれぞれ壇上に立った時の感想を語り合っていた。


「挨拶終わったねー」

「緊張したー」

「みんなキラキラ輝いて見えるよ」

「早く馴染まないとね」

「私達、上手くやっていけるでしょうか?」


 この前日に本島に着いた5人は学校の寮へと案内されていた。留学生は全員寮で生活するのが習わしらしい。マール達はこの島に何のあてもないからちょうどいいよね。

 船を降りてすぐに案内の先生がついてくれたので、何ひとつ迷う事なく作業はスムーズに進んでいた。


「じゃ、各自の荷物は寮に運んでね」


 その寮はとても伝統を感じさせる素晴らしい建築様式で、まるで自分達が貴族になったかのような錯覚を覚えるほどだった。パッと見ここも校舎なんじゃないの?と思わせるほどに立派で、何も知らなかったら勘違いするような気がする。話によると、この寮には約800人の生徒が暮らしているらしい。

 マール達の元々の学校の全校生徒がそのくらいだから、それを考えただけでも規模の違いが浮き彫りになる。やっぱり本島はスケールが違うね。


 寮から学校までは徒歩約3分と、立地的にもとても都合がいい。これなら寝坊気味のマールもよっぽどでもない限り遅刻はしないよね。しないで欲しいぞ。


 初めて見る立派すぎるほどの寮を見上げたマールは思わずポツリとつぶやいた。


「ここか……すごいね、みんなと一緒に住む日が来るなんて」


「私達が同じ部屋だなんてね」


 この言葉にファルアが返事を返す。大きな寮と言っても、そこは一般的な寮と同じく一部屋に複数の生徒が生活する相部屋になっている。留学生はひと組みんなまとめて同じ部屋と言う事で、マール達は全員が同じ部屋。みんな仲がいいからきっと楽しく過ごせるだろうね。勿論使い魔たちも一緒の部屋だよ、当然。これからは僕ら使い魔同士も仲良くしなきゃだなあ。


 寮の廊下を歩きながら、興奮したゆんが話しかける。


「うふふ、毎日がお泊り会みたい」


「あの、えぇと、よろしくお願いします」


 マール達が興奮する中、緊張でカチコチになっていたなおはみんなに向かって堅苦しい挨拶をする。その雰囲気を察したマールは彼女の緊張を解こうと明るく声をかけた。


「まぁまぁ、緊張しないで……」


「そうだよ、今日からしずるもずっと一緒だけど、普段はとっつきやすいいい感じの子なんだから」


「本島にいる間は警備の任務から離れるんだし、きっと羽を伸ばして本音で語り合えるから」


 ファルアとゆんが彼女の緊張の理由を察して言葉を続ける。自分がとっつきにくい人扱いされていると感じたしずるは色んな意味を含んでいそうな笑みを浮かべながらすぐに反論した。


「私、普段そんなに近寄り難い?」


「や、そう言う訳じゃないけど……」


 きつい視線を感じたファルアは思わず口ごもってしまう。グループ内の雰囲気が微妙になりつつあった中で、マールは誰も刺激させないようにと、苦笑いを浮かべながら簡単なアドバイスをした。


「そうは言っても、いきなりフレンドリーにってのは無理かもね。いつも一緒なんだし、徐々に仲良くなればいいよ」


「は、はい」


 こうして何とか場が上手く収まったところでマール達の部屋、105号室に辿り着く。預かった鍵で部屋を開け、みんなはその部屋に荷物を下ろした。


 それからじゃんけんをして自分達の場所を決めると、それぞれが思い思いに過ごし始める。すぐに雑誌を読み始めたゆんやストレッチを始めるファルア。しずるは何か書きものを始めるし、なおはこれから通う学校についての資料を読み直している。


 で、僕の主のマールはと言うと……じゃんけんで勝ち取った自分のベッドに横になった数秒後にはもう速攻で寝てしまった。やれやれ……先が思いやられるなぁ。



 こうして次の日、早速学校に行った5人はもうひとつのグループと一緒に全校生徒の前で自己紹介をさせられたって言う訳。


 留学生達はその後、編入するクラスに別れていった。ファルアとゆんが7組で、しずるが1組、マールはなおと一緒に3組とそれぞれに割り当てられたクラスに入っていく。

 3組の教室に入った2人は教室に入ってまた改めて自己紹介をして、クラスメイトに暖かく迎え入れられた。


 ホームルームも終わり休み時間になって、早速留学生のマール達の周りに人だかりが出来る。その中でも一番活発な生徒が2人に質問を飛ばしてきた。


「ねぇねぇ、クリング島ってどんなところ?」


「え、えぇと……いいところだよ、自然も豊かだし……」


「みんないい人達ばかりですよ」


 改めて地元のいいところを聞かれてもすぐにはピンとこなかった2人は当たり障りのない答えを返すので精一杯。こう言う展開になるのは予想出来ていたのだから、マールも何か考えておけば良かったんだよ。僕もフォローすれば良かったかな。

 それで、そんな無難な返事に好奇心が満たされる訳もなく、クラスメイト達の質問は続いていく。


「名産品は?魔導の塔とかある?」


「えぇと……と、塔はないかな」


「名産品で言うと……ご飯は美味しいですね。特にパン!あ、でも本島の方がすごそうです……」


 相変わらず2人はこの質問者の勢いに圧倒されっぱなしになっていた。彼女の言葉に魔導の塔と言うのが出てきたけれど、きっと本島にはそう言う場所があるんだろう。どう言うものなのかな、あとで本島の使い魔ネットで調べてみようっと。

 この子の熱意が強過ぎてマール達が戸惑っていると、助け舟を出すように別の委員長的な雰囲気の女子が現れて彼女を叱ってくれた。


「ミチカ!あんまり留学生を困らせちゃ駄目よ!それに島の情報はネットでも分かるでしょ」


「何よー!生の声が聞きたいじゃん」


 このやり取りから、元気いっぱいに質問をしてきた女生徒の名前はミチカと言う生徒だと言う事が伺われた。委員長キャラの子はすぐにマール達にペコリと頭を下げた。


「ごめんね、この子知りたがりだから」


「あ、いえ……」


「明るくていいと思います」


 2人が彼女にぎこちなく対応していると、ミチカが突然声を上げる。


「あ、自己紹介まだだった!私ミチカ!よろしくね!」


「あ、私はマール。よろしく……」


「わ、私はなおです。よろしくお願いします」


 ミチカと名乗るこの少女は身長は150cmくらいの元気な女の子。オレンジ色の髪の天然パーマでショートカットがよく似合っている。ニコッと笑うと出来るエクボがチャームポイントだろうか。体型はごくごく普通で太ってもいないし痩せてもいない。胸は少し控えめかな。適当に着崩した制服が見事に似合っている。如何にも都会っ子って感じだね。


 マール達はさっきしっかり自己紹介をしたばかりなのに、改めて自己紹介をされたので律儀にもう一度返していた。この真面目さに感心した彼女はずいっとその身を乗り出して、2人にフレンドリーに話しかける。

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