美味しい料理
第79話 美味しい料理 その1
テーマが決まったグループ研究について、早速話し合いが行われる。最初に決めなければならないのはこの研究の方向性だろう。ここがまずしっかりしないと研究の出来もまともなものに仕上がらない。
取り敢えずマールのグループは彼女がリーダーっぽい感じになっているので、みんなを前にリーダーっぽく声をかける。
「まずはさあ、自分達で色々考えてみようか」
いきなりそう言われてもすぐにいいアイディアが出ると言うものでもなく、話し合いはいきなり高い壁にぶつかってしまう。みんながうんうんと唸る中で、マールはちょっと演技かかった感じで訴えた。
「ただの料理には興味ありません。魔法を使った具体的な面白い料理の話があったら是非教えてください」
「って、言われてもねぇ……」
その謎の演説にファルアが呆れて返事を返す。そもそも魔法料理と言っても、マール達にはあまり縁のない話題だからすぐにアイディアが出ないのも仕方がない。魔法が普通のマール達の世界においても、魔法料理は今のところあんまりメジャーな存在じゃないんだ。
人々は普通の方法で調理する事が殆どで、今のところ、そこに魔法を使うと言うのはそうしたい人達だけのものでしかないんだよね。
勿論魔法料理のプロは存在するし、有名店は賑わっているものの、その味を家庭で再現しようと考える人はそんなに多くはない。魔法料理はプロの味を楽しむものという認識が一般的なんだ。
話が煮詰まったところで、その現状を打破するにはやはり関係者に矛先が向けられるのは当然の話で、その流れでファルアがゆんに話を振る。
「ねぇ、ゆんはあの先生に教えてもらってるんでしょ?」
「ま、まぁね」
「じゃあまずゆんがお手本見せてよ」
「え、えぇ~」
突然のこの無茶振りに彼女は絶句する。その態度を見たファルアは何かを察してにやりと笑った。
「あ、料理苦手なんだ?」
「に、苦手とかそう言うんじゃないよ?ちょっと魔法の相性がね?」
彼女のツッコミが図星だったのか、ゆんは焦ってその言葉をすぐに否定する。この時のゆんの言葉に疑問を抱いたマールが、キョトンとした顔で質問を飛ばした。
「料理魔法に相性なんてあんの?」
「と、当然じゃない!何にだって相性ってるあるんだからっ!私の得意なのは歌唱魔法とダンス魔法!レッスンしてるからね!」
「あれ?料理魔法もレッスンしてるんじゃ……?」
ここで彼女の言い訳の揚げ足を取るようにファルアがツッコミを入れる。それを聞いたゆんは顔を真赤に染めた。
「し、してるよ、何言ってんの?当然じゃない!」
「じゃあ作ってみせてよ。少なくとも私達よりは上手でしょ?」
「わ、分かったよ、作るよ!」
こうして売り言葉に買い言葉の流れになって、ゆんは魔法料理をみんなに披露する事になった。黙って経緯を見守っていたなおは、本意ではない流れになって困惑気味の彼女の顔を見て不安を感じていた。
「あの……大丈夫でしょうか?」
「取り敢えずはお手並み拝見かな」
対して同じように見守っていたしずるはと言うと、落ち着いた様子でどこかこの状況を楽しんでいるようだった。
放課後、料理の実践と言う事でマール達は許可を取って学校の調理実習室にやってきていた。みんなが見守る中で早速ゆんの魔法料理の実演が始まる。
「えぇーっと、まずは食材を用意します」
今回彼女が作るのは魔法料理のスープ。まずは料理に必要な食材を並べ、それぞれの下準備を済ませていく。適当な大きさに切りそろえたり、料理の順番に合わせて食材を並べていったり……。
この作業、中々に手際が良くてマールは感心しながらゆんの作業を観察する。
「ここまでは普通だよね」
「では、下ごしらえした食材に味を強調するように熟成魔法を降りかけます」
魔法料理だけにここで早速魔法が使われた。彼女の使うその熟成魔法は見た目には地味だったものの、魔法を振りかけられた食材は何となく美味しそうな感じに変化していく。
「ほお~」
「いい感じじゃない?」
この早速の魔法料理っぽさにマールとファルアが感嘆の声を上げた。
こうして食材の下ごしらえが終わると、早速本格的な料理へと取り掛かる事となる。実際、ここからの作業は普通の調理の作業と何も変わらなかった。
「次に、ええ~と……お鍋に下ごしらえした食材をぶち込んで水を入れます」
みんなに見られながら作業をするゆんは、緊張しながら淡々と作業を進めていく。下ごしらえが丁寧だった事もあって、その後の作業の大雑把っぽさをみたマールはついツッコミを入れてしまう。
「何か雑になってきた?」
「まぁ、いいんじゃない?」
そんな彼女をファルアがなだめていると、料理は次の段階に入っていった。スープを作っているので、鍋に水を入れたら次は加熱。コンロに火をつけて鍋は熱せられていく。この加熱の際にも早速調理魔法が活躍する。
「蓋をしたらここから鍋に向かって全体的に遠赤外線加熱魔法を照射します。重要なのは安定して力を出す事です」
ゆんはそう言いながら鍋を包むように手をかざして言葉通り加熱魔法を照射する。力の調整が難しいのか、険しい表情になりながら懸命に魔法を使う彼女を見て、マールはまたしても感心していた。
「おお、それっぽい」
「ちゃんと勉強してるじゃない」
奮戦する彼女を見たファルアも同じように感心する。そうして十分に加熱が行われ、スープは旨味を増しながら煮立ち始めた。
「煮立ってきたらアク取りですが、ここでも魔法で不純物を抽出します……これ、結構繊細なコントロールが必要なんだよね」
どうやらスープのアク取りも魔法で行うらしい。ゆんは鍋の蓋を取り払うと、早速スープの直上に手をかざしてアクを吸い取るように魔法を使う。
浮かび上がったアクをアク取り用の小鉢に移す作業をしていると、そこである疑問にぶつかったマールが手を上げて質問する。
「先生!アク取りは普通にお玉とかでしちゃダメですか?」
「どっちでもいいよ。慣れた方法で取れればどっちでも。ただ、慣れたら魔法の方が無駄なく取れるって言うだけ」
「では、先生は慣れてますか?」
「うーん、あんまり……」
マールの追求にゆんは困り顔になる。どうやら彼女、この作業はあまり得意ではないらしい。もう聞きたい事もなくなったと言う事でマールの質問はここで終わる。
「分かりました!続けてください!」
「え、えーと。後は食材がいい感じに柔らかくなったら、ここでもう一度美味しくなるよう旨味成分を濃くする魔法を加えて……10分位馴染ませたら完成です……多分」
ところどころ不安げな言葉が飛び出すものの、それっぽい感じで調理は続き、料理は完成に近付いていく。一連の作業をずっと眺めていたマールは全体的な感想として、自分では料理とかさっぱり出来ない癖にそれっぽく上から目線でつぶやいた。
「結構いい感じじゃない?」
「ゆんちゃんの料理、私、楽しみです」
「あ、あんまり期待しないでよね?」
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