第75話 いたずら妖精 その8

「何処かで聞いた事ある名前だと思ったらやっぱりオマエかァ!」


 顔を見合わせたルルンとパルはお互いに怒号を張り上げている。この突然の理解の追いつかない状況にマール達は混乱する。


「え?何?ルルンさんとパルは知り合いだったの?」


「アイツがハンターだよ!この妖精石を本島の妖精の祠から奪ったのもアイツだ!」


 パルは目の前の妖精研究家の正体を暴露する。その言葉に驚かないメンバーはひとりとしていなかった。


「えええええ!」

「う、嘘でしょ?」

「ルルンさんが……?」

「信じられません……」


 4人のそれぞれの反応を前にもう隠し通せないと悟った彼女は、目を閉じて軽く息を吐き出し、そうしてにやりと邪悪な笑みを浮かべる。


「パルの話は本当だよ。僕はね、この島で妖精が出たと知って、こっちでも仕事をしようと戻ってきたのさ!」


 容易に入れないはずのこの異世界に単独で入り込んできたルルンを見て、マールははっと何かに気付く。


「ルルンさんも……もしかして契約者?」


「残念ながら僕はそうじゃない。この契約者と同じ効果が得られる装置のお陰さ。妖精ハンターはみんなこれを持っているんだ」


 ルルンがこれ見よがしに装置を見せる。パルが言っていたハンターバスターが反応する装置と言うのがあれなのだろう。これでルルンが妖精ハンターだと言う事は決定的な事実となった。


 じゃあ気前よく妖精石を渡してくれた時のあの言葉は何だったのか。マールの頭の中で納得出来ない思いがぐるぐると渦巻いていく。


「何で妖精を狩るんですか!さっきは妖精を守りたいとか正反対な事を言ってたのに!」


「何故だって?高く売れるからだよ!それ以外に何もないさ!」


 ルルンは自分の行動原理を口にしながら、パルに向かって持参してきたらしい銃の銃口を向けた。この突然の行動にマールは困惑する。


「そ、それは?」


「妖精にだけ効果を発揮する銃だ。大丈夫、マール君達に危害は加えないよ」


 どうやらその銃はハンターの通常装備のようだ。まるで冷蔵庫からお気に入りのジュースを取り出すような気軽さで彼女は目の前の妖精に向けて狙いを定める。

 マール達は彼女を止めようと思うものの、その体から発生するプロのオーラを前に誰ひとり体を動かす事が出来なかった。


「ちょうどいい。ハンターバスターの試し撃ちをしたかったんだ」


「待って、どうにか話し合いで……」


 一触即発の雰囲気に満たされた工房でどうにかこの争いを止めようとマールは何とか言葉を絞り出す。

 しかし、体を動かす事が出来ないギャラリーにその戦いを止める事なんて出来るはずもなかった。


「そんなハリボテが当たるかよ!」


「それはどうかなッ!」


 お互いの殺意が交差する。マール達はこの残酷な対決に目を塞いだ。関係者しかいないこの空間に乾いた音が2つほぼ同時に響く。


 勝負は一瞬の内に終わった。ルルンの銃とパルのハンターバスター、お互いの引き金を引く速さはほぼ同時だったものの、威力は全くそうではなく、ハンターバスターの重エネルギー波が銃の弾丸のエネルギーを取り込み、無力化し、そのままルルンの体を包み込んだのだ。


 こうして勝負はパルの勝利となり、妖精ハンターはその場にバタリと倒れ込む。このあっけない幕引きに、傍観していた4人は呆然と立ち尽くしていた。


「マール!」


 名前を呼ばれて振り向くと、そこにいたのはこの島の警備部最年少メンバーだった。彼女の登場にマールは目を丸くする。


「え?しずる?あなたも契約者だったの?」


「私は違う。協力者を呼んでたの」


 しずるはそう言うと奥に隠れていた協力者を紹介する。それはマールのよく知る人物だった。


「お、お父さん?」


「マール、駄目じゃないか、危ない事をしちゃあ」


「わ、私は別に……」


 突然の身内の登場に焦った彼女は上手く喋れなくなってしまう。中々上手く意思疎通の出来ない中、早く話を進めようとファルアが代わりにこの状況の説明をする。


「マールのお父さん、私達今回は主役じゃないんです。今回のゴタゴタの主役はあそこの2人です」


 彼女が指し示したのは倒れた妖精ハンターと成果を確かめるように彼女を見下ろす妖精の姿。しずるは何も恐れずにずんずんとパルの前まで行くと交通違反の車に交通切符を切るような、生活指導の先生が違反者に事情を聞くような、そんな当然のような態度で尋問を始める。


「まさか、死んでないでしょうね?」


「殺す訳ないだろ。ま、半日は起きないだろうけど」


「詳しく話を聞かせて貰えるかしら?」


 その真面目で芯の通った瞳を見たパルは、彼女を信用出来ると踏んだのだろう。手に持っていたハンターバスターを下ろすと、改めてしずると向き合った。


「ま、いいか。オマエは話の分かる人間のようだ」


「ご協力、感謝します」


 そうしてルルンは確保され、パルも詳しく事情を説明する為にしずるの先導のもと、警備部本部に任意同行する。マール達も流石にそこまでついていく事は出来ず、現実世界に戻ったところで解散となった。


 マールはパルが街を騒がせたと言う事で、どうか酷い目に遭いませんようにと願いながら空を見上げていた。

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