グループ研究

第76話 グループ研究 前編

 その日の授業のテーマはグループ研究だった。グループ研究とは気の合う友達同士で集まってひとつのテーマについて調べ、その成果を発表すると言うもの。先生がそれを発表した途端、クラスの仲良し同士がそれぞれ思い思いにグループを作っていく。マールもまたこの動きに同調し、まずはグループを作る為に動き出した。


「ね~、みんなでやらない?」


 声をかけたのはファルアにゆんになお、と言ういつものメンバー。この中ですぐに返事を返したのはなおだった。


「私はいいですけど……」


「って言うか好きな人で集まるんだし、他の人達とは考えられないでしょ」


 次に動いたのがファルア。そうしてゆんも当然のようにマールの前に集まった。


「そうそう、わざわざ聞くまでもないって言うか」


「じゃあ、私も仲間に入れてくれる?」


 4人が集まってにこやかに話をしていると、そこにしずるがやってくる。マールはこの突然のお誘いに目を丸くした。何故なら彼女はクラスでも一番の優等生。みんなから引く手あまたの存在であり、マールは彼女が自分のグループよりもっと優秀なグループに入るんじゃないかと思っていたからだ。


「えっ?いいの?」


「あら?私もマールの友達だと思っていたんだけど」


「と、友達だよ!よろしく、しずる」


 優秀なしずるがグループに入ったらもうその研究は成功したも同然と、マールの中で打算的な考えが働き、彼女を逃すまいとすぐに懐柔作戦を始まる。ニコニコと笑顔を見せながらハグをしてマールはしずるを歓迎した。

 こうしてグループメンバーが確定したところで話は次の段階へと進む。そう、一番重要な研究のテーマ決めだ。


「とは言え、テーマも自由だからね、私達は何を研究しようっかぁ」


 このマールの問いかけにメンバーは全員が腕を組んで頭を捻る。グループ研究の授業が始まる事は事前に知らされていたものの、始まる前にこう言う研究をしようと意気込んでいたメンバーはマールのグループの中には誰ひとりとしていなかった。


「うーん」

「うーん」

「うーん」


 メンバー全員が悩み始め、この問題が座礁の乗り上げたのを目の当たりにしたマールは仕方がないと困り顔になって大きなため息を吐き出した。


「そんな簡単には思いつかないよね、やっぱ……」


「無難なので言えばこの島の歴史の研究だけど……」


 一向に研究のテーマが出てこない中、ゆんが定番のテーマを口にする。彼女の提案を聞いたマールは速攻で異を唱えた。


「でもそれって文化祭での出し物で喫茶店をやろうって言うくらいのド定番じゃん。絶対どこかと被るって」


「被るのは嫌?」


「やるなら私達らしいのががいいよねやっぱ。パクリだと思われたくないし」


 マールの言い分も最もだと、ゆん以外のメンバーはうんうんとうなずいた。孤立無援になってしまった彼女は一計を案じ、妥協案を口にする。


「島の歴史も研究次第じゃオリジナルになるとは思うけど……。ま、これはどうしてもやる事が見つからなかった場合の保険だね」


 もし有効なテーマが見つからなかった時はこのテーマで。と、言う事でこの案は保留となった。滑り止めが出来たと言う事で少し心の余裕が出来たマールは敵情視察と言う事で教室内の他のグループを軽く見回した。


「みんなはどんなのやるんだろ?」


「今はまだグループが出来たばっかりだし、みんな状況は同じなんじゃない?」


 キョロキョロと首を回すマールにファルアがツッコミを入れる。確かに他のグループもワイワイガヤガヤとテーマについて話し合っているみたいだった。

 この時点ですぐに研究に動いているグループはどうやら彼女達が見る限り、1グループもいなさそうな雰囲気だ。


 そんな活発な議論をしている雰囲気に触発されて、なおが研究のアイディアをひとつ披露する。


「研究と言うと魔法発生の原理についてとか……」


「あんまり本格的なのは頭が痛くなるから出来れば勘弁して……」


 彼女の出した頭の痛くなりそうなテーマに対し、マールは思わず注文をつけてしまう。彼女は自分の許容範囲を超える高度なテーマはついていけないと判断したようだ。

 頭を抱えるマールを見たファルアは状況を察し、ニヤリと笑うと軽口を叩いた。


「そうだよ、魔法検定Eに合わせないと」


「あー、その言い方悪意を感じるんですけど!」


「いやいや、ただの事実を言っただけだって」


 マールにすぐに発言の意図を見抜かれ、ファルアはすぐに誤魔化した。そんなミニコントをする隣でまたしてもなおがテーマについての提案をする。


「では妖精についてではどうでしょう!最近も会いましたし」


「あ、妖精、いいねー」


 この彼女のアイディアにゆんも賛同する。妖精についての研究ならクラス内で実際に妖精に会ったマール達の右に出るものはいないだろう。これは良いテーマになるとファルアもその話に乗り気になった。


「じゃあ妖精ハンターの事についても書いちゃおうか」


「いいねいいね、最近会ったばかりだし記憶に新しいし」


 マールも全体的に賛成して研究テーマが妖精についてで固まりかけたその時、黙って事の成り行きを見守っていたしずるがここで静かに口を開く。


「機密保持上の問題もあるし、あんまり詳しくは書かないでね」


「う、そう言うのもあるのかあ……」


 警備上の問題と言われたらみんな黙るしかない。妖精のついての研究もまたここで保留のひとつとなった。自由に記事が書けないなら他の研究テーマの方が気楽に書けて楽しいかも知れないからだ。

 出すアイディアがことごとくうまく進まない中、マールはみんなに向かって両手を広げて話しかける。


「これって別に今すぐに決めなくてもいいものだし、まずは色々アイディアを出し合おうよ」


 彼女は活発な議論を望んだものの、そう簡単にいいアイディアが思い浮かぶものでもなく、グループ内は沈黙に包まれる。静かにしているとクラスの他のグループの会話が耳に入ってきて、置いていかれると焦ったマールはここで新しい作戦に打って出た。


「じゃあ今ネタのある人ー!」


 そう、マールはアイディアのある人に挙手を求めたのだ。雰囲気を変えれば何かが変わるかもと言う目論見がそこにあったんだけど、結果は特に変わらなかった。


「……」

「……」

「……」


 こうして誰からも良い提案が出されない中、痺れを切らしたゆんが今まで出た話の中から一番有効そうなものを口にする。


「じゃあやっぱりここは妖精の研究で」


「だから早いって!」


 マールはもっとたくさんの話が出た中からいいものを選びたかったので、ゆんの意見を却下する。正直に言えば、もっと楽で効果のある話が出ないかと期待していたのだ。この話の流れの中で、またしても何かを思いついたなおがポンと手を叩いて新しい研究テーマを口にする。


「あ、それじゃ魔法現象の研究とか!」


「魔法現象かぁ……」


 さっきまでは彼女の出すアイディアにいいリアクションを返していたマールは、この魔法現象の研究と言うテーマには微妙な表情を見せる。この反応を目にしたなおは雰囲気を察して肩を落とし、淋しげな顔になる。

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