第55話 謎の魔法陣 後編
マールとゆんがそう声を上げながら出口の光に包まれていく。長時間洞窟にいた為に外の光は眩し過ぎる程強烈で、みんな外に出た瞬間に思わずまぶたを閉じていた。
そうしてみんなが閉じたまぶたを再び上げた時、その目の前に広がっていたのは夢の中の景色ではなく、マールの部屋だった。洞窟の外が現実の世界に通じていたような錯覚に襲われて、夢に侵入していた3人は狐につままれたような感覚に襲われる。
「あれ?」
「どうして?」
「戻っちゃい……ましたね」
3人がそれぞれ困惑している中、その様子を興味深そうに見ていた僕とファルアの目が合った。
「とんちゃん、マールは?」
この時、彼女達が倒れてから5分程の時間しか流れていない。なので僕は突然倒れた彼女達に気を取られていてマールの方の確認はしていなかった。
それですぐに言葉を出せないでいると、この僕の態度を早とちりしたゆんが不安そうに言葉をこぼす。
「まさか、失敗?」
この言葉に不安を感じたファルアはガバッと起き上がり、寝ていたマールを確認する。そうして彼女の肩を力強く掴んで大きな声を上げた。
「マール!」
「ムニャ……やあみんな、おはやう……」
「起きたああ!」
そう、夢の中の冒険を友人達と共に終えて、マールも無事に夢から帰還したんだ。ファルアの叫び声に対して、寝起きでまだ意識のおぼつかない彼女はまぶたをこすってあくびをしながら返事を返した。
「大げさだよお……」
「すぐにお母さんにも知らせなきゃだ!」
僕はこの奇跡をすぐに母親に伝えようと部屋を飛び出した。やがて場が落ち着いた所でマールの御見舞は彼女の完全復帰パーティーに変わる。
「いやあ、マールが起きて良かったよ」
「結局あの魔法陣は何だったんだろうね?」
「謎の魔法陣だったね」
御見舞の為に用意していたお菓子を食べながら、みんなそれぞれが夢の中の話で盛り上がっている。それは確かにマールの夢にみんなが登場した事の証明にもなっていた。話が魔法陣の話題に移り、一番の功労者のなおにマールは声をかける。
「なおちゃんはどんな感じだった?」
「私もよく分かりません。ただ、悪い感じはしなかったですね」
この談義の中で唯一の部外者だった僕は、話に混ざれない代わりに自分の気持ちを素直に口にする。
「原因とか今はどうでもいいよ。とにかくマールが無事に起きたってだけで僕は十分だよ」
「全く、とんちゃんは大げさなんだから……」
マールはそう言いながらまんざらでもないみたいだった。話はそれからも続いたものの、時間も遅くなったので西日が部屋を照らし始めた頃にお開きとなる。3人はぞろぞろと帰る為に彼女の部屋を後にした。
部屋の窓から外を眺めていたマールはそこから家を出る3人に見送りの挨拶をする。
「今日は色々と有難うー!また明日学校でね~!」
マールの挨拶に気付いたファルアはにっこり笑うと手を振って大声で返事を返した。
「明日はちゃんと自力で起きるんだぞー!」
「大丈夫だってば!」
こうして友達思いの優しい友人達のお陰で僕達は平穏な日常を取り戻す事が出来た。彼女達には本当、いくらお礼を言っても足りないよ。
で、当のマールはと言うと、長時間眠り続けていたはずなのにそんな素振りは全く見せず、全く元気そのものだった。
「ふ~、落ち着いたらまたお腹へっちゃった」
「寝ている間、何も食べていなかったもんね」
お腹の虫を元気良く鳴らすマールに僕は苦笑いをしながら口を開く。
「じゃ、お母さんに頼んでみよっか」
「よ~し、寝ていた分を取り戻すぞ~」
そうして眠り病なんて最初からなかったみたいに、またそれまでと同じ時間が動き始める。変わらない日常がどれだけ有り難い事か、寝ていたマール以外はしみじみとそれを実感していた。
平和な一日はそうして過ぎ去り、やがて次の日の朝を迎える。いつものように中々起きないマールに僕は少し心配になりながら声をかける。
「マール、朝だよ、起きてよ!」
「むにゃあ……」
この反応、また眠り病にかかってしまったのか、それとももっと眠っていたいが故の狸寝入りなのか……判断に困った僕は一計を案じる。
「起きないなら……このとっておきの猫パンチで……」
「わわっ!起きた!起きたから!」
猫パンチはゴメンだとマールは直ぐに目を覚ました。その目覚めた顔を見て安心した僕は気持ちを切り替え、すぐに支度するようにと彼女を急き立てるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます