謎の魔法陣

第53話 謎の魔法陣 前編

「ここ?」


「あ、そうです。この奥にこの世界にそぐわない力を感じます」


 なおの感じた場所とファルアが見つけたその場所はやはり同じ場所を示すもののようだった。答え合わせが済んだと言う事で、今度はその正体を確かめるかどうかの議論に突入する。

 そこで慎重派のゆんがまず最初に口を開いた。


「ここ、洞窟じゃん。明らかに怪しいって」


「でも、何もしなかったらマールは一生起きる事はないんだよ?」


 消極的なゆんに対し、前向きなファルアが彼女を説得する。それから更に言葉を続けた。


「何が起こっても結局は夢なんだし行ってみようよ」


「マール?どうする?」


 問い詰められた形になったゆんは判断を夢の当事者であるマールに委ねる。彼女は集まったみんなの顔をゆっくりと見回し、決断する。


「折角だから行ってみよう!」


 この言葉によって洞窟探検をする事が決定する。4人はぞろぞろとこのいかにも怪しげな洞窟に足を踏み入れていった。洞窟の中は特におかしい感じもなくて、ただ岩がくり抜かれたような感じの普通の洞窟のようだ。

 ひとつだけ違うところがあるとするなら、普通なら奥に進むに連れ光が届かなくなっていくはずなのに、この洞窟はどこまで奥に入ってもずっと明るいと言う事だった。きっとこれは夢の世界ならではの現象なのだろう。


「どう?何か感じる?」


 探索隊の先頭はこの洞窟の気配をいち早く察したなおが努めている。ただ、どれだけ洞窟の奥に進んでも、彼女以外のメンバーはなおが感じた程の違和感を感じきれないでいた。その事に対して逆に彼女は他のメンバーの感覚の方が信じられないと言う感想を抱くのだった。


「皆さんは何も感じないんですか?」


 なおの質問を受けて、改めて感覚を研ぎ澄ませたマールはこの洞窟の印象を口にする。


「うーん、何となく違和感みたいなものは感じるけど……」


「でも、危険なものは感じないね。私達以外の人の気配とかも全然感じないし」


 マールの言葉に呼応するようにファルアが続ける。

 洞窟は外からの見た目よりかなり深い一本道で、メンバー全員歩くのにも飽き始めていた。どこまで歩いても道が続いているように感じて、後は誰が最初に音を上げるかと言う段階にまでなっている。


 この洞窟の先に違和感の正体が本当にあるのかすら確証が揺らぎ始めていた中で、突然アクシデントが訪れた。

 この突然のトラブルに思わずゆんが大声を上げる。


「ちょ、道が別れてるよ」


 そう、今まで一本道だったこの洞窟がここに来て突然二手に分かれてしまっていたのだ。どちらの道に進めば正解なのか、その判断をマールは感覚の鋭いなおに委ねる。


「どう?なおちゃん」


「右側の方が強く力を感じますね」


「よし、じゃあそっちに行こう」


 みんなは彼女の言葉を信じ、一切迷う事なく行き先を決める。右側の道を進む一行はまたしても変わらない景色に退屈し始めた。そろそろ黙って歩くのも限界になっていたところで、まずはゆんが喋り始める。


「普通さ、洞窟って暗いもんじゃん」


「ああ、確かにこの洞窟はボワっと光ってる感じだね」


 彼女が語ったこの洞窟の違和感にマールが相槌を打つ。すると、この疑問に対してファルアが自説を展開した。


「ここが夢の中だからじゃないの?」


「まー、確かにそうなんだけど」


 このファルア説にゆんは取り敢えずの納得をする。ただ、彼女の疑問はそこで終わらなかった。


「この病気ってさ、誰かから感染された訳じゃん、多分」


 ゆんの次の疑問はこの夢自体についてだった。彼女の話を聞いたマールは曖昧な返事を返す。


「どうなんだろうねー」


「マールはそんな自覚ある?」


「全然?」


 この夢については流行り始めから色んな人が色んな仮説を出していて、そのどれもが決定的なものとは言えないものだった。夢を見た当人達に聞き取り調査をしても、特に全員に共通する項目は見つからないままで、原因の究明はほとんど進んでいない。

 現在感染しているマールもどうしてこんな事になってしまったのか全く思い当たる節がないようだ。


 マールの反応を受けたゆんはポツリと言葉を漏らす。


「謎だよね、この夢って」


「夢なんてみんな謎だよ。だって夢なんだもん」


 このつぶやきにファルアが言葉を返す。その身も蓋もない結論に彼女は嘆くように言葉を続ける。


「あー、どうせならしずるにも話を聞いておけば良かったかも」


「もう遅いって。それに本職のお医者さんがお手上げなんだから、彼女だって何も知らないんじゃない?」


「いや、分かんないよー。世界の闇に関する重要事項かも知れないしさあ」


 こうしてゆんとファルアの問答は続く。マールとなおはその会話に入るタイミングを失って2人の話をただ黙って聞いていた。


「もしそうなら余計私達に話してくれなくない?」


「真実は話してくれなくても、目の色くらいは変わったかもだよ?」


「そこも悟られないように訓練してるからこそ、重要な仕事を任されているんじゃないかなあ……」


「だよねえ。しずるって抱えている秘密が多そう……」


 話の結論が見えて来たところで、この洞窟の冒険にも終わりが見えて来ていた。進行方向の道の先に何やら不思議な光が見えて来たのだ。どうやらそこがこの洞窟の終着点らしい。


「あ、見えて来ましたよ」


「な、何これ?」


 この洞窟の果てにあったのは大きな広い行き止まりの部屋。大きさは学校の体育館くらいあってその中央にはその光の正体の魔法陣が描かれている。

 天井も高く、目測で20mくらいはあるだろうか。光を放つ魔法陣は直径が10mほどとかなり大きい。魔法陣をよく見ようと4人が近付くと、その不思議な光景にみんな目を奪われてしまう。


「嘘でしょ。常に術式が変わり続ける魔法陣なんて……」


「この夢が覚めないのはこう言う理由だったのかあ」


 ゆんとファルアがそれそれ感想を漏らしたその魔法陣は、2人の言葉通りに方円の中の文様が忙しなく変わり続けていた。こんな魔法陣は4人の誰も見た事がなかった。それどころか、きっとフォーリン諸島の誰も見た事はないだろう。

 マールもまたこの不思議な魔法陣を目にして言葉を漏らす。


「こんなの見た事ないよ」


「見た事ないって言うか、これって何なの?本当にこれが覚めない夢の原因なの?」


 この夢ならではの不思議現象にゆんはパニックになっていた。怒涛の質問詰めにマールは顎に指を当てて慎重に回答する。


「どうなんだろう?むちゃくちゃ怪しいのは間違いないけど」


 洞窟に隠された真実が明らかになって反応はみんなそれぞれ違ったけれど、怖がるゆんに対して逆にファルアはかなり興味津々になっていた。

 じいっとこの魔法陣を眺めながら彼女は興奮気味にマールに話しかける。


「でも折角ここまで来たんだから何かやってみない?」


「何かって……何?」


 ファルアの質問にマールは困惑する。


「まずは安全かどうか確かめてみようか」


 彼女はそう言うと足元にあった石ころを拾ってひょいとその魔法陣の上に軽く放り投げた。石は魔法陣の効果エリアに接触した瞬間、見えない壁にぶつかってものすごい勢いで弾き返される。


「うわっ!」


「危ないよ、これ……」

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