第42話 遠足 その3
「お、言ったね?じゃあみんな当日まで秘密にしようか」
その言葉にこう言う試みが好きなゆんも早速同調する。
「面白いじゃない、乗った!」
「こう言うので楽しめるのも遠足の良さだよね」
そう言う訳でみんな遠足で持参するおやつは当日まで秘密と言う事になった。マールはみんなが話に乗ってくれた事で更に遠足が楽しみになったみたいだった。
放課後、一旦家に帰ったマールは軍資金をたっぷりと用意して近所のスーパーにおやつを買いに出かける。それから一時間近く経って戻って来たマールの両手にはひとつずつ大きい袋が下げられていた。
「で、それだけ買ったの?遠足一回じゃ食べ切れないでしょ」
「ぜ、全部持っていく訳じゃないし!」
僕の指摘を受けたマールは顔を真赤にして反論する。彼女は早速買ってきたお菓子を机の上に並べ始めた。その購入したお菓子を眺めていた僕はそのラインナップに疑問を感じてそれを素直に口に出す。
「袋菓子はみんなで分けられるとして、何で個包装でないのを大袋で買っちゃったのさ」
「だって、小さい袋のお菓子って割高だし……」
「これじゃ、買った割に持っていけるのは少なそうだね」
マールのその返答に僕は呆れて言葉を返す。家で食べるならそう言うのを買うのも分かるけど、遠足用だと持っていく事も考えないといけない訳で――。
そう言うのを全く考慮していないのはどうかと思う。この僕の言葉にカチンと来たのか彼女はヘソを曲げる。
「いや、持っていくね!折角買ったんだし」
「全く、遠足で行くその場所を楽しむんだか、食事を楽しみにしているんだか……」
「そんなの決まってるじゃない。いい景色の中でごはんを食べるのが遠足だよ」
マールの遠足の目的を聞いた僕は呆れて言葉が出なかった。それから彼女は真剣に遠足に持っていくお菓子を吟味し始める。下手に興味を持つと今度はどんなとばっちりが来るか分からないと感じた僕はすぐに布団に潜り込んだ。
真剣に悩むマールは寝る時間を過ぎても吟味をし続けたのだった。
そうしてまた時は流れ、ついに遠足の日がやって来た。この日を祝福するかのように天気は快晴で、まさしく絶好の遠足日和と言った風情だ。
いつもと違うざわざわと騒がしいクラスの雰囲気に興奮状態のマールは、遠足用のリュックを背負いながらみんなに話しかける。
「いやぁ、今日がいい天気で良かったよ」
「いい遠足日和だよねぇ」
マールの言葉にゆんが答える。彼女以外のメンバーもみんないい笑顔で、もうすぐ始まる遠足の出発を今か今かと楽しみにしていた。
「皆さん、それじゃあ行きますよー」
時間になって教室に入って来た先生が声をかける。生徒達は先生の声を聞いてそのまま席を立ってぞろぞろと歩き始めた。
この学校の遠足は社会見学の時と同じようにクラス毎に目的地が違う。なので校門を出るまでは大勢で移動するものの、出てしまえばクラス単位で別れてそれぞれの場所へと向かう事になる。
ある程度歩いたところでマールはみんなに声をかけた。
「ねぇ、しりとりでもしよっか」
「いいねー。じゃあ私から!うさぎ岬のみ!」
このマールの提案にファルアが速攻で乗って来た。更にしりとりの主導権まで握られてマールは少々戸惑ってしまう。困った彼女は仕方なく二番手に甘える事となった。
しりとりのセオリーから言えば岬の『き』となるところが『み』になっていたものの、細かい事は気にしないマールは何も考えずに素直に『み』の付いた言葉を頭の中で検索する。そこで閃いた彼女は特に何も考えずに思いついた言葉をそのまま口に出した。
「み、み……みかん!」
「マール……」
このいきなり終わってしまったしりとりにゆんが憐れみの言葉を漏らす。すぐに意味の分かったマールは焦って言い訳をするものの、しりとりはその後、仕切り直してゆんから再開した。今度は結構うまく巡って遠足でのいい暇潰しになるのだった。
やがて思いつく言葉が大体出尽くしたところでこのしりとりは自然消滅する。
しりとりが終わった後はいつも通りの他愛もない話で場を繋いでいく。真っ青な青空の下での会話もまた楽しく弾むのだった。
「不思議だねー」
「え?」
マールのその言葉にゆんが聞き返す。マールは腕を頭の後ろに組んで得意げにその理由を口にした。
「ただこうして歩いているだけなのにさ、こんなに楽しいんだもん」
「今日がいい天気だって言うのも良かったんだろうね」
マールの話す理由を聞いて納得したゆんは自分の感じた楽しい理由を返事として返し、その返事にマールも同意する。
「確かに。曇っていたらテンション上がらなかっただろうね」
「風が気持ちいいね~」
ちょうどその時、心地良い風が頬を撫でた為、マールはそれをそのまま口にする。風を受けた事でピーンと閃いた彼女は側を歩くファルアに今の気持ちを尋ねる。
「ファルアはやっぱ走りたくなったりする?」
「ちょっとはね。でもこうして歩くのも楽しいよ」
質問されたファルアは彼女に自分の気持ちを素直に答えた。その言葉を聞いたゆんが皮肉っぽくマールに言う。
「マールも普段運動嫌いですぐ音を上げるのに遠足楽しそうじゃない」
「運動と遠足は違うもん」
「だよねー」
そう言う感じで3人が会話を続けていると、なおもその会話に参戦して口を開いた。
「結構歩きますね」
「あ、なおちゃんは遠足初めてだっけ?遠足てこんなもんだよ。目的地に着くと自動的にお昼くらいになるようになってるの」
「ちゃんと計算されてるんですね」
初めての遠足に少し戸惑っているなおにマールは遠足の仕組みを説明する。彼女の説明に納得したなおはこの遠足と言うイベントに感心していた。
そのやり取りを聞いていたファルアが補足するようになおに言葉をかける。
「逆に言えばただ歩くだけなんだけどさ」
「それが遠足のいいところなんだよ」
ファルアに続いてゆんもなおに遠足について話しかけていた。それは初めての遠足をどうか楽しいものだと感じて欲しいと言う、彼女なりの親切心からなのかも知れない。
そうしてなおを含めた4人で楽しく話しながら歩いていると、やがて周りの景色の変化を感じた彼女がある事に気付く。
「あー、何だか海が近付いて来たような気がします」
「うん、もうすぐうさぎ岬だよ」
なおの言葉を聞いてマールは遠足の目的地が近付いて来た事を彼女に説明する。そう語った後、すぐにマール達クラス一行はみんな無事にうさぎ岬に到着した。
岬に着いたみんなは背を伸ばしたり、ストレッチをしたり、あくびをしたりとそれぞれ自由なリアクションをする。
初めて岬に来たなおはその新鮮な景色に辺りを興味深く見渡して素直に感動していた。
「ここがうさぎ岬なんですね」
「どう、いい景色でしょ」
感動する彼女を見てファルアが声をかける。岬から見た景色はとても壮大で美しいものだった。目の前の果てしのない海は太陽の光が反射してキラキラと光っている。
今日は天気が良かったので、海と空の境界線がとてもはっきりと幻想的に見えていた。
そんな景色を見ていたマールはその景色を前にしてその時感じた事を素直に口にする。
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