第37話 妖精を探して その3

「全員揃ったぁ~?」


 一応、お約束のようにマールが全員に声をかける。人数が4人なのだから言うまでもないんだけど、みんなちょっとふざけて点呼を取ったりしていた。


「じゃ、行こっか」


 このマールの言葉を合図に4人は森へと入っていく。妖精騒ぎの前からこの森は観光地として整備されているので、休日ともなればかなりの観光客で賑わっている。森の入口の入場ゲートで入森料を払って、4人は期待に胸を膨らませながらこの島で一番大きな森に足を踏み入れた。


「コンロンの森……この森はこの島で一番大きいんだよ」


「確かに何か潜んでいそうですね」


 この森が初めてのなおにマールが説明する。彼女は森の雰囲気に圧倒されているみたいだった。


「危険な動物とかはいないから安心してね」


「昔は狼とかいたらしいけどね」


 マールが森の安全性を説明していると、横からゆんが口を挟んで来た。間髪をいれずにファルアもこの話に参加する。


「実は森の奥にはまだいたりして……」


「ちょ、やめてよ!」


 怖がりなマールはすぐにこの話を止めようとする。そのやり取りを見たなおはおかしくてクスクスと笑う。


 森は朝からいつもの休日よりも賑わっている。道はまるで行列のように人が並んでいて自由に動く事も難しいくらい。いくらここが有数の観光地だからって、特別なイベントでもない限りここまで人が集まる事はないはずなのに――。マールはその違和感についてみんなに話しかける。


「ねぇ、この森ってこんなに人が多かったっけ?」


「やっぱ妖精効果じゃないの?みんな考える事は同じなんだよ」


「これだけ賑やかだと本当に妖精がいても出て来てくれないかもね」


 マールの質問にゆんとファルアがそれぞれの見解を述べていた。この言葉を聞いて

 彼女はため息を付く。


「ああ、ちょっと安直に考え過ぎたかなぁ」


「でもこの島で本格的な森ってここくらいじゃない?だから人がこれだけ集まってるんだよ」


 今日森に来る事を提案した事を反省するマールにゆんが励ますように声をかける。そのやり取りを見ていたファルアが言葉を続けた。


「妖精だって羽もあるし普通に移動するからね」


「じゃあどうするの?今から別の場所に行く?」


 横から色々言われてヤケになったマールはちょっとキレ気味に言葉を返した。折角の休日にトラブルを避けたいゆんはマールを慰めるように声をかける。


「とりあえず森の奥まで行ってみて何もなかったら場所を変えよっか」


「だね~」


 ゆんの言葉にとりあえず平常心を取り戻したマールは、妖精の探索に専念する事にした。妖精の探索と言っても、基本的にキョロキョロと森の中を見渡すだけ。妖精がいたら普通に目に見える魔法使いにとって、それが一番確実で簡単な方法だった。

 今日この森に来ている観光客は多分殆どが妖精目当てで、だからこそ人の列は中々進まない。少しずつしか進めない中でマールはみんなに声をかける。


「ねぇ、普通に整備された道を歩くだけじゃあ見つからないんじゃない?」


「人も多いしねぇ。みんな妖精探しで必死になっているから、もし妖精がいても警戒してこの道の近くでは出現しなさそう」


 このマールの言葉にファルアが反応する。彼女もこの状況に少し疲れているみたいだった。


「だからさ、ちょっと道を外れてみるんだよ、そうしたら……」


 ファルアの言葉を受けてマールは興奮気味に答える。そのやり取りを聞いていたゆんは会話に潜む危険を察知してそれを止めようと口を開いた。


「メインルートは外れるのは危ないよ。いくらここが管理された安全な森だからって……」


「分かってるよ、たださ……」


 心配するゆんを安心させようとマールが口を開いた瞬間だった。整備されているはずの山道で彼女は足を滑らせてしまう。


「あっ!」


 それは列を先行していたゆんとファルアが目を離した隙での出来事だった。余りにも自然に音もなく滑り落ちていくマールに気付いたのは、彼女のすぐ後ろを歩いていたなおただひとりだけ。

 山道はちゃんと整備されていたはずで、この時どうしてマールが滑ってしまったのか不思議なくらいだった。


「……あいたたた。かなり落ちちゃったなあ」


 一方、滑落した側のマールは意外にもほぼ無傷で森の下層に辿り着いていた。滑って来た山道を見上げて途方に暮れるものの、すぐに気を取り直してみんなに無事を伝えようと携帯を取り出す。


「とりあえず、無事を報告……えっ?」


 コンロンの森はしっかり整備されているので、よっぽど辺鄙な場所にでも行かない限り携帯の電波は届いている――はずだった。

 そのはずなのに、取り出した携帯の液晶ディスプレイに表示されていたのは圏外の2文字。この状況にマールは軽い絶望を覚えていた。


 しばらくは何も考えられなかった彼女だけど、自分の魔法能力を思い出し、次はそっち方面で連絡を取ろうと考える。


「機械が駄目なら、テレパシーで……」


 ちなみに、マールが今までテレパシー系の魔法を試した事は一度もない。

 経験はなくてもやってみたら出来たって事例はよくある話だけど、それにならって一か八かに賭けてみたようだ。


 彼女はまず呼吸を整えて、それから意識を集中してみんなに向けて念を飛ばす。それを何回か試したものの、正式にテレパシー系の魔法を学んだ訳でもなく自己流で挑戦したのが良くなかったのか、マールの念が誰かに届いたと言う手応えを彼女が感じる事はなかった。


「あ~あ」


 やれる事、思いつく事を全部試してその全てがことごとく失敗したマールは、その場にぺたりと座り込んでふさぎ込む。

 それから数分後、近付く足音を聞いた彼女は立ち上がり、その足音が聞こえてくる方に顔を向ける。


「マールちゃん?」


「なおちゃん?どうしてここに?」


 そう、マールに近付く足音の正体はなおだった。その突然の登場にマールは混乱し、彼女に事情を尋ねる。


「マールちゃんが足を踏み外した時にすぐに私も追ったんです。多分みんなも後で来るんじゃないでしょうか?」


 なおの説明を聞いて安心したのか、マールはため息をひとつこぼす。それから今自分が置かれている状況を身ぶり手ぶりを加えて説明した。


「そっか、ありがと。聞いてよ、ここ電波が届かないんだ。この島でそんな場所がある訳がな……」


 そこまで話してマールは急に口を閉じた。それはまるで何か重大な事に気付いたような雰囲気だった。この豹変に疑問を感じたなおは彼女に何があったのか尋ねる。


「ん?どうしたんですか?」


「誰かが……呼んでる……?」


 マールは誰かの呼び声を耳にしたらしい。

 けれど一緒にいたはずのなおにその声は聞こえていなかった。なのでその声に導かれるように歩いて行くマールに危険なものを感じるのだった。


「マールちゃん?待って!」


 なおの呼び止める声が聞こえないのかマールは歩みを止めない。言い方を変えれば聞いてくれるかと思った彼女は再度マールを呼び止めた。


「救助を待つなら動かないのが鉄則ですよ!」


 その声を聞いたマールは一旦歩みを止めてなおの方に振り返るとポツリとつぶやいた。


「私は待ってないよ。呼ばれてるんだよ」


「何を……」


 自分には聞こえない声を聞いているマールの言葉になおは不気味なものを感じ、少したじろぐのだった。

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